45話 力と代償
━━━精霊の森━━━
「あぁぁぁぁ」
森に叫びが木霊する。
叫びの主はボロ雑巾の様な服を着て、何かから逃げるように全力で入っている。
「おらおら!チンタラ走ってんじゃねえ」
叫びながら追ってくる女から蹴りが入る。
「痛っ!」
「当たり前だろ痛くしてんだから」
さも当然の様に言う、1度蹴りが入った箇所の布地は裂け、肌は赤く膨れ上がっている。
「今日も…扱かれていますね」
その光景を眺めながら、座っている少女は呟く。
「皆、ごはん、出来たよ」
「カルミナ、飯だ!」
「…はぁ、疲れたぁぁ」
心の奥底から溢れ出る言葉はいつもと同じ。
「お疲れ様です、どうぞ水ですよ」
「ありがとう」
先程まで座っていた少女が葉で作ったコップに注がれた水を差し出した。
一口飲むと傷が治っていく、この水は少女、クイーナのスキル『生命ノ雫』で生み出した水、飲めば身体の強化、自然治癒の速度を上昇させる。
「おいしい」
「ふふ、なら良かったです」
「ここの所毎日飲んでんだけど、少しずつ甘くなってる気がする」
「気づきました?疲れていると思ったので少しずつ甘くしてるのです」
2人で談笑をしていると先程食事の準備をしていた少年が声を掛ける。
「早く、たべよ?、冷めちゃう」
「…あ、ああ」
一瞬ビクリと肩を揺らし返事を同時にする。
「…飯くらい、イチャつかずに食えないのか?」
眉間にシワを寄せ、青筋を立てて言う。
「姉様、いじめてあげないでください」
「…わあったよ」
ウィンディは投げやりに答える。
「こほん、今日の、料理、レッドサーペントの煮付け」
「「「いただきます」」」
こうして、いつも通りの食事が始まる。
食事が終わり、カルミナはくつろいでいたのだが、ウィンディに呼び出される。
「カルミナ、気付いてると思うが、お前の体は既に人間では無くなっている。あたしは鑑定眼を持っていないから分からないが、恐らくは半竜人になっているだろう、そこで”龍人剣舞”という、魔法を教える、この魔法は太古の昔龍人が捨てた魔法だが、最高峰のステータスアップの魔法である事には違いない、欠点として発動中は魔力が使えなくなるというデメリットがあるが、それを除いても強いぞ」
「なら何で捨てたんだ?」
「龍人の強さは魔力の裏付けがあってこそだ、あたしの様な異質以外は使いこなせないだろう、お前は魔力こそ少ないがそれを補って余りある程の戦闘センスを持っている、数千年程経てばあたしを超えるだろう」
ため息をつき、単刀直入に言うが、という前置きをし口を開いた。
「お前は強くなったが体がついて行かない」
「なんとなくは気付いていた、このまま体に戻っても今以上の強さは得られないんだろ?」
「そうだ、だから身体なしでも戦えるようにしなくちゃならない、そのために”聖なる霊剣 カリバーン”を与える、だが、もしも、剣に認められなければお前は…死ぬ」
いつもなら、死んでこい、ぐらい言いそうなウィンディが、見たこともないくらいに、苦虫を噛み潰したような表情でそう言った。
「分かった、どこにあるんだ?」
それがどうしたと言わんばかりにカルミナはそう答えた。
「フッ、心配して損した」
表情が一転して笑顔になり、カルミナの肩を叩き、小さく、生きて帰ってこい、と言った。
「え?」
カルミナは聞き返した。
「何でもない、それより、クイーナを悲しませたら、何回でも殺してやるからな?」
「ああ、生きて帰ってくるよ」
ウィンディは、聞こえてんじゃねえか、と笑いながら言った。
「この森の最深部、そこに試練の場がある、そこにあるカリバーンに触れろ、いいな?」
「一人か?」
「そうだ」
試練の場、それはかつて誰も使いこなせなかった七聖剣の一つ”聖なる霊剣 カリバーン”が祀られている場所、その剣は羽のように軽く、鋼鉄だろうと、魔鋼だろうと簡単に切り裂く、そしてたとえ欠けたとしても次第に治っていく。
100を超える鍛冶師が打ち直し、魂を込めたその剣は闇を切り裂き魂を断つ最強の武器となる。
(中は広いんだな……)
木を潜り試練の場に入る、中は広く、湖のほとりに剣が刺さっている。
(これか?)
カルミナが剣に触れ、剣を抜く、一瞬景色が見えなくなり、先程まで湖があった場所には城が、そしてカルミナが立っていたのは切り立った丘の上だ。
(瞬間移動か!?)
「新たな王だ!、キャメロットに新たな王が誕生した!」
一人の杖をついた老人が叫び、またしても景色が変わる。
(どういう事だ?)
切り立った丘には兵士の死体、カルミナの手には槍が、その先には一人の男が刺さっている。
「……貴方は私を!王とは認めなかった!子とは認めなかった……私は貴方に認めて欲しかった………それだけなんだ…………」
そう泣きながら言い残し、男は息絶えた。
目まぐるしく景色が変わっていく、中世、近代と、恐らく剣の記憶。
変わる景色はやがて、何も移さなくなる、暗く深淵のように何も無い世界。
(……)
剣の記憶を断片的に見ている訳では無い、全て経験してきた、キャメロットに攻めてくる敵との戦いも、丘での戦いも、全て全てすべてすべて、千年以上に渡る剣の記憶を、戦いの記録も、出会いも別れも、全て、それは精神を崩壊させるには十分に
だが、それでもカルミナは意識を保っていた。
ここでの意識の喪失が死を意味する事を、無意識下で気付いていたのだ。
(………疲れた)
そして深淵が終わる、暖かな光に包まれている、そこには100人程の屈強な男達がいる。
(……誰だ?)
男達は皆満面の笑みで、
「合格だ」
そう言った。
「は?」
男が一人こちらに歩き肩を貸す。
「お前さんは俺らの魂を、誇りを受け継いだ、だから剣に認められた」
「あんたは記憶の中で何回死んだ?」
「覚えてない」
「だろうな、あの剣は俺ら全員の死を経験してる、百回は下らねえ」
「ここは選定の場であると同時に精神の鍛錬を行う場所じゃ」
「お主は見事耐え抜いた、だから、合格だ、カリバーンを持つ資格を得た、後は使いこなせれば文句は無い」
そう言い男達は光の粒となり、次々に消えて行く、最後に残ったのは隠れていて見えなかった女、女が一言だけ、
「せいぜい頑張れよ」
そう言い残し消えた。
カルミナが目を覚まし、周りを見る。
剣に触れる前に見た景色だ。
手には装飾が最低限施された黄金の剣が握られていた。
しかし、カルミナは数十年分程老けていた。
見た目年齢で言えば20代後半、髪は伸び、傷んでいた。




