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第92話 魔法工学士の誤算

~魔法工学士・エドワードの視点~


私のいるラグーンという国は南の大陸の北東に位置し、カイエン王国とイーリス帝国に隣接している。

その昔、私達の国は『カガク』の力でこの大陸の3分の1を支配下においていたとも言われているが、今となっては本当かどうかも疑わしい神話のような話だ。何故なら、ラグーンは今となっては人口3万にも満たない小国家に過ぎないからだ。昔、それほど栄えていたとは誰も想像できない小さな国である。

文献にはこう記されている。

世界を三度(みたび)滅ぼしても、まだ余力の残る力を有したラグーンは神々の怒りに触れ、雷と炎の裁きを受けた。その裁きは凄まじく、ラグーンを襲った炎は7日間消えることがなかった。8日目に降った豪雨は三日三晩降り続き、その豪雨がやんだ時、首都付近はすり鉢状に地面がえぐれていた。

それを見た者達はいろいろな噂をし、後世へと語り継ぐことになった。

この世界の支配を目論んだ者達は、神々の怒りを買いこの世から消されたという説。神々の怒りから逃れるために首都ごとどこかに転移させたという説。

今となっては何が起きたのか真相を知る事はできなかった。

しかし、神話、民話、伝承、伝説、はては宗教の経典に私達のラグーンという国が神の怒りを買い、神と戦ったという事はいたるところに残されていた。

今では『カガク』という知識は失われ、代わって魔法の知識でこの世界が成り立っている。

そんな中、私達の国は魔法ではなく、魔法工学と失われた『カガク』の研究に励んでいた。書き残されたような強い国へとなるために・・・

そして、その願いを叶えてくれる可能性のあるものが私の前に現れた。

10年前に北の海岸に一艘の船が漂着したのだ。その船には豚人族(オーク)の死体が数体転がっていた。何故死んでいるのか、どこから来たのか誰も何もわからなかった。

そして、その船内には見たことのない素材や金属が積まれていた。

その中の1つに人型をしたゴーレムのようなものが素材や金属の中に埋もれていたのだ。そのゴーレムは国王の命令で我が国の研究機関に運び込まれた。そして、その研究機関で私はそのゴーレムを研究する事になった。

そのゴーレムのようなものは、右足の先端部分と左手が千切れて見当たらない状態だった。そして、その首筋からはいくつもの配線が飛び出ており、私の知るゴーレムとはいささか異なっていた。

私は高鳴る鼓動を抑え、ゴーレムの体内を調べた。そして、そのゴーレムの体の内部を見て驚いた。それは生き物ではなかったのだ。精巧につくられた人工ゴーレムだったのだ。誰が何の目的で作ったのか。

私はいろいろな部分を分解し、構造を調べた。

そして、幸運なことに頭部の損傷が少なかったので、人工ゴーレムの記憶を断片的にではあるが読み取ることができた。どうやら、この人工ゴーレムは転生・転移の儀式というものを試みていたようであった。

その記憶は最後の2年ほどの記憶で、それ以上前の記憶は残っていなかった。

誰かを蘇らせようとしていたのか、それとも何かを呼び寄せようとしていたのか。その法は成功した事が読み取れたが、その後その法によって呼び出された者がどうなったのかは分からなかった。

私は転生・転移の儀式に興味を持った。未だかってそのような魔法は聞いたことがなかったからだ。私は人工ゴーレムの構造を研究するのと並行して、転生・転移の儀式の研究も行う事にした。


そして、月日が流れ、人工ゴーレムを発見してから10年の時が過ぎた。

そしてとうとう私は転生・転移の儀式を成功させたのだ。

儀式には、奴隷の少年の体を使うことにした。どんなものが呼び出されるのかが分からなかったので少年の首には『隷属の首輪』をつけて儀式を行った。

その儀式を終えると、その少年は明らかに別人と思われる言動をしていた。その知識は遥かに私の知識を凌駕していたのだ。

しかし、少年との意識が混ざり合っているのか、おかしな言動も数多く見られた。その中には、「空に浮かぶ衛星『ラムーン』はラグーンの一部が昔この大地から切り離されてできたもので、その内部には今も子孫が生きている。」「こちらに戻りたいが、『ラムーン』内部にはこちらに戻るだけの資源がない。」「自分はそこの住人の1人だ。」など明らかに嘘と分かることがあった。少年の知る神話や伝説が混濁してしまったのかもしれない。

しかし、その呼び寄せた者のおかげで転生・転移の儀式の成功率がはるかにあがるようになった。その者が熱心に転生・転移の儀式に取り組んでいたからである。


そして、事件は5人目の転生・転移の儀式を行った時に起きた。

儀式を終えて目を覚ました青年が『隷属の首輪』に触れた時、『隷属の首輪』が触れた部分から霧散していき消えてしまったのだ。

私は焦った。本来『隷属の首輪』をつけられれば魔法は使うこともできないし、力も封じられるはずなのだ。私が後ずさると、その青年はその場にいた『隷属の首輪』をつけた4人のところへと行き、次々に『隷属の首輪』を消し去っていった。

「やっと自由になったよ。」

「それにしても、まだ『隷属の首輪』があるなんてな。」

「ホントそれな。自分で自分の首をしめるとはこの事だヨ。」

「王。これから、どうしますか?」

「まずはこの世界がどれだけ変化したかを知らねばな。」

5人は口々に話をし始めた。


「お、お前たちは・・・何者だ・・・」

私は5人に聞いた。

「だから言ったでしょ。衛星『ラムーン』の住人だって。転移させてくれたことには感謝していますよ。お礼に苦しまずに殺してあげますね。我々が転移者であることが広まると都合が悪いのでね。」

最初の転生者が答えた。

私はそれを聞いて背中から嫌な汗が流れるのを感じた。

私は命乞いをしようと口を開きかけた時、その場に倒れることになった。何をされたのか全くわからなかった。

私はこの時になって初めて、自分のした行為を後悔した。私は呼び寄せてはならぬ者達を蘇らせたのだ。

その薄れゆく意識の中、視界には人工ゴーレムが静かに座っている姿が映った。その機体には消えかかった文字で00-MKⅠと書かれていた・・・


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