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第99話 謎の物体X

遺跡調査から帰ってくると俺はめまぐるしい忙しさに追われる日々を送っていた。


授業に研究、ジュリエッタへの魔法指導、さらにはマリアージュのオープンとやらなければならない事が次から次へと俺を襲った。


マリアージュの料理は作ってアーサーに預けておけば、いつでも出来たてを出すことができたので、作り置きしておけば俺が店にいなくても大丈夫だった。

しかし、アーサーとアスカだけに店を任せるのはどうにも不安だった。二人が自信満々だったので任せてみたが大丈夫だっただろうか。

誰か人を雇うのも考えねばならない。


そして、二人に店番を任せ、俺は何をしているかって? 俺は今、遺跡で手に入れた黒い物体と向き合っていた。

アスカの話によればこの物体に魔力を通せばいろいろな画像を映し出すことができるという事なのだ。


俺は画像を映し出すという未知の物体に興奮を隠せなかった。話によれば、見たい画像を言えばそれを見る事ができるという事だった。俺は周りに誰もいないのを確認して、黒い物体に魔力を流し込んだ。

何で一人の時にしたかって・・・そりゃ、ムフフな画像を閲覧でもしようかなと思ったわけですよ。あるのかは分からないけど・・・


俺の魔力に反応して黒い物体は光を発したかと思うと、その光は物体の上に集まり人型に収束した。そしてそれは一人の少女のホログラムのようなものだった。少女の姿をしているのだが、よく見ると透けて向こう側の壁がうっすらと見えているのである。


「おばようございます。何か御用でしょうか。」

その少女は南の大陸の言葉を発したのだ。そして期待していたのとまったく違っていた。何なんだこれは。


「あっ、えっと、君は?」

俺はいきなり現れた少女に吃驚して戸惑った。


「私はアリスです。ラボ2のシステムの一部でしたが、どうやら切り離されているようです。本来であれば切り離されたと同時にデリートされるはずですが・・・何か不測の事態が起こったのかもしれません。」


「ラボ2って?}


「不死の研究、および不死者の生成を行う場所です。」

あの遺跡の事だろうか。


「何のためにそんな事を研究してたの?」


「創造主の暮らしを豊かにするためです。」


「創造主ってのは誰の事?」


「創造主は創造主です。私達を作った者達の総称です。」


「つまり人類全員ってこと?」


「人類とは? ・・・神工生命体(じんこうせいめいたい)Ver1.00シリーズ~1.06シリーズの 《人族》の事でしょうか? それの事であるならば、違います。」

ん? 人族の前に何かよく分からない修飾語がついている気が・・・


「人工生命体Ver1.00シリーズって何の事?」


「初期型の神工生命体(じんこうせいめいたい)の事です。」

何を言っているのか全く分からなかった。


「ちょっと待って、何のためにそんな・・・えっ・・・人を造ってたって事?」


「はい《人族》を生成するラボもあります。全て創造主たちの暮らしを豊かにするためです。」

質問した事には答えてくれるのだが、何を質問していいかが分からなかった。というか、まるで何も分からなかった。


「もうちょっと詳しく教えてもらえると有難いんだけど。創造主についてとか。」


「創造主についてですか?・・・この世界には創造主はもういないのですか?今の世界はどのようになっているのですか?」

俺は創造主について分からなかったので、この世界にいるかどうかは分からないと答えて、これまで見てきたこの世界の事をいろいろと話をした。


「なるほど。文明がかなり退化しているようですね。聞く限りでは今の世界は土地を媒介とした封建制度のシステムによって成り立っている王政のシステムのようですが、創造主の統治システムはそれよりもさらに3段階発展していました。まずは、封建制度から王族等のトップが倒され、資本主義へと移行しました。」

