27話 冥府の試練
━━━魔界深層 冥府━━━
雪乃とフレナドールは数千の敵意を持った悪魔に囲まれていた。
なぜこのような状況になったのか、それはディアボロ━━今はハスディアだが━━が「雪乃 フレナドールお前らは俺様の軍勢、つっても数千程度だがな、それを相手取り生き残れ、もし生き残れなければ所詮はその程度だ」
と、移動を開始する前に言ったからである。
「ご安心ください、殺さぬ程度に痛めつけろ、という命令ですので死にはしません」
悪魔の一人が黒い笑顔でそう言った。
フレナドールにとっては死刑宣告の様なもので、顔を絶望に染めていた。
「フレナドール、背中は任せれるか?」
「ああ、ただ、大軍相手はした事ねえから役に立つとは思うなよ」
「それだったら俺も同じだ」
その言葉でフレナドールの顔色は少しマシになっていた。
悪魔達は無手だ、武器は持っていない、それでも尚数の勇利は覆らない、雪乃達の不利は圧倒的だった。
だが、それはあくまでも雪乃が魔力とスキルを使いこなせていない場合の話だ。
雪乃は冥府に来る前の夜に、スキルの確認をしていた、ハイリルが壊されてしまったが”零氷ノ王”は使えるのか、創氷はどこまでの強度がある物を作れ、刃を作ることは可能なのか、などだ。
1つ目に”零氷ノ王”は使えた。
次に創氷の強度は精々が魔鋼程度だった、そして刃は作れるには作れるが、切れ味はほとんど無く、切れない。
そして、冷たすぎて触れたものではなかった。
そこでなぜ前回、セシルとの戦いで冷たさを感じなかったのか、極限状態でそれどころでは無かったせいもあるが、大半は氷鱗纏の能力による物だ氷鱗纏には寒覚無効という耐性系スキルがある。
それによって冷たさや寒さを感じ無くなる。
この二つ氷鱗纏と創氷を併用させてようやく実践に投入できる程度だった。
ちなみに雪乃は杖を創り出したのは創氷だと思っているが、実際の魔法は造氷という創氷の上位魔法だ、この事を知らない雪乃は未だに創氷で杖や剣を創り出せると思っている。
「氷鱗纏”一段階” 創氷」
雪乃は完略詠唱で氷鱗纏を発動させる。
そして氷の杖を作り出す。
前回氷鱗纏を使った際の痛みがあったのは雪乃が強制的に五段階まで上げたことで負荷がかかった、幸い回復魔法で回復したが、完全に治ってはいない。
痛みで動きは鈍くなっている。
「魔法付与”会心”」
フレナドールも雪乃に合わせ会心を”レイヴァテイン”に付与する。
「同時に攻める、合図は任せた」
「分かった……行くぞ!」
雪乃の声で、フレナドールも、悪魔達も動き出す。
悪魔達は素手でありながら”レイヴァテイン”を弾いている。
だが、魔剣に付与までされた剣を弾いたとしてもダメージは受ける、弾いた腕は消し飛ぶか、切り落とされていた。
雪乃は淡々と悪魔達の動きを止めている。
止まった悪魔達にフレナドールがトドメを指す。
それの繰り返しなのだが、半数ほど数を減らした所で急に悪魔達の強さが格段に上がった。
最初は雪乃達の疲労もあり強く感じているだけだ、と思っていたのだが、明らかに強くなっていた。
それからはもう、消耗戦と言うには圧倒的なほどに。
「フレナドール!」
最初にフレナドールに悪魔が群がった。
「チッ!”霊体化”!」
フレナドールは”霊体化”を使い、悪魔達を躱す。
それでも尚悪魔達の猛攻は凌ぎきれない。
「あー!くそっ、なんで当たんだよ!」
霊体化したフレナドールの体は半透明で攻撃はすり抜ける。
それは”霊体化”の真髄、物理無効によるものだが、相手は実態を伴っていない、エネルギーの集合体である悪魔、相性はあまり良くない。
雪乃の氷鱗纏は既に五段階まで到達しており、一体一なら圧倒的なまでの実力差があった。
だが、それでも、だんだんと悪魔達の強さが雪乃の五段階と同等まで上がりつつあった。
四方八方から来る悪魔達に雪乃とフレナドールは分断されていた。
「チッ、フレナドール!生きてるか!」
