31話 地上へ
━━━魔界深層 冥府━━━
「ガリル 準備はいいか?」
ハスディアがガリルに問いかける。
「勿論ですとも!」
ガリルは緊張しているのか、声が大きかった。
「バルメ アーセナル ステア ペルスェポネ、留守を任せた」
「ハッ!」
ハスディアに声をかけられた四人は膝をつき返事をする。
「……なあ、このメンツだったらソウリアまで、敵居ないんじゃ」
雪乃はフレナドールにコソッと話しかける。
現在ハスディアはフェルナより強いだろう。
ガリル、能力は未知数だがハスディアが連れていくのだ、弱い訳が無い。
雪乃は光速を避けられる程の反応速度、それに加え反則なまでの”零氷操作”の精度がある。
そしてフレナドールは腕の悪魔にレイヴァテインの制御を任せ、何故か自分自身も強くなっている。
「ほんとだよな、もうアイツだけでいいんじゃないかな」
フレナドールは雪乃は返事をする。
ハッキリ言うなら、相当な化け物がいない限り苦戦すらありえないだろう。
それほどまでに冥府は雪乃とフレナドールを成長させた。
来た時と同じように、ハスディアが門を開く。
しかし今回は詠唱無しで。
冥府滞在時間は一週間ほどだった。
もちろんこの一週間は地上での時間だ、冥府は通常とは少し時間の流れが違う。
雪乃の体感では2、3日程度だろう。
門を潜り、地上に出る、地上は夜だった。
「あら、おかえりなさい」
門の先は王宮の王室だった。
メリアが机に向かっている前に出てきたのだ。
そして、メリアは特に驚いた様子は無く、普通に返事をした。
「明日、迷宮の扉を開きます、今日はゆっくりと寝てください」
「分かった」
雪乃とハスディアは短く返事をしたが、フレナドールは緊張で言葉が出ていない。
「行くぞ」
ハスディアは停止したフレナドールに声をかける。
「おっ、おう」
フレナドールは雪乃について行く。
雪乃は赤く長い絨毯を我が物顔で歩いていく。
「とりあえずここでいいか?」
雪乃は自分が使っていた部屋の扉を開け、フレナドールを入れる。
「……」
フレナドールは唖然としている。
無理もない、同級生が、王宮住みだったのだ。
「お前はベットで寝ろ、俺はソファーで寝る」
雪乃はクローゼットから毛布を出し、ソファーに敷く。
「いやいやいや! 普通俺がソファーだろ」
「ん? 俺は疲れてないから」
雪乃はそう言い、ソファーに寄りかかる。
「えっ? 寝てる」
フレナドールは驚いた、会話が終わってから三秒程で雪乃が眠りに着いたからだ。
雪乃は思考速度上昇をフル活用し、一時間半かけて眠りに着いたのだがフレナドールがそれを知る由はない。
(しょうがないな)
フレナドールは布団に潜り込み、眠りにつく。
「メリア、出来ればでいいのだが、俺様の名前をディアボロからハスディアに変えて欲しい、戸籍と言うやつだったか?」
執務室に残ったハスディアはメリアに話しかける。
「分かりました、伝えておきます」
「ありがとうな」
ハスディアは無邪気な笑顔を浮かべ、扉を開け出ていく。
「…まったく、調子のいい方ですね」
メリアは出ていくハスディアを見送りつつそう呟く。
━━━王立魔道騎士育成学院 フェレノア 地下━━━
ソウリアへ向かうメンバーは、
ハスディア ガリル 雪乃 フレナドール メリザ ソーンズの六名だ。
そのうち前衛が四人と言うアンバランスやなパーティー構成になっている。
最初はメリザとソーンズも前衛がいいと言っていたのだが、さすがに全員前衛はバランスが悪いという事で後衛になった。
「ガリル、お前確か、後ろ行けなかったか?」