それは前の世界で習った事があるので知っていた。その次の段階という事はマルクスの『資本論』でいうところの社会主義に移行したという事だろうか。俺は続きを聞いた。


「その後資本主義から資産家階級が倒され、AI至上主義へと移行しました。」


「ちょっと待った。それってもうちょっと詳しく。」

俺の知ってる知識とは全く違ったものだった。


「AI至上主義は神工知能(じんこうちのう)による統治を指します。極力創造主方が働かなくてもいいようにあらゆる仕事を神工知能(じんこうちのう)に任せて、合理的に行うようになりました。そして、あらゆる面で皆が幸福を感じられる社会の仕組みづくりのために富を一度中央に集結させ、再分配を行う事にしました。その過程で資産家階級や既得権益者の反発がありましたが、上手く処理する事ができました。それにより、皆が何も労働せずとも楽しく暮らせる仕組みが出来上がったのです。」


「なるほど・・・・それで?」

実際は細かい部分で分からないことがあったが、ひとまず先の話を促した。


「そして、神工知能(じんこうちのう)は自分たちではできない作業を行うための生命体を生み出す事にしました。始めに作られたのは創造主の姿に近いVer1.00シリーズ《人族》というものです。さらにVer2.00シリーズ《獣人族》と様々なシリーズを生み出しました。そして、それぞれには『能力制御装置』を首につけ、必要に応じて力をコントロールしていました。」

・・・それって・・・つまり・・・この世界の住人は作られたものって事??あまりピンとは来なかった。


「ちなみにVer1.01とか1.02とかってのは何が違うの?」


「創造主は度重なるエネルギー革命の末、『多次元宇宙構造理論』により次元を超えて異界からのエネルギー利用を可能にしました。そして、そのエネルギーを利用を可能にする因子を神工生命体(じんこうせいめいたい)に付加しました。それを付加されたのがver1.02になります、ちなみにver13.00シリーズ《妖精族》以降はその因子を付加されたモデルが標準型となっております。」

??? いまいちよく分からないけど、異界のエネルギーを使えるものとそうじゃないのがいるという事か・・・魔法の事を指しているのかもしれない。次から次へと疑問が湧き出てきた。


「そして、創造主の文明はそれらの神工生命体(じんこうせいめいたい)を使役した『回帰隷属主義社会』へと移行しました。創造主は何もせずとも幸せを享受し、神工生命体(じんこうせいめいたい)を使って様々な娯楽を楽しんでらっしゃいました。」

つまりこのファンタジー世界の神々みたいなものか・・・

俺はひとまず呪いについて聞いてみる事にした。


「呪いを治す方法ってのは知ってたりする?」


「呪いとは?」

やっぱり無理か。


「同族に会う事ができなくなる呪いや、性別を変えるのとかだけど。」


「それなら分かります。」

俺はアリスの返事を聞いた瞬間、嬉しさのあまり叫び声をあげそうになった。そして、続く言葉を聞いて俺の頭はさらなる疑問符で埋め尽くされた。


「同族に会う事ができなくするのはクリスティナトロフィウィルスⅡ型の症状を活用したものだと推測されます。そして、性別を変えるのはトランスセクシャル・エッケハルト法だと思われます。性別を変えるにはその因子をもつ神工生命体(じんこうせいめいたい)を探し、もう一度能力により性染色体を書き換えてもらうか、ラボ4にある薬により性染色体を変かさせれば治すことができます。同族に会う事ができなくする能力はラボ16にいけば何か分かると思います。私にはそこのラボのアクセス権限は存在しません。」

言ってることは何となくしか分からないが、今までつかめなかった手がかりを見つけたのだ。

俺はアリスに聞いた。

「そのラボの位置は分かるか?」


「はい。ラボ16およびラボ4の位置をマップ上に表示します。」

アリスの横に地図が浮かび上がり、地図上に2つの赤い点が点滅していた。そのハイテクぶりに驚いたが、その地図の形はさらに俺を混乱させた。

俺の知っているこの世界で見た地図とは形が全然違っていたのだ。


「これってどこの地図だ?」


「この世界の地図です。」

今までルード皇国と魔導士学園で習ってきた地図が嘘だったのだろうか。しかし、俺はこの世界の北の大陸と南の大陸を旅してきたのだが、明らかに今見ている地図の方に違和感を感じた。