「なんとかな!」
雪乃の問いに数秒あけフレナドールが返事する。
フレナドールは最早防戦一方で攻撃が当たっていない。
そのせいで攻撃が大振りになり、体制を崩してしまう、悪魔達の攻撃のせいで倒れ、意識が朦朧とする中、
「いけません、いけませんよ、そのような戦いでは直ぐに消耗してしまいます」
そう声をかけられた。
声を掛けてきた悪魔は美しく、それでいて妖艶だった。
1歩足を踏み出す度にフレナドールの目はその悪魔に釘付けにされていた。
赤く瑞々しい唇に人差し指を当て、悪魔には珍しい白く長い髪を後ろに纏め、細く閉じられた瞳からは不思議と視線を感じる。
「スキルというのはもっと、自分の意思ではなく、自分の感覚に任せるのです」
倒れたフレナドールの横にしゃがみこみ、微笑みかける。
その姿は悪魔にはとても見えない。
「ふふ、どうですか?貴方はどう足掻いても、お連れの勇者には勝てませんよ?力を差し上げましょうか?」
悪魔らしくフレナドールを誘惑する。
その言葉は脳が蕩けそうになるほど甘い、全てを委ねてしまいたくなるほどに。
「……あ、……駄目だ、………い、らない」
フレナドールは痛みでまともな思考が出来ない、だが、それでも拒否する、それは雪乃の信頼を裏切るような物だと、自分にそう言い聞かせる様に。
「本当に、要らないんですか?」
今度は言の葉に魔力を乗せ、確実な”魅了”を、先程とは比較にならない程甘く、魅力的で、全てを、命すらも委ねてしまいそうで、それでいて危険なのだ。
フレナドールの瞳に光は無い、
「ふふ、もう一度聞きます、力は要りますか?」
悪魔の言葉にフレナドールは首を縦に振りかけた、その時、雪乃が悪魔の頭を杖で殴った。
「オラッ!何してんだテメー!」
「ふふ、痛いですね」
悪魔は頭から黒い液体を流しながらも、貼り付けたような笑顔でそう言った。
「貴方はスキルを使いこなせているので、興味は無いのですが、いいでしょう、相手をしてあげます」
悪魔は羽に魔力が集中しはじめ、
「黒ノ言霊”黒雷”」
そう呟いた瞬間、悪魔の羽から黒い稲妻が迸る。
雪乃が思考速度上昇を使用していても稲妻は光速に近く、時速に直すと10億8000万㎞にもなる。
それを避けるのは人間の反射神経では不可能であり、動く暇など与えぬ、必殺の一撃となろう。
だが、雪乃は魔力で作った氷鎧を全身に付けていた、氷は電気を通さず、また、魔力で作られた水は限りなく不純物が0に近いため電気を通さない。
この二つの要因により雪乃は奇跡的に助かった。
しかしダメージが無いわけではない。
「あんた…何者だ?」
焼けるような痛み、そして漆黒の意志により、精神を侵されながらも雪乃は問を投げる。
「ふふ、私はペルスェポネ、ハデス様より”悪魔公爵”の爵位を頂いた、四柱のうちの一人です」
”悪魔公爵”それは冥府に存在する悪魔の中でも最高位の悪魔、現在ハスディアの下にはアーセナル ステア バルメそしてペルスェポネが居る。
そしてその四柱の下に直属の部下として四体ずつ、計十六体の”悪魔侯爵”が、その十六体が数千の戦闘員を管理している。
ペルスェポネがハデスと言ったのはハスディアへと名が変わったことには気付いていないからだ。
「…爵位?…なんだそれ」
「悪魔の秘めたる魔力量を大雑把に振り分けた物です、自分よりも上位の者が名を付けることによりその魔力量は変化します」
「…?つまりは?」
「強さを表しています」
「…なるほど」
「ふふ、話が長くなってしまいましたね、私は貴方には興味がありません、他の三柱にでも相手をしてもらいなさい」
悪魔、ペルスェポネは羽でフレナドールを持ち上げ、どこかへ歩いていってしまった。
いきなりやらかしてました。
25話で三柱って表記してましたよね?
あれ四柱でした、まあ、あれです、本当は四柱だけど最後の一柱出てないから三柱でいいやって感じです。
申し訳ねぇ




