14話 異世界学校?
━━━ノルデアン城━━━
紫の髪が首元までの長さでフワフワと風になびき、無邪気な表情からはとても想像が出来ないほどの魅惑的な体で、悪魔が小さな羽をパタパタと動かし、反応を待っている。
「ディアボロか!?、変わりすぎだろ!?」
目を覚ました雪乃がそう叫ぶ、メリアも同じような反応だ。
「ふふん、そうだろう、元の姿に似せれて俺様は満足している」
「そうか、良かったな」
一人だけ、フェルナは特に狼狽えずにそう言った。
「では、早速入学手続きをしましょう」
落ち着きを取り戻したメリアが指をパチンと鳴らし、付き人を呼ぶ。
「お呼びでしょうか」
そう返事をしたのは、燕尾服を着た初老の執事だ。
「彼らをフェレノアに入学させるので、手続きの間、世話係に任命します」
「ハッ」
「それと、ユキノとディアボロの服を幾つか見繕ってください」
「承知致しました」
初老の執事は膝を付き、返事をする。
「皆様どうぞこちらへ」
笑顔で初老の執事は後ろに着いてくるように促す。
「なあ、フェルナ、これから行く所ってどんな所なんだ?」
長い廊下を歩きながら雪乃がフェルナに質問を投げかける。
「『王立魔道騎士育成学院 フェレノア』は我の父上が作った最初の学院だ、今から三千年位前だったか、初代学長はたしか大臣のメリアナが務めておった、そこでは、学問や戦闘技術、魔法の扱いや魔法とは、というありとあらゆる物を教えたり教えられたりしている場所だと聞いていた、合っておるか?」
「ええ、合っています」
フェルナの問に初老の執事が答えた。
「皆様が入るのは、恐らく、Sクラスか特Sクラスのどちらかでしょう、どちらも年齢経歴関係無しに、実力があれば歓迎されますのでご安心を」
「全部で何クラスあるんです?」
「全部で…ですか、一学科十二クラス、全六学科ありますので72クラス、それが三学年ですので216クラスありますね」
「……多ッ!!」
雪乃は数秒のラグの後、ようやく認識し叫んだ。
「住む場所が無ければ学生寮もありますので」
改めて異世界という事を認識させられる。いや、元の世界でもこの規模の学校は探せばあるのか?
……というか、思い返せば、城なんて初めてだし、そもそも魔法、スキルってなんなんだ、喋り方大丈夫だよな?後で怒られたりしないよね?
………俺こっちの言葉書けないじゃん、どうしよ。
雪乃が混乱の末出した言葉は、
「えーと、執事さん、俺文字書いた事ないです……」
「………え?」
執事がウッソだろお前みたいな表情でこちらを見てくる。
「あ、えーと、こっちに来てから文字を書いて無いので、書けるか分からないんです」
雪乃は補足を入れ、あくまでこちらの文字を書いたことがないと説明した。
「…それでしたら、こちら差し上げます、一通りはこれで大丈夫でしょう」
そう言って執事が取り出したのは二冊の皮表紙の本だ、一冊は”龍人姫”ノルデアンの成立と火炎龍ノヴァとフェレノアの絆を描かれた本、もう一冊は中に何も書いていない、メモ帳だろう。
「ありがとうございます」
「敬語はけっこうです、貴方様はメリア様の御客人ですので」
そう微笑んだ。
歩いていると、少し周りより小さい扉の前で止まった。
「使用人の部屋で申し訳ございません、空いている部屋がこちらの二つしかありませんでしたので…」
申し訳なさそうに萎縮し、執事がそう言った。
「俺は大丈夫ですよ」
「我も別に構わん」
「俺様はどこでも寝れるから大丈夫だぞ?、それにそもそも悪魔に睡眠は必要無いからな」
三人が特に問題ないと返答し、執事はホッと胸を撫で下ろした。
「中にある物は自由に使って構いませんとの事ですので、それと何かあればお呼びくださいね」
雪乃とフェルナが、小さく返事をし別々の扉を開く。
中は豪華絢爛、とまでは行かないが十分に充実した内装をしている、華美な装飾はせずに機能性を重視させた様なデザインだ。
「なーなー、フェルナ、これはなんだ?」
「それは女中の制服だな」
ディアボロが手に取ったのは、いわゆるメイド服、それもフレンチメイド━━一般にメイド服として認知されている、ミニスカにフリルのエプロンといった可愛いく、アキバなどに良くいそうなメイド服━━の方ではなくヴィクトリアン式の、機能性を重視させた、汚れの目立たない黒のロングのワンピースに白地の飾りの少ないエプロン、それとセットの白のフリルのカチューシャ、それら全てにノルデアン王家の紋章学が刺繍されている。
「へー、やっぱり俺様はフェルナみたいな服がいいな」
「そうか、だがサイズがな……」
フェルナは胸に手を当てディアボロの胸部と自分の胸部を交互に見てため息をつく。
ディアボロの胸部はたわわとしており、動く度にプルルンと揺れている。
フェルナの威厳のために補足を入れておくと、フェルナの見た目は16歳だ、決して胸が無い訳では無い、寧ろ歳相応のぷっくりとした、可愛らしい物を付けている。
「そうか」
ディアボロがしょんぼりとしながらそう言った。
「先の奴に頼んでみるか?」
「そうだな、頼んでみる」
その頃雪乃は一人で部屋のベットに寝転び、先程渡された本を読んでいる。
(んー、読めるには読めるんだけど、かけるのか?)
それをノートに移す、驚く程にスムーズに書き取れる。
これは加護スキル”知識の片鱗”のおかげだろう。
(こんな簡単に書けるんだったら、元いた世界でも欲しかったな…)
そんなありもしない、もう起こりやしない空想に心踊らせ、溜息をつく。
場所は変わり、王室にレギエナが呼び出されていた。
「レギエナ、貴方が呼び出された理由は分かりますか?」
「はい、メディオの事ですね」
「そうです、貴方はこうなる事を知っていたのですか?」
「いいえ、私が観たのは、メディオが雪乃に敗れ、王家の、国の恥になる言動をし、メリア様に厳罰処分を与えられ自暴自棄になり、雪乃に闇討をしようとし、フェルナ様に…殺されるところです」
「……その言葉に嘘はありませんね?」
「はい、我が名に誓い」
「…分かりました、でしたら問題はありません、一つを除いて」
「それは、メディオがなぜ召喚では無く、自分の体を依り代にしたのか?ですか」
「そうです、彼がそれを知らねば、貴方の観た事が起きたのでしょうか?」
「私には分かりかねます」
「そうですね、未来は既に、変動しているのですからね」
メリアがそう意味深に呟いた。
ノルデアン王家の紋章
黒と銀のチェック柄のフィールドに赤と金の短剣、それと純白の龍の牙、その二つを交差させた物。