「この世界で見てきた地図とだいぶ違うように思うんだけど・・・他の惑星とかじゃ?」


「いえ、確かにこの世界の地図に間違いはありません。ただ、長い間外界と隔絶されていたため、現在の地形と多少異なる可能性はあります。」

多少どころか全く違うのだ。


「長い間ってどのくらい前の地図なんだ?」


「最後に地形のデータが更新された時が今からおよそ43956年前になります。」

昔すぎる・・・しかし、4万年くらいでここまで地形が変わるだろうか。


「その4万年前に何かあったのか? 隕石とか・・・」


「最後にデータが更新された3年前にイレギュラーな神工生命体(じんこうせいめいたい)が生まれました。その神工生命体(じんこうせいめいたい)は、『能力制御装置』を無効化する能力を持っていました。そして、使役された生命体を解放すべく創造主と隷属者との間で戦争が起こりました。計算では創造主が敗れることのない戦いだったのですが、その戦いの中、私のラボは地中へと沈みました。だから、その後地上で何が起きたのかは分かりません。そして、私のラボは長い間地中でスリープモードへと移行し、創造主が再度訪れていただくのを待ちました。そして、あなたの話を聞くと創造主はその戦いで敗れさったのかもしれません。地形を変えるほどのイレギュラーな何かが起きたと考えられます。」

・・・神は死んだ・・・そして、今の世界ができた・・・つまりは、そういう事なのか?


「今の地図からラボ4とラボ16の位置を予測するのってできるか?」


「大陸の移動や地殻変動や隕石など地上で起きた情報が不足しているので正確な場所の予測は困難かと思われます。」


「だいたいでいいからやってみてくれないか?」

俺は地図を持って来て、アリスに見せた。


「たぶんこの辺りかと思われます。誤差40万㎢内だと思われますが、イレギュラーな何かがあればその誤差はさらに広がると思われます。」

現在の地図に記されたラボ4は東にある島の上であった。そして、師匠の呪いを解くためのラボ16は海の底だった。誤差40万㎢がどのくらいかはいまいち分からないが、今までより一歩前進した事が俺は嬉しかった。ひとまず、このラボとやらを目指せばいいのだ。

俺は他にも聞きたいことを質問してみた。


「もしかしてラボ2にある薬の情報とかって詳しいの?」


「そうですね。ラボ2にある薬なら分かると思います。」

僥倖である。あの膨大な薬品の用途が分かるのはありがたい。


「ちなみに『マグナタイト』と『エーテリア』ってのはどんな薬品なんだ?」

試しに覚えていた薬品の名前を聞いてみた。


「お待ちください・・・・・・・・・どうやらラボ2のデータベースへのアクセス権限が失われているようです。ラボ2から持ち出された際に本体から切り離された様です。申し訳ありません。」

・・・残念であるが仕方ない。それにアリスにはやってもらいたい事が他にあった。俺はアリスにできる事や移動できる範囲を聞いた。


それにしても、俺の頭の中には一つの新たな疑問がよぎっていた。それは何故こんな謎な物体をアスカは知っていたのか。他にも知っている者はいるのか。俺にはそこである考えが浮かんだ。アスカは何かを隠しているんじゃないだろうか。そして、それは俺と同様のものであるのではないだろうか。きっとそうに違いない。俺は確信めいたものを感じていた。


そのことを確かめるべく俺は作戦を練った。この時にはもう当初のムフフな画像を見るという目的はすっかり忘れ去ってしまっていた。いや、たとえ覚えていたとしても少女の姿をしたアリスにそんな画像の閲覧を頼むことができるだろうか・・・・


答えは決まっている・・・・出来るわけがないのだ・・・・俺はズボンを下ろしていた事に気づきズボンをあげた・・・




















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