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43話 旭日

 

 ━━━王立魔道騎士育成学院 フェレノア 六階 特別室━━━


 豪華とは言えない白のベッドに一人の少女が横たわっている。

 髪は紅く、眠っているかのような安らかな表情で、まるでそこだけ時が止まっているのかと思うほどに、微動打にしない。


「…フェルナ、ただいま」


 雪乃は涙を堪えながらそう言った。

 しかしフェルナは何も喋らない。


「生きて、いたんですね」


 涙を流したのは意外にもレイリエルだった。


「えっ?」

「すいません、ユキノさん、貴方の覚悟、無駄にしてしまうかもしれません」

「まさか!」

「ああ、違います、別に治せないとかじゃないです、私はこの人に返しきれないほどの恩があるんです、だから、だから」


 レイリエルの瞳からは堪えきれずに涙が溢れ出す。


「え〜っと、詳しい事は聞かない、もしあれだったら俺は部屋を出るけど?」

「…ありがとうございます、でも、大丈夫です」


 レイリエルは涙を拭き、微笑んで、フェルナの手を優しく握る。


「彼女の寄る辺となり道を照らせ、苦難の道を、落日しようとも照らし道標となれ、慈悲之女王ロード・フィランスロピーよ」


 スキルの効果は一つではない、それがアルティメットクラスのスキルならば尚更だ、慈悲之女王ロード・フィランスロピーの能力は、同期、回復強化、そして”魂の再生”だ、対象者の魂の欠損などを再生出来る。

 だが、使い手に莫大な不可がかかる。


「……ッ」


 レイリエルはフェルナに覆い被さるように倒れた、純白のシーツにジワジワと赤い液体が染み出していく。


「!? 大丈夫か!」


 雪乃はレイリエルの体を起こそうとするが、手が雪乃を制止させた。


「ユキノ、手は出すな」


 手の主はハスディアだった。


「邪魔になる」


 ハスディアはレイリエルを見つめそう言った。


「…分かった」



 レイリエルの羽がビクビクと痙攣を起こした。


(イッダダダッ…ア゛ア゛ア゛ア゛ア)


 レイリエルの体はフェルナが受けた魂の損傷を全て肩代わりしている。

 その痛みは計り知れない。


 神経に溶けた鉄を流されるような痛み、肺が握り潰されるような息苦しさ。

 呼吸は荒くなり、痛みを紛らわすために握り締めた拳からは血が滴っている。


「戻って来て! 姉さん!!」


 レイリエルは叫んだ、再生が完了したのだ。

 あとはフェルナが生きる意思があるかどうか。



「フェリレイ、酷い顔だ」


 レイリエルの目から流れる血を優しく拭き取り抱きしめた。


「何で、分かったん、ですか?」


 涙が溢れ出す、そのせいで上手く喋れていない。


「自分の妹が分からないはずが無いだろう」

「でも! 転生しているんですよ! 違うかもしれないじゃないですか!」


 レイリエルの言葉にフェルナは困ったような表情を浮かべ、


「我の、いや、私の為にここまでしてくれたんだ、お前はフェリレイだ、優しい自慢の妹だ」


 と、笑いレイリエルの頭を撫でた。

 その言葉で、またしてもレイリエルの瞳から涙が溢れる。


「本当は、本当は、気がついても名乗るつもりは無かったの、覚えてないかもしれないから、忘れられてたら怖いから、だから、治ったらすぐに帰るつもりだった、でも、分かってくれた、ありがとう、姉さん」


 泣きじゃくりながらもレイリエルは伝える。


「忘れる訳が無い、転生しようとお前は私の家族だ」


 フェルナは泣きじゃくるレイリエルをあやす様に優しく撫でる。



「…出てくか」

「…そうですね」


 雪乃達は静かに部屋を出ようとする。


「待て、何を出ていこうとしているのだ」


 だが、フェルナに止められてしまう。


「お邪魔かな〜 って思って」

「邪魔なわけ無かろう、そうだった、心配させたな、ユキノ」

「気に、すんな」


 雪乃の瞳からも涙が溢れ出す。


「泣かせてしまったな、こい、涙を拭いてやろう」


 雪乃は戸惑うがレイリエルに腕を掴まれフェルナの方へと引き寄せる。


「遠慮なんて、許しません、姉さんの心遣いを無駄にするつもりですか?」

「…分かった」


 雪乃はされるがままにフェルナに撫でられる。


「姉さん、ユキノさんってレノくんに似てますよね?」

「ああ、そうだな」

「生まれ変わり、でしょうかね?」

「違うな、他人の空似だ」

「?」

「ああ、気にするな、ただの世間話だ」


 フェルナとレイリエルの会話に雪乃はついていけない、が、フェルナが会話を終わらせた。


「ユキノ、肩慣らしに付き合ってくれ」


 レイリエルは迷宮に帰り、メリアも積み重なった仕事を片付ける為に王宮に帰った。

 部屋にはフェルナとユキノしか居ない、静かな部屋にフェルナの言葉だけが響いていた。


「…分かった」


 雪乃は笑顔でそう答えた。



 場所は変わり、フェレノアの広い校庭。

 そこには数千の人がごった返していた、理由は我が国ノルデアンの初代国王の娘で龍人ドラゴニュードのフェルナと勇者の資格を持つ男雪乃が戦うのだ、見逃す訳には行かないのだろう。


「ユキノ、武器はどうした?」

「ハイリルなら壊れた」

「そうか、手加減してやろうか?」

「病み上がり相手に手を抜かれるほど俺は弱くねえよ」

「…フハハッ、言うようになったな、いいだろう、本気で行ってやろう」


 フェルナの魔力が急激に膨れ上がり、辺りの気温が上昇する。

 対して雪乃の魔力は静かに、水面の様に静かに上昇している。


 対極のような二人、先に動いたのは意外にも雪乃だった。


 杖を作り出し距離を詰めて薙ぎ払う、しかし、右手で受け止められ、熱量によって溶かされる。

 刹那、フェルナの顎が打ち上げられる。

 雪乃の構えは右半身を前に出す、死角に左手を隠して杖を作り出していた。


 フェルナクラスであれば魔力感知で通常この様な小手先の技は通用しない、しかし、雪乃は魔力を全身を覆うように展開し隠していた。


 決着まで、あと二手。


 フェルナが崩れる体制を利用し雪乃の腹を膝で蹴り上げる。


「コハッ!」


 雪乃は横隔膜を的確に打ち抜かれ、肺内の空気が全て押し出される。


(この位置だと、使えないな…)


 痛みに耐えながらも雪乃は考える、どうすれば一泡吹かせられるかを。

 雪乃は周りに人がいなければ絶対零度アブソリュートゼロを使うつもりでいた、それは、フェルナなら無事だろう、というある種の信頼があるからだ。


 決着まで、あと一手。


 雪乃はフェルナの左手を掴み、自分の方を支点に肘を極め、そのまま背負い投げる。


 雪乃の使う武術では、最初に空手や合気道を覚える。

 熟練度こそ低いものの、こちらでは、あまり素手での戦いは起こらない、だから、不意をつけた。


 しかし、フェルナは体をひねり足から着地、掴まれた腕を掴み返し引き寄せる、それと同時に右手で雪乃の顔を掴み地面に叩き付ける。


 地面にヒビが入り、陥没する。


 雪乃は辛うじて受身を取ったものの、威力を殺しきれずに意識を手放した。


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