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10話 敵対者!?

 

 ━━━ノルデン城 王の間━━━


 一触即発の雰囲気の中、1人の男が喋り出す。


「いきなり来て、宝龍剣を寄こせだのと些か強欲では?」


 鎧を着た男は丁寧な口調で言う。


「そうか?宝龍剣は元々我の物だ、それに勇者に関してもこの国の戦力になるのだぞ?」


 当たり前の事を聞くな、の様なニュアンスでフェルナは反論する。


「では、互いに1人の信用出来る者同士を戦わせるというのはどうでしょうか?私の方は彼、騎士長メディオを出しましょう、そちらは勇者の彼ですか?」


 メリアは元からこの提案をするのを決めていたかのように言い放つ。


「いいだろう、こちらは雪乃、負ければ要求を取り下げよう、ただし勝てば全て要求を通してもらうぞ?」

「ええ、元よりそのつもりです」

「王よ、この小僧に対しこの私が出るのですか?」


 疑問というより、挑発の様な言葉だ。


「どこで戦うの?ここ?」


 雪乃は諦めたような笑い、そう言う。


「まさか、中庭に場所があります、そこで戦ってもらいましょうか」


 メリアを先頭に階段を降りていく。

 中庭は広く、生半可な攻撃では傷つかなそうな壁に覆われている。


「では、ルールを説明します、基本どんな攻撃も有、相手を殺さない程度に、以上」


 後ろから着いてきていたレギエナから雪乃に”聖杖 ハイリル”が渡される。


「これは貴方のですよね?お返しします」

「ありがとう」


 雪乃は深く深呼吸をし、ハイリルを正眼に構える。

 雪乃の瞳からハイライトが消える、同時に加護のスキル”攻撃予測”と思考速度上昇”を発動させる。


「…いつでも、どうぞ」

「そんな、棒きれで私を相手にできると?」

「…」

「…いいでしょう」


 騎士長メディオは剣を抜き、走る。

 一撃目は大振りの振り下ろし、雪乃は杖で軌道を変え受け流す、

 だけでは無く、軽く首元を掠らせるかのように緩やかに振る。

 それを意図せずに、染み付いた習慣によりメディオは後ろに仰け反り杖を避ける。


「チッ」


 メディオは舌打ちをし、崩れた体制を立て直す。

 雪乃は動かない。

 二撃目は隙の少ない突き、雪乃は杖の先で剣先の軌道を変える。



 永く短い時間ときをメディオは全て攻撃に費やした、それに対し雪乃は動かずに受け流し大きな隙を探している、小さな隙は何度かあった、それにメディオは気付いているし、雪乃も分かっている、だが攻撃はしない、その違和感にメディオはある仮説を立てた。


(スキルか何かによる自動防衛か? もしそうなら()()を使う必要がありそうだな)


 勇者ならばそんなスキルを持っていても可笑しくは無い、メディオは焦りを覚える。

 しかし実際は雪乃がそんなスキルを持っていないし、目的から違う。

 メディオは勝つ事を目的としているが、雪乃は相手のペースを崩す事を目的としている。

 それは雪乃が生前格上との戦いで覚えた物だ、

 ペースを崩せ、それが出来ない奴は格上を相手に出来るはずがない。

 そう師匠に教えられたからだ。


「…一つ質問があります、それはスキルですか?」


 メディオは剣を止め距離を取り質問をする。


「何の事かはわからんが、多分そうだ」

「…分かりました、では…”我が身を使い目の前の敵を殲滅せよ聖なる使い手よ”!」


 そう叫ぶ、するとメディオの纏う雰囲気? 魔力? が変わる、今までの比では無く禍々しい、まるで悪魔の様な、黒い靄がメディオを覆う。


「チッ、俺様を聖なる使い手だと?ふざけるのもいい加減にしろ!俺様は誇り高き悪魔デーモンだぞ!?それを高々一介の人間如きに呼び出され強制契約を結ばされるだと!?」


 表情、喋り方、性格すらも変わったのだろう、

 自分でも言った様に悪魔、なのだろう。


「………もしかして、選択肢ミスった?」


 対峙する雪乃が驚愕の表情で呟く、


「チッ、彼奴()()()()まで、隠し持っておったのか、お主は知っておったのだろうな?」

「…いいえ、知りませんでした」


 フェルナの質問にメリアは驚きを隠せずに返答する。


「ああ、ミスってるぞ、お前は俺様を相手にしないと行けねぇんだからな」


 先程まで銀色に輝いていた鎧は、黒紫の鈍い光を放っている。


「……フェルナ「駄目だ」


 雪乃がフェルナに助けを求めようとするが一瞬で断られる。



 悪魔は強者を演じているが、内心では動揺していた。


(くそっ、人間に召喚されるだけならまだしも()()まで付けやがって、それに化物が2人でそれを超える化物が相手なんだよ、あーもうめんどくせぇ、全員倒せばいいだけじゃねえか)


「俺様を相手に1人は傲慢じゃないのか?」

「抜かせ、低級魔族ごとき、1人で倒せん者は勇者ではあるまい」


 悪魔が雪乃に質問をしたのだが、フェルナが割って入る。


「こいつ、勇者かよ!?」


 この言葉に初めて悪魔が動揺を見せる。


(勇者ってことは、これが全力じゃあねえ訳か、…無理だな)


「…さっさと戦わんか!」


 フェルナの叫びにより、悪魔と雪乃は敵対している事を、戦いの最中である事を思い出す。


「勇者よ、名を聞こう」

「十六夜雪乃だ」


 名乗りが終わり、両者戦闘態勢に入る、

 雪乃はハイリルを抜き右手に刃を左手に鞘を持つ。

 対して悪魔は自然体だ。



 一秒…二秒……三秒


 四秒が経過し悪魔が動く、距離を詰め力任せの左手の手刀、受ける雪乃は右手に持つ刃で手刀を受け止める、結果、悪魔の左手は落ちる。

 悪魔は落ちた左手を蹴り上げ目くらましに使う、雪乃が剣を振り抜く、悪魔はそこにはもう居ない、脚で創氷(メイクアイス)を発動させ壁を後ろに作る。

 悪魔は左手の貫手で氷を砕く。


「なっ!?」


 腕の再生に驚きつつも、雪乃は鞘で貫手の軌道を上にずらし、無防備になった悪魔の腹にハイリルを突き刺す、


「ガハッ」


 悪魔は血を吐き出した。


「…あーダメダメ、俺様の負け、勝てないわこれ」


 ハイリルが刺さったまま、負けを宣言する


「なんでだ?」

「だってユキノ本気出してないじゃん、手加減されてあしらわれるとか悪魔の風上にも置けねえし、死にたくねえもん」

「よくも悪くも本能に忠実なんだな、悪魔ってのは」

「当たり前だ、悪魔は本能に生きる、それだけだからな、本来本能に忠実に生きてねえやつはよえーんだよ、それに今の俺様は体に縛り付けられてるから簡単に死んじまうんだよ」


 悪魔は笑いながらそういった。

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