第78話 呪術研究会活動報告・その1
~吸血鬼・ソロモンの視点~
私が何故呪術研究会に入ったのか、何度か聞かれた質問だが、自分でもよく分からなかった。ただ入らねばならないという衝動があったのだ。
呪術研究会には特別クラスのアギラとドロニアがいた。そしてクロエという一般クラスのものが部長をしていた。
そして、ニーナが言っていたようにティーエ先生も参加していた。
私は他の研究会もあるので、週に2回の参加しかしなかったのだが、他のメンバーは毎日参加しているようだった。ティーエ先生も毎日研究しているみたいだった。
私には呪術というものがそれほど研究するに値する学問だとは思えなかった。しかし、ニーナも私に呪術研究会の活動について、聞いてくるので、私はだんだんと呪術というものに興味がでてきたのだった。
ニーナは特に『魅了』の呪いにとやらに興味があるようだった。
しかし、呪術研究会で研究対象にあがっていたのは、忘却の呪いや同じ種族が近づけなくなる呪いや妖怪を呼び寄せる呪いや回復不能の傷の呪いについてであった。
活動内容は、それを話し合ったり、資料を漁ったりしていた。たまに、呪いに関する依頼もこなしているらしい。
話し合いといっても、特に部長とアギラが話し合っているだけで、ドロニアは相槌を打つ程度、ティーエ先生はいつも上の空で聞いているようだった。
こうして呪術研究会に参加するようになったある日、私は呪いに関する資料を漁っていると『吸血衝動』というものを見つけた。
私はその資料に興味を持った。
吸血鬼の一族は日に一度、他種族の血液を欲する衝動に駆られるのだ。そして、衝動が起きた時に体内に血液を入れなければ、力を失い動く事ができなくなってしまう。
私の先祖はそれで苦労したと聞いたことがあるが、今は便利な世の中になったのだ。パックに入った血液をとある場所で購入することができる。私は昼食後にそれを飲むことによって、その衝動を抑えてきたのだ。
それは、種族の性だと思っていたが、もしかすると誰かに呪いをかけられているのかもしれない。
もしそうであるなら、私が一族にかけられたこの呪いを解呪してやるのだ。
私は確信した。この呪いを解くために、私の足は無意識のうちにこの呪術研究会にむかったのだ。何かに導かれたのかもしれない。断じてニーナの色香に騙されたわけではないのだ。
私は特待生として、この学園に入学した。この間もティーエ先生に期待の言葉をかけてもらった。一族にかけられた呪いを解く、これは私にしかできないことなのだ。
こうして私は徐々に呪術研究会にのめり込んでいくことになった。
~魔法使い・ティーエの視点~
ガラフは何を血迷ってしまったんですか。自分の目で確認してもらわないと意味がないじゃないですか。それどころか、変態悪魔に騙されて、あの北の大陸へ向かうなんて自殺行為もいいところです。
気付いてくださいよ。何故、北の大陸の山脈付近の事が分かるのですか。それこそが、変態悪魔であるという動かぬ証拠ではないですか。何故、こうもあっさりと信じてしまったのか・・・・
私は学校にある魔道具を使い、港へと連絡をいれました。当然、ガラフを止めるためです。しかし、時すでに遅しでした。ガラフ達は旅立ってしまった後だったのです。
私はそこで気づきました。変態悪魔は自分の正体がばれそうになったから、邪魔者を排除するために、北の大陸へとおびき寄せ始末するつもりに違いありません。なんて事でしょう。私が工房に一緒について行けばこんな事にはならなかったというのに・・・
私にできることは、この変態悪魔の動向を監視して、ここにとどめておくことぐらいです。ガラフ達では、この変態悪魔が北の大陸へと向かえばひとたまりもない事でしょう。あとはガラフ達の無事を祈るしかありません。
ジークに相談したいですが、まだ新婚旅行から帰ってきていません。
仕方がありません。私は1人で変態悪魔の情報を集めることにしました。
ドロニアさんは教室で1人でいたので、私はいろいろと聞こうとしました。しかし、その返答は短く、私の考えを裏付けるものはありませんでした。その時、私は視線に気づきました。
変態悪魔がこちらを見ていたのです。そうです。何故気づかなかったのか。こんな近くに変態悪魔がいたのでは、決定的な証拠を聞き出すなんて不可能なのです。
私は一般クラスのクロエさんの元へと向かいました。ここなら、変態悪魔の目も届かないでしょう。
「呪術研究会の調子はどうですか?」
「せ、先生が、一般クラスに来てくださるなんて。じゅ、呪術研究会は廃止を免れて、じゅ、順調です。」
