23話 霊宮都市
━━━王立魔道騎士育成学院 フェレノア━━━
二年 魔法剣士科 特Sクラスの生徒達は学長室に集められていた。
「”霊宮都市 ソウリア”について私が知っている事全てをお話しましょう」
開口一番メリアは集められた生徒達に話を聞かせる。
ソウリアとは古の大戦、ノルデアンが設立される前に起きた大戦時に作られた都市で、天使の京とも呼ばれていた、そして、大戦が終わり天使は力を失った、そして、長き時を過ごした天使達はノルデアン王国 国王とある約束をし、眠りにつく、その約束とは、4000年の安全を保証する代わりに我らに物資を与えてくれないか?、というものだった、それに対し国王フェレノアは、それ自体は構わないしかし安全だけでは私達には見返りが少なすぎる、もしもソウリアに人間が尋ねてきた時は願いを聞いてあげてほしい、と言ったのだ。
その条件をのんだ天使達は”王立魔道騎士育成学院 フェレノア”の地下で暮らしている。
その天使の中には回復に長けた者がいるらしく、その天使に頼めばフェルナは治るのではないのか?という事らしい。
「私が知っているのはこれが全てです、本当に存在すればフェルナ様は治ります、が、もしも天使がいなかった場合無駄骨になります、そしてソウリアに行くまでに百層もの階層があり、モンスターがいます、下に行くほどそのモンスター達は強くなっているそうです、本来は生徒達の戦闘訓練用に作られた物らしいのですが、まあ、実力不足でここ百年は開かれていないそうです」
と締めくくった。
「首席フレナドール・グレイド 二席メリザ・ツバイ 三席ヒムニ・エリザベート 四席ソーンズ・コアネラ 五席スレイ・テヌイネ 特殊席イザヨイ ユキノ 拳士科特殊席ディアボロ、計七名、地下百層”霊宮都市 ソウリア”への立ち入りは許可しよう、だがお前達では力不足だ、精々行けて35層までだろう、それでも行きたいと?」
学長が生徒達に問う。
「…そこまで力不足だと言うなら、俺様は一度魔界に行く、メリアにしか話していなかったが、俺様はこっちに呼び出された時に記憶を失っている、そして、力も失っている」
「そんな暇ねぇだろ!」
雪乃はディアボロの襟を掴み壁に押し付ける。
「なあ、ユキノ、お前…弱くなったな」
「は?」
「お前、あそこまで圧倒的に負けたの初めてだろ?」
「チッ、そうだよ、そのせいで弱くなったってのか!?」
「そうだ、お前もう一度あいつと戦えるのか?」
「ッ……戦える」
「嘘だな、俺様は悪魔だからそーゆー所には敏感なんだ、お前はあいつに恐怖しちまってる、それは多分力の差とかじゃ説明がつかないような負け方をしたせいだろ?」
「だったらどうすんだよ!?」
「お前にあれ以上の恐怖を味あわせる」
「…は?」
「まあ、とにかく俺様は雪乃を連れて魔界に行く、そうだな、一週間ってとこだな、とりあえずそれくらい空ける」
「まて、なら俺も行く」
フレナドールはディアボロに対し、
「ダメだ」
「何で?」
「足でまといだ」
「……クッ………どうしてもか?」
「そうだな、明日俺様は行く、それまでに成長してれば連れてってやる」
と言った。
「分かりました、明日から一週間ですね、問題はありません」
「な!?フェルナは大丈夫なのかよ!?」
「フェルナ様は傷自体は問題ではありません、意識が無いのです、文字どうりにね、ですから、このままでも死にはしませんが意識が戻る事も無いのです」
「………分かった」
そう言って雪乃が学長室から出たのを皮切りにディアボロとフレナドールも出ていく。
「あはは、なんだか置いてきぼりになっちゃったね」
「………そうね」
スレイが呟き、メリザも呟く。
「ねえ、メリア様、私は、ソウリアには、行かない、残って、フェルナ様の世話をする」
ヒムニはメリアにそう言った。
メリアはただ、そうですか、としか言わなかった。
「僕も行くのは止めておく、ヒムニと一緒にフェルナちゃんの世話を手伝う」
「分かりました、メリザ、貴方はどうしますか?」
「私は行きますよ、一年次回復魔法科を首席で通過してますので、私が行かなかったらフレナドールは困りますからね」
「仲がよろしいんですね」
「え?」
メリザはみるみるうちに顔を赤くさせ、悶絶している。
「ふふ、若いのはいいですね」
「え?メリア様だって若いじゃないですか?」
「ふふ、そういう事じゃ無いのですよ」
そんな、女子会のような会話をしているせいか学長が気まずそうに出て行こうとしていた。
「どこへ行くのです?」
「こんな年頃の女子ばかりの場所におじさんがいるのは如何なものかと思いましてね」
「では、私達が出ましょう、ここは貴方の部屋ですからね」
「へ?いやいやいや!」
「さっ、行きますよ」
学長は否定したのだがメリアに押し切られ、メリア達は出ていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
フレナドールは元々負けず嫌いである、だが、ディアボロに足でまとい、と言われた、それは激しく心を傷付けた。
「クソがッ!」
フレナドールは走っていた、目的も無く、がむしゃらに、はち切れるよう渦巻く負の感情を消し去るように。
魔物は負の感情を好む、フレナドールは最上級の獲物に見えたのだろう。
ここ、ノルデアン王国付近には存在しない”Bランク下位”の蠢く死体がフレナドールの前に立ちはだかる、それも一体ではなく五体も。
「ヴァァァ」
それもただの蠢く死体ではなく、五体全員が装備をしている。
いかに”Bランク下位”といえ、それは装備をしていない単体での場合だ、複数でそれも装備があるだけで”Aランク下位”に相当する。
「ははっ、こんな事なら武器持ってくれば良かったな」
フレナドールは学長室からここ、名もなき山に着くまでずっと走っていた、そのせいで持ち物は無い。
絶望的なこの状況にフレナドールは二つの感情が渦巻いていた、一つは絶望、二つ目は歓喜だ。
「なんもねーか」
フレナドールは周りを見渡し、使える物は無いと判断する。
「”魔法付与””会心”」
フレナドールは自らの拳に魔法を付与する。
”会心”その効果は当てた攻撃全てが通常より威力を発揮する。
「フー」
フレナドールは呼吸を整え、肩の力を抜き、左手を前に構える。




