42話 再会
━━━天界 廃━━━
「ッ、プハッ、あっぶねぇ〜 転移が間に合わなかったらやばかった」
汗と血を流し、息継ぎをするかのように肺に空気を貯める。
「にしても、随分と衰退しちまったな、ここも」
周りには朽ちた純白の柱が72本、そのうち半数以上が中心で折れている。
「ルシファー様! ルシファー様ですか?! よかった、貴方がいれば天界も立て直せます!」
「あ? お前は…」
「現在、戦士長補佐をしております、グラリエルと申します! ルシファー様に憧れ戦士として鍛え、補佐まで上り詰めました」
「そうか」
セシルは無表情のまま、グラリエルの心臓をえぐりだし、口に運ぶ。
「コフッ、何…を?」
グラリエル血を吐き出し崩れ落ちる。
「? 体力回復には心臓が一番いいんだぞ?」
悪びれる様子もなく、笑顔を浮かべた。
「ああ、安心しろ、破片も残さねえよ」
誰も聞いていないであろう虚空に話しかけ、翼で骸と化したグラリエルを覆い吸収した。
━━━フェレノア地下迷宮 74階層━━━
「ユキノー! 生きてるかー?」
ハスディアは大きく空いた穴から下を覗き込み叫んだ。
「割と無事ー!」
2階下から雪乃の間の抜けた声が聞こえる。
「そうか、よかった」
ハスディアは呟く、誰にも聞こえないように。
「よっ、と」
ハスディアは穴に向かって飛び降りる。
「申し訳ありません、ハスディア様、私はまたしてもお役に立つことが…」
「ッ…お前、ソレ、どうした…? 羽が…」
ハスディアはペルスェポネの余りにも痛々しい姿に言葉が出ない。
「ええ」
ペルスェポネは暗い笑みを浮かべた。
「治るのか?」
「どうでしょう? 私の羽は通常の悪魔とは違いますので」
ペルスェポネは自分の事ではないような淡白な反応を示した。
「私なら治せますよ」
眠りについている雪乃を膝に乗せたレイリエルが胸を張りそう言った。
「本当か!? 頼む!」
そう言ったのはハスディアだった。
「分かりました! では同期させますのでちょっと手を握って貰っても?」
「ええ、構いません」
そう言いペルスェポネは片膝を地面に付けレイリエルの手を優しく握る、その姿は主に忠誠を誓う騎士のように気高く美しかった。
レイリエルは雪乃の時と同じようにスキル”完全再生”を発動させる。
背中から純白の羽が生え、根元から黒く染まっていく。
「? 今の魔力、もしかして! 天使ですか?!」
「う〜ん、どうでしょう? フフッ、貴方にはそう見えますか?」
「見えません! あっ、貴方が天使に見えない、って事じゃなくて私の目が見えないって事です」
天使 レイリエルは盲目だ、生まれ落ち数千年、光と呼べる光景は主であるファザリエルしか居ない。
常に笑顔な理由はそこにある、レイリエルには瞳がない、それを隠すために瞼を閉じ、不自然にならないように口角を上げる。
「私は、天使ではありませんよ、異形の悪魔です」
ペルスェポネはそう艶やかに笑った。
「そうでしたか! それは失礼致しました!」
レイリエルの膝で眠りについていた雪乃が目を覚ました。
「お目覚めですか、具合の程は?」
レイリエルはにこやかに優しい声で雪乃に笑いかける。
「傷はもう痛まない、ありがとう、それと膝もありがとう、なんて礼を言えばいいのか」
「いいんですよ、私も千年ぶりくらいに人と触れ合えましたから」
「それで、頼みが、あるんだ… 俺の恩人を助けて欲しい、礼も済んでいないのに、失礼な話だとは思う、でも、どうしても助けたいんだ」
雪乃は頭を地面に擦りつける、それは日本でいう土下座だ。
「…その人は、貴方にとって、どんな人ですか?」
「あいつは、俺にとって、姉、みたいな人だ、時々からかってくる、でも、優しい、と思う。
まだ出会って2週間も経っていないのにとても、他人とは思えないんだ。
