第80話 廃館の呪い sideーB
~呪術研究会部長・クロエの視点~
今回の依頼に関しては、報酬や呪いについてはどうでも良いのです。私は先生の恋を応援したいのです。
私には作戦がありました。2人きりでドキドキするような体験を一緒にすれば、そのドキドキが恋だと勘違いして上手くいきやすくなると聞いたことがあります。
今回のシチュエーションは正にうってつけではないでしょうか。
依頼もCランクとそれほど高くないですし、危険性はあまりないでしょう。何とかして暗闇に2人きりにさせてあげなくては・・・
~魔法使い・ティーエの視点~
今回はCランクの依頼らしいです。依頼内容的に何のために全員で行こうとするのか謎な依頼です。部長のクロエさんは、私を必死に誘っていました。心細いのでしょうか。
心配しなくても大丈夫です。私はあなたを見捨てることはしません。必ず助け出してあげます。
私は変態悪魔達の動向に気をつけながら、廃館へと向かいました。
廃館に着くと変態悪魔が1人で様子を見に行くと言い出しました。
何が目的なのでしょうか。私は様子を伺いました。
すると、もう1人の悪魔も1人で行くと言い出しました。
何なんですか、この茶番は。
どちらが行っても、すぐ解決できるんじゃないですか。私は変態悪魔の常軌を逸した強さを身をもって知っているのです。Cランクの依頼等、取るに足らない事ではないでしょうか。私でも簡単にこなせる依頼です。
というより、もう2人で行ってもらって、私たちはここで待機するのが安全なのではないでしょうか。どうしましょうか。その事を提案してみましょうか・・・
そんな事を考えていると、クロエさんが先に提案しました。
「わ、私と、ドロニアさんとソロモンさんのグループと、せ、先生とアギラさんのグループに分かれて行動しましょう。」
な、なにを言い出すんですか。私たちはここで待っていればいいんですよ。わざわざ悪魔達と一緒に暗闇の中に飛び込む必要はないんですよ。
私はその時に思い出しました。そうです。何で私は忘れていたんでしょう。クロエさんの発言は操られているのです。
つまり2つに分けて、私たちを・・・・
その時ドロニアさんがカラスを召喚しました。
流石は特別クラスです。何かを感じ取ったようですね。そのカラスで依頼を達成しようとしていました。
クロエさんは発言を操られ、それを止めようとしているようです。
ドロニアさん、クロエさんの言葉に惑わされてはいけません。
しかし、カラスは目的を果たすことができずに意識を失ってしまいました。
何が起きたのですか・・・誰も魔法の詠唱はしていなかったはず・・・
いや、待ってください。そうですよ。この変態悪魔は詠唱なく魔法が使えるのでした。あまりに常識外れなので、すっかり忘れていました。何かの魔法で妨害したのは間違いありません。しかし、それが気づくことができるのは天才魔法使いであるこの私くらいでしょう。ドロニアさんは全く気付いていないようでした。
悪魔が廃館に入って行き、それをクロエさんとドロニアさんが追いかけました。
私は呼び止めようとしましたが、躊躇してしまいました。隣にいる変態悪魔が私の一挙手一投足に目を光らせているのです。
変態悪魔は私に話しかけました。
「先生にCランク依頼にまで来ていただいて、ありがとうございます。」
「えっ、い、い、いや。わ、私も、じゅ、呪術研究会の一員ですから、と、当然です。」
その時私には全てがわかってしまいました。
このCランク依頼はブラフだったのです。すべては私をこの人気のない森の中へとおびき出す罠だったのです。私は震えあがりました。
その時、突然、閃光があたりを包みました。
と、同時に部屋の中で何かが壊れる大きな音がしました。
今の光は何かの合図かもしれません。私は意を決しました。私の命はどうなってもいいのです。2人の生徒だけは何があっても守らなければなりません。
私は変態悪魔を押しのけて、2人の元へと向かいました。
~呪術研究会部長・クロエの視点~
ソロモンさんが先頭に立ち、ゆっくりと2階へと続く階段を上がっています。
「気をつけろ。」
ソロモンさんは私達の方を振り返りながら、気を配っていました。
ドロニアさんは私と横並びに階段を上っています。
2階に到着し、3階へと続く階段を上ろうとしたとき、3階の窓から眩しい光が差し込んできました。
「ぬうっ。」
ソロモンさんは手で窓から差し込む光を遮りながら、階段を駆け上がりました。
「私に任せろ。2人はそこで待機していろ。」
私達に頼りになる言葉を投げかけました。
隣にいたドロニアさんは魔法の詠唱を始めました。
『 風の精よ その舞を以て 我を守護せよ 旋風壁 』
風の防御壁は私とドロニアさんを包みました。そして、その風の防御壁は、階段の手すりを音を立てて吹き飛ばしていました。
