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17話 模擬戦の結果

今回長いんですよ。

 

 ━━━王立魔道騎士育成学院 フェレノア━━━


「圧巻だな」


 先程の勝負を見ていた二人のうち背の高い筋肉質な男がそう言った。


「本当だな、あれでフェルナはまだ、本気じゃ無いんだぜ」

「そうなのか」

「ああ、多分だけどな」

「俺らもそろそろ始めるか…」

「そうだな」


 剣を手に取り、それぞれ別の方向に歩き、5m程離れ剣を構える。

 雪乃は正眼に、フレナドールは右手に、


 フレナドールが踏み込み、振り下ろす。

 対し雪乃は重心を落とし左足に力を込め、受け止める。


(重ッ)


 木から出ているとは思えないほどの轟音が鳴り響く、

 フレナドールが空いた左手で雪乃の片腕を掴み、体制を崩そうと力を込める、だが、雪乃は抵抗せずに、倒れ込む力を利用し蹴りを放つ。


「ッ!?」


 まだ掴まれている腕を掴み返し、脚で首と胴体を抑え、肘を極める。

 フレナドールが剣を離し、完璧に決まった腕拉ぎ逆十字固めを力で押し返し、体を回転させそのまま殴りつける。


 雪乃は腕を離し、拳を避け、距離を取る。

 フレナドールが肘の挙動を確認する。


「今のは?」

「腕拉ぎ逆十字固め、向こうの極め技だ」

「そう、かッ」


 確認が終わり、フレナドールが動く。

 踏み込み、落ちた剣を取り、振り上げる。


 雪乃はそれを完全に受け止めた…筈だった、

 力任せに振り上げられた剣は雪乃を剣ごと持ち上げ、後方へ1m以上飛ばされる。

 ただ力任せに振るだけでは幾ら雪乃の体重が60kg台だとしても、幾らフレナドールの身体能力が高くともここまでは飛ばないだろう。

 膝を伸ばす動作と腰の捻り、そして肩の動きを全て連動させる。

 それらの動作を高効率で行うことにより爆発的な威力を誇る。


(ッ…てぇ)


 雪乃の右手首が赤く腫れる。

 腫れた手を後ろに回し落ちていた剣を拾い、腰に付ける。


「大丈夫か?」

「ああ、問題無い」


 少しの間を置いて仕切り直し、変わったところは雪乃の構えが正眼から左手のみになったぐらいだ。


 今度は雪乃から仕掛ける、腰を落とし走り出す。

 近付き、至近距離での無呼吸の連撃、

 それを一撃一撃全て丁寧に弾く。


(さすがに片手じゃ無理か、…右手は…あと少しか)


 雪乃は魔力を手首に流し、痛みを和らげ、それと同時に回復を促していた。


 この方法はスキル“零氷ノ王”を擬似的に取得した際に知ったものである。


 打ち合いはまだ続いている、効果的な一撃を求め、足の踏み場を変える。

 一瞬、ほんの一瞬、雪乃が息継ぎをする、すると必然的に隙ができる。

 その隙を見逃さずにフレナドールが剣を振り下ろす、

 雪乃は薄く笑みを浮かべ左手の剣で受け止め、右手を使い先程拾った剣でフレナドールの首元を狙う、


「ッ!」


 フレナドールは左手を剣から離し雪乃の手首を押え、剣を止める、


「表情と視線で丸分かりだ、力なら俺に分がある、どうする?降参するか?」

「…はぁ、わあった、降参だ、上手くいったと思ったんだがな」


 雪乃が武器を離し、負けを認め、フレナドールに軍配があがった。


「お主、フレナドールだったか、中々やるではないか」


 暇そうにこちらを眺めていたフェルナが声をかける。


「ありがとうございます!名前を覚えていただき光栄です!」


 フレナドールは目を輝かせ、まるで子供のようにはしゃぎ、嬉しそうにそう言う。


「敬語はいい、堅っ苦しくてかなわん、それに同じ学院の友であろう?」

「ですが…」

「……昔話をしよう、我は昔は特別になりたかった、だが、龍人(ドラゴニュード)になって始めて特別になれば他の者との距離が空いてしまう事に気付いた、それは、弟でさえ例外ではない、我は出来ることなら、少女として少し、もう少しだけでも過ごしたかった、それが叶うまでに2000年以上かかってしまった、だからここでは普通の少女として、まあ少女と言う歳でもないが、扱って欲しい、これを聞いてもまだ敬語を使うのか?」


