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第70話 因縁

 今、追い風が来ているのを感じる。


 ティーエ先生も呪術研究会に加入してくれたので、あと1人で存続することができる。

 無詠唱で魔法を放った後、ティーエ先生は驚きすぎて呆気にとられていた。


うぷぷ。それにしても、あの驚きっぷりたらなかったな・・・


 無詠唱にこれだけの価値があるのであれば、これを材料にすれば、後1人くらい勧誘できそうな気がした。だから、ティーエ先生には無詠唱に関しては秘密にしてもらう事にした。ティーエ先生から広まってしまえば、交渉の材料として使えなくなってしまうからだ。ティーエ先生は、無詠唱を極秘のスキルと思ったのか、秘密にすることを2つ返事でOKしてくれた。


 後1人誰か最適な者はいないだろうか。

 クロエの話では、一般の学生は研究対象を1つしか選べないため、呪術研究会に入ろうとする者は滅多にいないらしい。みんな魔法使いを目指しているので、魔法の研究をするためにこの学園に入っているのだ。


 そうなると、特別クラスの誰かか、ティーエ先生のような講師か、この学園のOBに絞って勧誘するのがいいだろう。現実問題として、OBに知り合いはいないので、特別クラスか、講師か・・・

そんな事を考えていると、ドロニアが俺に声をかけてきた。


「ちょっと、いいかしら。」

最近、少しではあるが、ドロニアとも会話できるようになっていた。と言っても1日に1回くらい喋るくらいだが・・・


「どうした?」


「私の師匠がアギラに話があるって。会ってほしいんだけど・・・」

師匠?誰だ、それ?


「何で?」


「呪いの事で話があるらしい。」

ドロニアは俺に地図らしきものを手渡した。一緒には行ってくれないようだ・・・

それにしても、呪いって事は例の忘却の呪いにかかっているって人の事だろうか。


「その人って、忘却の呪いにかかっているって人?」

ドロニアはコクリと頷いた。


何で俺と会いたがっているのか?ドロニアが何か言ったのだろうか・・・


 地図を見ると、北西にある森の中に印がついていた。ここから距離はあるが、空を飛べば1時間くらいで着く距離だった。

 呪いについて、いろいろ聞くことができるので、俺は早速行ってみる事にした。ドロニアは、必要最低限の事しか言ってくれないので、当事者にいろいろ聞いた方が分かる事も多いだろう。


「じゃあ、今から行ってくるよ。勧誘頑張ってくれ。」

そう言い残して、俺は印のついた場所へと向かう事にした。


 印の付いた場所がある森の上空から下を見ると、白い直方体の建物が森の中にあった。

『あれかな・・・』

俺は玄関の前に降り立ち、扉を叩いた。


「すいませーん。」

しばらくすると、その扉が開き、白い髪で、肩よりも長く、顔には皺の刻まれた老人が現れた。老人の見た目ではあるが姿勢は良く、一見すると女性か男性か分からなかったが、声を聞くと男性である事が分かった。


「ドロニアに言われて来たんですけど、アギラと言います。」


「おお、意外に早かったな。吾輩はエニグマという。入ってくれ。」

えっ。今、エニグマと言ったか。ルード皇国にあった本の著者名と一緒だったので驚いた。

俺はフラスコやビーカー等が置いてある研究室のようなところに通された。

まわりを見渡すと、棚にはいろいろなものが置かれていた。剣や盾、お面やお札、昆虫のような標本などもあった。


「早速だが、吾輩の事はドロニアからどこまで聞いている?」

エニグマは話を切り出した。俺が答えようとした時、フードの中に入っていたアーサーが顔を出して、棚の中から何かを見つけてそこへと飛んで行った。

それを見たエニグマの顔つきが変わった。


「き、貴様はー・・・」

エニグマはアーサーに掴みかかった。


「何するにゃー。手を放すにゃー。」

アーサーは掴まれた手を振りほどこうとした。

エニグマはアーサーを掴んだ後、何かに気づいた様子で、手を離した。


「す、すまない。取り乱してしまった。知ってる妖精猫(ケットシー)にそっくりだったもので。よく見たら違っていた。」

俺は他の妖精猫を見たことがないが、皆似ているのかもしれない。


「本当に、いきなり何なんだにゃ。けしからんにゃ。」

アーサーはいきなり掴みかかられて怒っていた。


「この妖精猫の名前は何と言うんだ?」

俺が答えようとする前にアーサーが答えた。


「あっちはケットシーのクイーン、アースーにゃ。今はアギラの使い魔をやっているにゃ。」


「・・・そ、そうか。似ているが、どうやら、猫違いだったようだ。本当に、すまない。」

いや、お前はアーサーだろ。訂正はしなかった。


「まあいいにゃ。許してやるにゃ。あっちは人に恨まれるような事はした事ないにゃ。」

確かにドジではあるが、人から恨まれるタイプではないだろう。


「分かった。・・・では、話を戻すが、吾輩の呪いについて何だが、どこまで聞いている?」


「忘却の呪いというものにかかっていると聞いています。それがどんな呪いかまでは聞いてませんが、名前からすると記憶が失われるとか、そういう感じですか?」


「そうだ。他者から吾輩に関する記憶がなくなってしまうのだ。」


「えっ。」

俺はてっきり、呪いにかかった者の記憶が失われていくような類の者だと思っていたが、違うのか。


「じゃあ、ここで会った記憶とかって、明日になれば俺の中から失われていたりするんですか?」


「通常ならそうなるのだが、お前さんの場合は違うと思う。呪いに耐性がありそうだからな。」

どうして分かるのだろうか。ドロニアから何か聞いたのだろうか。


 そこで俺は思い当たる事があった。何故アーサーだけがオスからメスに変化したかと思っていたが、本当はあの時、悪魔族はあの場にいるドロニアと俺とアーサーに呪いをかけようとしたのではないだろうか。