ハスディアがガリルに問いかける。
「一応どちらも行けます、ただ、前衛の方が戦えると思いますが」
「じゃあ後衛だ」
「ハッ」
ガリルはそう短く返事をした。
疑問など無い、主が命じたのだ、ならばそれに答えるのみ。
「俺様とユキノ、そしてフレナドールが前衛だ、メリザ、お前は確か回復魔法が使えるらしいな、回復は基本的にフレナドールだけでいい、俺様は攻撃を食らうつもりはないし、雪乃も大丈夫だろう」
「では、私の役割は?」
ソーンズがハスディアに問う。
「お前は、精霊の力を使い索敵と先制攻撃だ、もしもの場合は範囲魔法を使え、俺様と雪乃は避ける、くれぐれもフレナドールを巻き込むなよ」
「分かりました」
重厚な扉をハスディアが開く。
中は洞窟の様な、それでいて整備がされている。
1階層から10階層までは苦戦どころかハスディアの魔力に怯え敵が出て来なかった。
11階層からは少しづつ敵が出てくるようになったが、ソーンズの索敵と先制攻撃でほとんど戦っていない。
まともな戦いが出来たのは30階層辺りからだ。
出てきたのは猪人の特殊個体の赤猪人だ。
赤猪人は精霊に好かれ、力を宿し産まれたもの。
赤い肌の通り火属性だ。
なぜソーンズが見逃したのか、それはソーンズの索敵の唯一の欠点をたまたま付けたことによる。
ソーンズの使う索敵魔法は精霊に問いかけ、敵がいないかを確認するものだ。
問いかけた精霊が赤猪人を敵とは認めずに同族と言う判定を出した、だからすり抜けた。
しかし、いくら索敵をくぐり抜けたとして、それだけで負けるほど雪乃達は弱くない、むしろ隠れていれば生きていれただろう。
目の前に現れた赤猪人は手に持った斧に炎を魔力を付与する。
雪乃はそれを確認した瞬間に、思いついた技を試す。
小さな氷の粒を百個程、空中に漂わせる。
そしてそれを一気に赤猪人目掛け放つ。
放ち方は氷弾と同じで、それを百個同時に稼働させた。
そして赤猪人は穴だらけになり、力なく崩れ落ちた。
そして特に目立った敵は出て来ずに、60階層へ到達した。
60階層までの敵が一度にかかってきてもハスディア一人いれば蹂躙できるだろう。
「……そう言えば食料って持ってきたのか?」
フレナドールが他の者の荷物の少なさに疑問を抱き、質問をする。
「………」
メリザとソーンズは顔を見合わせた後顔色が悪くなっていった。
「…おい、もしかして」
「俺持ってきてるよ」
そう言ったのはガリルだった。
ハスディアがガリルを連れてきた最大の理由でもある。
ガリルは”多重空間制御”という、ユニーク以上エクストラ未満のスキルを所持している。
簡単にスキルの説明をするなら、魔空間へ自由に物の出し入れが出来る。
そして中には保存食と水、そしてなぜか菓子が入っていた。
「おい」
呆れたようにハスディアが低音でガリルを攻める。
「…いや、その、あまりに美味しくて、つい」
ガリルは目を逸らしながら言い訳をしている。
「まあまあ、食料ちゃんとあんだしいいんじゃない?」
雪乃がハスディアにそう言う。
「あのなあ、金を出したの誰だと思ってんだよ、メリアだぞ? 国家資産だぞ? それを無駄使いしたんだぞ?」
「…じゃあこうしよう、俺がガリルに頼んだ事にしよう、そうすれば菓子食えるし誰も怒られない」
「いいのか?」
ガリルは目を輝かせ雪乃を見ている。
「お前がそれでいいならいいんだけどよ」
ハスディアは呆れている。
迷宮で書くことが無かったので少し飛ばしました。
ほんとまだ弱い下級モンスターしか出てないので書くほどもものでもないのですが。