そいつが、さっきの奴に、殺されかけた、命はあるが、意識が無いらしい、助けられるかもしれない方法がここにあるって聞いてここまで来たんだ」
「…分かりました、では、貴方は何を差し出せますか?」
「……身体、いや、命を、俺の全てを!」
覚悟のある雪乃の言葉にレイリエルは何も言わずに、ただ雪乃を見ていた。
少しの間の後レイリエルは口を開いた。
「貴方の心に嘘偽りは無い、それほどまでに貴方は彼女を助けたいのですね」
レイリエルは雪乃の手を引く。
「さあ、善は急げ、です、行きましょう」
柔らかい笑みを浮かべたレイリエルは純白の羽を広げ、雪乃を抱きかかえて羽ばたく。
「さ、貴方達も帰りなんし」
珠雲は念力で瓦礫から足場を作り、ハスディア達を地上へと送り出す。
「すまないな、攻略者だと言うのに甘えてばっかりで」
フレナドールが珠雲に頭を下げる。
「気にしないでくんなまし」
珠雲は頬を赤らめ、顔をそむけ照れたようにそう吐き捨てた。
━━━王立魔道騎士育成学院 フェレノア━━━
学長室の一際豪華な椅子に座った女性は机を指で叩き、イライラしている事が見てわかる。
「あ、あのぉ」
「なんでしょうか」
丁寧な口調にもかかわらず、話しかけた男は萎縮している。
それも仕方ないだろう、相手はメリアなのだ、目の下にクマを作り元々鋭かった眼光が更に鋭く、射殺さんばかりの目で見られてしまえばどんな相手でも萎縮してしまうだろう。
「彼らが帰ってきたそうです」
「! 本当ですか!?」
メリアは目を見開き、走って隣の部屋へ向かう。
「ヒムニ! スレイ! 彼等が帰って来ました!」
隣の部屋はフェルナのために用意された部屋だ。
「! 行こう、迎えに」
「うん!」
スレイはメリアを抱きかかえ走る。
「ごめんなさい! でも、このままだとメリア様が倒れそうだったから」
「ふふ、ありがとうございます」
メリアは少し照れたような笑みを浮かべ瞳を細た。
「ここが地上ですか?」
レイリエルは迷宮の1階層でクルクルとさまよっていた。
地面はセシルにより穴だらけでとても人が立てる場所ではないため雪乃は未だにレイリエルに抱えられている。
「えっと、右〜 あぁ、行き過ぎ戻って」
「ええ? 回りすぎてわかんないですよー!」
ピクリとレイリエルの耳が何かの音を捉えた、その音は重厚な扉を開く為に鎖を外した音だった。
「ほんっとに厳重ですね、全く、誰がこんなに鎖を付けたのでしょうか」
何本もの鎖を外すのに苦戦しながらも開いた扉からは鎖を投げ捨てたメリアと周りを見渡すスレイ、そして雪乃を冷ややかな瞳で見つめるヒムニがいた。
「…えっと、ただい、ま?」
「おかえり」
雪乃に対しヒムニが冷たく言い放った。
「ただいま帰ったぞ、主」
「…気が早い!」
「そうか」
「そうですよ、ハスディア様がこの方を主だなど、お戯れが過ぎますよ」
ハスディアはメリアとペルスェポネに囲まれていた。
「無事だったね」
「ま、まあな」
「ふーん、メリザちゃん取られちゃうかもね」
「ばっ、お前!」
「だって〜 メリザちゃん、知らない人と話してるよ?」
スレイの言う通り、メリザはガリルと親しげに話していた。
「え〜っと、初めまして皆さん、私は祝天使 レイリエルです、以後お見知り置きを」
レイリエルはにこやかに挨拶する。
「レイリエル? もしかして貴方が、再生の天使とよばれた呼ばれたレイリエル様?」
「そうです、ふふ、まさかそれを知っている人がいるとは、何だか照れくさいです」
「お逢い出来て光栄です!」
メリアはレイリエルの手を握りそう言った。
「それより、フェルナの所へ案内してくれ」
雪乃はメリアの肩をかるく叩いた。
「そうでしたね、では、レイリエル様はユキノ、ハスディアと一緒に着いてきてください、他の方は、各自教室へ戻ってください」
メリアの声を聞きフレナドール達はちりじりに去っていった。