私も結界を使って防御壁を張ろうとしたその時、階段の中ほどにいたソロモンさんが突然倒れてしまいました。
何が起こったのでしょうか。私には何もわかりませんでした。
そして、何か音が聞こえたと思った瞬間、私もその場に崩れ落ちました。薄れゆく意識の中で、隣にいたドロニアさんも同様に倒れるのが見えました。
~魔法使い・ティーエの視点~
2階に、クロエさんとドロニアさんが倒れているのが見えます。
「クロエさん。ドロニアさん。」
私は叫びました。2人は悪魔に気を失わされていました。その悪魔は階段の途中で倒れていました。どうやら相打ちになったようですね。
私は死を覚悟しました。私には敵うはずのない強大な相手です。しかし、生徒2人さえも守れないのに何が大魔法使いですか。
せめてこの2人が目を覚ますまでの時間稼ぎくらいはしてみせるつもりです。
私は魔法の詠唱を開始しました。階下にいる、変態悪魔に私の魔法をぶち込むのです。
一度洞窟では通用しなかったですが、あれから私も成長したのです。私の今出せる全魔力を込めました。
私はこれでどうなってもいいのです。だから私に変態悪魔を倒せる力を私に・・・
「 炎精よ 紅蓮の焔を纏いて 顕現・・・・ 」
私の魔法が発動することはありませんでした。詠唱が終わる前に不可視の一撃を喰らい気を失うことになったのです。何をされたかも分かりませんでした。
私はクロエさんとドロニアさんに覆いかぶさるように倒れこみました。
~マンドラゴラのリーダー・カールの視点~
どうやら、また侵入者が来ているようだっぺ。オラには魔力を察知する能力があるっぺよ。
おめぇら、オラたちの魂の叫びを奏でるっぺよ。
「 Hey Hey パーティナイ ♪ Wow Wow パーリピー ♪ 」
みんなが一斉に唄いだしたっぺよ。
何やら階段付近が騒がしいけんど、オラたちの唄を聞けばここまで辿り着くことはできないっぺよ。
みんな唄うっぺよ。踊るっぺよ。
少し経つと1人の男が扉を開いたっぺよ。その男は手に魔力を込めてオラたちを攻撃しようとしているっぺよ。
オラたちは震えあがりながら、隅に固まったぺよ。オラたちは儚い一生を思い返したっぺよ。
しかし、その男は何もせずに引き返したっぺよ。
その後、オラたちの前に信じられない方が訪れたっぺよ。樹木人族のマリオン様だっぺよ。
オラたちの現状を聞いて、住む場所を提供してくれるそうだっぺよ。なんていい方だっぺよ。
オラたちをマリオン様と引き合わせてくれたのが、さっき訪れた人族のアギラという人らしいっぺよ。
なんでも、マリオン様と仲が良いらしいっぺよ。
オラたちはお礼を言って、楽園へと向かう事にしたっぺよ。
オラは誓ったぺよ。必ず、このアギラという人族に恩返しする事を。
~魔法使い・ティーエの視点~
目を覚ますと、そこには見知らぬ天井がありました。
どうやら、私はベッドの上に寝かされている様でした。あれは、夢・・・だったのですか・・・
いえ、違います。服にはかすかに木屑がついています。あれは現実の事なのです。私はあの変態悪魔にしようとした行為に冷や汗を流しました。
あの後、気を失った私は何をされてしまったのでしょうか。私はそれを考えると寒気すらしました。
私は自分の体を確認しました。そして、安堵しました。どうやら、私の貞操はまだ守られているようです。
・・・そこで、私はふと気づきました。
あの場には悪魔が2人、そして女性は3人いたのです・・・・
私は気づきました。そして同時に2人に詫びました。
本来守るべき生徒達に、またしても守られてしまった事に気付いたのです。
悪魔達は私の体を見て、ターゲットを2人に絞ったのです。私は2人の安否が気になりました。
2人とも学校には登校しているようでした。つらい思いをしたというのに、いつもと変わらない態度でした。
次は必ず2人とも守ってみせます。私は心に誓いました。
私は自分自身を磨くために、今流行の美容エステへと足を運ぶことにしました・・・
~呪術研究会部長・クロエの視点~
今回もアギラさん1人で依頼を解決したみたいです。本当にアギラさんは凄いです。先生が惚れてしまうのもわかります。
何か2人の間に進展はあったのでしょうか。私には直接聞く勇気もありません。
先生は最近美容エステなるものに通いだしていると噂で聞きました。
先生はアギラさんを振り向かすために努力をしているみたいです。私も応援したいです。
以前のSランクの報酬もありますし、連休にでも、親睦を深めるために呪術研究会のメンバーで温泉旅行に行くのもいいんじゃないでしょうか。
確か美容に効く温泉というのがカイエン王国にあったと思います。『アバロン』という宿は予約が必要だと聞いています。これは早速手配しないとですね。予約が取れるといいのですが・・・