私は、特別クラスの講師なので、一般クラスに足を運ぶことは滅多にありあません。だから、一般のクラスの生徒たちは教室の外から、私を見るために集まっているようです。
「アギラ君についてはどう思いますか?」
「・・・す、すごいと思います。」
私の欲する答えではありませんでした。
「何かされたりしてませんか?」
「?? い、いえ、特に何も・・・」
私は質問を変えて変態悪魔の事を聞き出そうとしましたが、尻尾をつかむことはできませんでした。
そこで私は気づきました。この天才魔法使いである私でさえ幻惑魔法にかかりそうになったのです。一般クラスのクロエさんではひとたまりもないんじゃないでしょうか。
そうです。さっきから、喋るときに何かに抵抗するかのように喋っているではないですか。意思に反して喋らされている・・・
私はクロエさんから変態悪魔の決定的証拠を聞き出すことを諦めました。
特待生で入ったソロモン君なら何か聞く事ができるかもしれません。彼なら、変態悪魔に操られるような事はないでしょう。
ソロモン君は食事の後一人でどこかに行くのを私は知っています。私は同じミスを繰り返さないのです。
ソロモン君が一人になったのを見計らって、私は声をかけました。
「ソロモン君。」
ソロモン君はびくっとして振り返りました。
「ど、どうしたんですか? 先生。」
右手には何かを握っており、それを口につけていました。慌てていたのか、その右手から少し赤い液体が飛び散っていました。
「いえ・・・何を飲んでいるんですか?」
私のセンサーが反応しました。この天才魔法使いしか感じ取れない微かな違和感を感じました。
「えっ、あー。これですか。これはトマトジュースですよ。」
そう言って、右手を開きました。そこには透明な袋のようなところに赤い液体がありました。
「そうなんですか・・・」
私の本能が告げています。何かおかしいと・・・
「ところで、どうしたんですか?」
「いえ、何でもないんです。ちょっと声をかけただけです。勉強頑張ってくださいね。特待生のあなたには期待してますよ。」
「ありがとうございます。では・・・」
ソロモン君はそそくさとどこかへと消えていきました。
何故トマトジュースが透明な袋に入っているのか。何故食事の後すぐに飲まずに、教室から離れて、一人になった時に飲んでいたのか。教室で飲んでから行動すれば良かったのでは・・・
私は地面に飛び散った赤い液体を指につけました。そして、匂いを嗅いでみました。しかし、よくわかりませんでした。
私は恐る恐る舌につけました。
鉄の味・・・ま、まさか、こ、これは血ではないですか。
私はすぐさま水の魔法で水を出し、うがいをしました。
どういう事ですか・・・何故ソロモン君は血を飲んで・・・
その時、私には全てが分かりました。ソロモン君はあの変態悪魔の仲間なのです。危ないところです。そうとは知らずに変態悪魔の事を探ろうとしていたのですから。あのまま変態悪魔の事を探っていたら、私はこの世から消されていたに違いありません。
間一髪でした。この天才魔法使いの私でなければ、気付かずにジ・エンドでした。
となると、特待生で入ったリーンさんも怪しく感じてきます。いつも仲良くしているようですし。そして、00とかいうゴーレムなんて見るからに怪しいです。
何てことでしょう。特別クラスには、あの変態悪魔の手先が無数に潜んでいるのです。私は気づかないうちに四面楚歌の状態だったのです。何故今まで気づかなかったのか。こんな状態で変態悪魔の事を探るなんて自殺行為もいいところです。これは迂闊に動くことができません。
ジーク、早く帰って来てください。
私はジークの帰りを待つことにしました。
~呪術研究会部長・クロエの視点~
研究会の廃止を免れて、私はほっとしています。私の代で潰れては先輩たちに顔向けできませんでした。
この間、クラスにティーエ先生が訪ねてくださいました。私なんかが本来話せる人ではないのは分かっています。
それにしても、何故アギラさんの事をあんなに聞いてきたのでしょうか・・・
私はピンときました。
先生はアギラさんに恋してしまったのではないでしょうか。そういえば、いつもアギラさんの様子を伺って、ボーッとしている気がします。
生徒と先生の禁断の愛・・・
私の鼓動が早くなっているのを感じます。
私も何か協力できないでしょうか。
そういえば、Cランクの依頼で『呪いの廃館の調査』というものがきていました。これは、2人の仲を縮めるのにいいかもしれません・・・