 半ば脅しの様な言葉選びでフレナドールに語りかける。


「…そこまで言うなら」

「ではよろしくな、フレナドール」


 フェルナは微笑み、そう言った。


「…あぁ」


 フレナドールは頬をほんのりと赤く染まっている。


(あっ、あれは落ちたな)


 雪乃は心の中で微笑んだ。



 鐘の音がなり授業の終わりを告げる。

 アデマンが生徒を集め、


「この後は昼休みだ、飯を食いに行くのは構わんが授業に間に合うように教室にいろよ?」


 そう言う。


「ご飯か!!」


 倒れていたスレイが目を覚まし、起き上がり叫んだ。


「皆起きて!お昼だよ!」


 スレイは倒れている生徒達を揺さぶり、起こそうとする。


「起さない方がいいんじゃないか?」


 それを見ていた雪乃が声をかける。


「あっ、そっか、じゃあユキノも運ぶの手伝ってよ」

「分かった」

「いや、それは俺がやろう」


 そう言いアデマンが三人を両脇と背中に担ぎ、学院に向かって歩いて行く。


「せんせー皆に変な事しないでよね?」

「……そんなに信用ないか?俺」

「冗談だよ♪信頼してるよ、センセ♪」


 微笑んだその姿はまるで小悪魔の様だ、もしスレイが女なら確実に男は惚れていただろう、


「…全く、教師にそんな顔をするんじゃない」


 そう言いアデマンはスレイの頭をぽんぽんと軽く叩いた。


「…やっぱり、先生は大人だね」


 ポツリと小さく呟いたその言葉は、恐らく誰にも聞こえていないのだろう。


「どうした?」


 雪乃がスレイに声をかける。


「んーん、なんでもない、それよりお昼食べに行こ、美味しいところ案内してあげる♪」


 スレイは笑顔を作り、教室に向かって歩いて行く。



 着替えを済ませ、スレイの案内で商店地区の外れにある食事処、石窯亭に着いた。

 石窯亭、それは二百年続く老舗、エルフのレイドが一人で切り盛りしている。


「やっほー、やってる?」

「おっ、いらっしゃい!注文はいつものかい?」

「うん!おねがーい、4人分ね!」


 席に座り少し無言の時が流れる、十分程それは続き、言葉を発したのは料理が来てからだった。


「おまたせ、石窯亭特製の石窯グラタンだ、熱いから気いつけて食いな」


 運ばれてきたのは、少し分厚い石で出来た更に熱々のチーズがはみ出る程乗せられたグラタンだ。

 チーズは少し焦げ目が着いている、がそこから発せられる香ばしい匂いが食欲を誘う。


「ゴクリ」


 雪乃の喉から生唾を飲み込む音がテーブルに響く。


「「「「いただきます」」」」


 熱々のチーズをかき分け、スプーンが中のマカロニに絡んだソースごと口に運ぶ。

 一口で分かる、芳醇な麦の甘み、それに絡まるトマトソースが甘酸っぱく癖になる、チーズと共に食べるとまた違った味わいを楽しめる。

 チーズのまろやかさにトマトの甘酸っぱさが合わさり、いい所のみを伸ばし合う、まろやかな甘味がチーズの臭みを消し更に食べやすくなる。

 時々ある焦げ目は少し苦いが、その次の一口を際立たせる。


「アチッ」

「ん?ほうひた?」

「いやー、僕猫舌なんだけど、君たちが凄い美味しそうに食べるから急いじゃったんだ、あと口に物入れながら喋らない方がいいよ、聞こえずらいよ?」

「ングッ、分かった、気を付ける」


 雪乃とフェルナは食事に夢中になっている。


「熱いがすごい美味しいな」


 半分程食べ進めた所で雪乃が呟く。


「麦の良さもさる事ながら、ソースのトマトと肉の甘味が引き立て合いまろやかな味わいになっている、これ程美味しいなら毎日でも食べたいな」


 フェルナは完食し、雪乃の呟きに同意する。


 その後フレナドール、雪乃、スレイの順で食べ終わり店を出る、代金は「今回は僕の奢りだから、また来ようね!次はみんなも払ってよ?」と言ったスレイが払った。

サラリと出てきた商店地区、

これはノルデアンの中を区分けしたもの。

他に軍用地区、農業地区、住宅地区があり、それらの中心に王城地区があり、王城地区と住宅地区のあいだにフェレノアがある。

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