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30話 冥府の試練④

 

 ━━━魔界深層 冥府━━━


 雪乃とバルメは現在互角だ、それはバルメに物理攻撃が効かないというアドバンテージがあるからだ。


 悪魔とは一体何なのか、一言で表すならば魂の残り香である。

 魂そのものでは無いが魂と魔力のみで体を構成している。

 それはなぜか、冥府は死した者の魂の浄化を行う場所である、浄化された魂は輪廻の枠へと帰っていく。

 浄化された魂の残りが形作り、人の形を作れば悪魔に、それ以外の形になれば”悪意ある獣”となる。

 魂の残りとは感情や記憶など、言わば転生に必要の無いものである。


「なあ、諦めてくれないか?」


 雪乃は戦闘の最中であるにもかかわらずバルメに声をかけた。


「それもやぶさかではない、が、お前と戦うのも楽しくてな」

「そうか」


 バルメがそう答えた瞬間、世界が凍る。

 冥府の一部が雪乃の魔力によって生命の活動が出来ないほどに冷やされる。


 バルメは戦闘の一部を写真に収めたかのように凍りついていた。


「フゥー」


 雪乃の吐く息が白く凍てつく。


(”絶対零度アブソリュートゼロ”……なんちゃって)


 擬似的な獲得の”零氷ノ王”を擬似的ではなく、正式に獲得したことにより、内部の”零氷操作”の制度が上昇し、BからAへと上がった。

 それにより、半径約2kmほどの温度を下げる事ができるようになった。

 それを利用し、バルメを含む半径500mを-100℃以下へと下げたのだ。

 それは悪魔の体を凍らせた、活動が出来ないほどに。

 悪魔は寒さでは死なない、細胞が無いから限界がない。

 それだけでなく、ほとんどの精神体は呼吸を必要としない。

 悪魔を構成するのは魂と魔力のみ、物理攻撃は効かず、魔法攻撃もある一定のラインに到達しなければ効果がない。

 それでも動きは封じられる。


 まず地面と足を凍らせ接着する、そして関節の部分から凍らせる。

 そうすることで最小限の魔力消費で動きを封じた。


(……やりすぎたかな?)


 バルメ、アーセナルは凍っているものの生命活動には支障が無さそうだが、ほかの低級悪魔達は完全に凍りつき、酷いものに至っては砕けてしまっている。



 その後雪乃は温度を少しずつ上げていき、一時間かけて元の正常な温度に戻した。


 バルメとアーセナルは最初に動き出し、傷を直していた。


「いやー、あんたすごいな!」


 アーセナルは雪乃の肩をバンバンと遠慮無く叩く。


「あざっす」

「いやはや、まさかあそこまで成長するとは…」

「片鱗はあったが、ここまでとはね、驚いたよ」


 二人は雪乃の両隣に座り、話をしていた。


「…ところで、お二人はどんな関係なんです?」

「そうさねぇ、腐れ縁ってやつだね、なんだかんだこっちに来る前から知ってるからな」

「来る前?」

「そうか、君は知らないのか、ここ、冥府は死者の魂が集まる場所なんだ」


 バルメは雪乃に知っている冥府の事を話した。


 そして、バルメとアーセナルの関係についても。

 バルメは生前アーセナルの恋人だった。

 年はあまり離れていなかったが、アーセナルが先に死に、それを追ってバルメも死のうとしたのだが、なぜか死ねず、老衰で死ぬまで、どんな事があろうと死ねなかった。


「まったく、こいつは馬鹿なんだよ! あたしを追って何回も死のうとしやがって! 死なせないようにするのにどれだけ苦労したか」

「ふふ、こうやって話せるのもハデス様のおかげさ」

「ふーん」


 雪乃は相槌を打ちつつ、話を聞く。


 それなりに長い時間を過ごしたのだろう、ハスディアが戻ってきた。


「その分だと力は手に入ったみたいだな」


 雪乃を見るなりハスディアはそう呟いた。


「ああ、ところでディアボロ、お前なんか強くなってない?」

「そうだな、それより今の俺様はハスディアだから」


 ハスディアは事の経緯を説明する。

 ハスディアが話している間、バルメとアーセナルは膝をつき地面を眺めていた。


「…フレナドールどこいった?」

「…あっ」


 違和感を感じていた雪乃はハスディアの一言で違和感の原因を思い出した。


「確か………なんつったけな、ペルセポネだっけ?が持ってった」

「ペルスェポネな」


 ハスディアは、アイツは基本的に1人で何でもしようとするから多分自分の領土にいるんじゃねえか、と面倒くさそうに言った。


「では、私達はここで待っておりますので」


 バルメが笑顔でそう言った。

 バルメとアーセナルはペルスェポネがあまり得意ではなかった。

 貼り付けたような笑みが苦手なのだ。


「雪乃、勇者の力を手に入れたんなら”転移テレポート”ぐらい出来るだろ?」

「何それ」

「知らないのか、 …しょうがない」


 ハスディアは棒立ちしたまま雪乃の周りを転移テレポートしてみせる。

 転移テレポートとは、自身の魔力とマナで、目的地と自分が今いる場所を入れ替える魔法だ。

 基本的には一回が限界なのだが、上位存在体は回数制限は無い。


「つまり、自分と目的地を入れ替えるんだ」

「ふーん」


 雪乃はある程度理解は出来たようだが、さほど興味を示していない。

 忘れているかもしれないが雪乃は3万6000分の1秒で動き出せる。

 そして転移テレポートには欠点がある。

 それは魔力の流れが分かりやすいのだ、目的地と使い手に大きな魔力の揺れが起きる。

 今の雪乃なら先回りする事など容易いのだろう。


「ああ、ハデス様、この剣どうしましょう?」


 いきなりハスディアに走り寄り、”レイヴァテイン”を見せる。


「あ? それはフレナドールのだろ?」

「そうなのですが…… 少し困った事になりまして」


 ペルスェポネは話し出す。

 フレナドールの稽古として自分が相手をしていたのだが、フレナドールが剣の魔力を解放し、失敗した。

 そして剣の魔力により、フレナドールが灰になりかけたので腕を落とした、落とした腕の代わりに、自分の部下を腕にした。


「剣自体に悪意があった訳では無いらしいのですが」

「フレナドールは無事なのだろ?」

「ええ、恐らくですが落ちた右腕はより使えるようになっているでしょう」

「ならば問題は無いな、エンフィールドにバルメへの伝言を頼む、ガリル達を借りる、と」


 ペルスェポネの影から細身剣レイピアを携えた長い淡紫の髪の少女が現れた。

 そしてペルスェポネとハスディアへ頭を下げ、どこかへ消えた。

やっと進展します

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