 そして、ドロニアは呪いに耐性があると言っていたから、俺とアーサーが呪いにかかるはずだった。しかし、俺にも呪いはかからなかった。それを見ていたドロニアが、その事を伝えたのかもしれない。

俺は、自分の予想が正しいのを確かめるために聞いてみようとした時、アーサーが会話に入って来た。


「この人形は何ですかにゃ?」

そこには、アーサーが持っている人形に似た人形が何体か置いてあった。


「それか?それは、吾輩が作った人形だ。呪いを研究している中でできた人形だ。自己修復の呪いのかかっておる。」

自己修復って事は、壊れても勝手に修繕されるという事か?


「呪いじゃなくて、良い事なんじゃ?」


「いや、所有者が、何を犠牲にしても修復しなければならないという欲求にかられるようなんだ。はじめは吾輩の事を世に知ってもらうために作ったんだが、そんな呪いがかかってしまうとは気づかなかった。それで、慌てて回収したんだ。吾輩の忘却の呪いを少し弱める効果があったんだが、そんな副作用があったとは失敗であった。」

それは、結構やばいな。あの時の人はそれであんな事になったのだろうか。


「話は中断してしまったが、どこまで話したか・・・そうだ、お前さんには呪いに耐性があるかもしれん。だから、お前さんの血液と髪の毛を頂きたいんだが。いいだろうか?」


「それは構いませんが、それで何か分かるんですか?」


「知ってるかもしれんが、ドロニアには呪いに耐性がある。そして、ドロニアの体を調べて、普通の者と違う因子について調べていたんだが、同じ種族であっても違う因子はかなりあって、何が呪いに耐性があるのか特定できなかった。そこで、今度はお前さんの体を調べれば、今度はドロニアとだけ共通な因子を調べれば、ぐっとその調べる対象は減る可能性がある。つまり、呪いに耐性がある因子が特定できるかもしれん。」

なるほど。皆とは違っていて、なおかつ俺と共通の因子に絞るために俺を呼んだのか。


「分かりました。どうやって、血液を採るんですか。」


「そうか、やってくれるか。ちょっと待っていてくれ。」

そう言って、エニグマは部屋を出て行った。

アーサーを見ると、空中でプルプルと震えていた。

そして、時空から人形を取り出すと、その人形を叩きつけた。


「なんにゃー。何か懐かしい感じがしたと思ったら、騙されたにゃ。こんなものいらないにゃー。」

俺は人形を拾った。この人形は確かに危険な感じがするので、俺は人形が置いてある棚に一緒に置いておくことにした。1体増えててもあまり気にしないだろう。

アーサーは不貞腐れて、フードの中で眠りについた。


その時、扉が開きエニグマが戻って来た。その手には注射器を持っていた。

「これで、血液を採取したいのだが。いいか。」


「分かりました。」

俺は身体強化を解いて、血液の採取をしてもらった。


 その後、呪いついていろいろと話を聞いた。悪魔族以外にも呪いを使えるものがいる事や、物にも呪いが宿る事。解呪の方法も、対になる呪いによって治す方法、かけた本人によって解呪してもらう等いろいろと聞くことができた。

そして最後に1本の瓶を渡された。


「ないとは思うが、もし今日の記憶が失われれば、これを飲むといい。関わった物の持つ吾輩の記憶を少し取り戻す事はできるようだ。」


「わかりました。ありがとうございます。」


「では、また何かあったら呼ぶかもしれん。それと、ドロニアと上手くやってくれるとありがたい。少し他人と話すのが苦手なところがあるが、優しい子だ。」


少しではない気がするが・・・ドロニアは喋りたくないのではなく、苦手なだけなのか。クロエとは結構喋っていたから、何か通じるものがあったのかもしれない。これからは積極的に話してみるか・・・


俺はエニグマの家から出た後、空を飛ぶためにアーサーにまな板を出すように言った。

「うんにゃ?にゃにゃ。」

アーサーは時空の中から何かを探していた。まな板がなくなったのだろうか。


「ないにゃ。あっちの人形がなくなっているにゃ。どういう事にゃ?」

・・・どうやら記憶がなくなっているようだった。エニグマの家から出て、少しで呪いが発動したのか。俺は覚えているという事は、呪いに耐性があるというのは本当のようだった。

俺は、アーサーにエニグマから貰った瓶を渡した。


「これを飲め。何があったか思い出すはずだ。あれには呪いがかかっていたんだ。だから、人形は置いて来たんだ。」


「分かりましたにゃ。・・・んぐ・・んぐ・・・にゃ、にゃ・・・思い出したにゃ。」

それは良かった。人形の事で機嫌が悪くなっても面倒くさいからな。俺は安堵した。


「・・・さっきのあいつは、あっちを何度か召喚して、毎回あっちに無実の罪を着せようとしてきたやつにゃ。あいつは男の魔女族にゃ。いっつも時空に逃げ込んで、何とかしてきたにゃ。魔女族には気をつけた方がいいにゃ。よく分からない事を言って、謝罪を要求してくるにゃ。」

ん?

何か違う事を思い出しているようだった。

そういえば、アーサーの姿を見て猫違いだと言っていたが、股間を見てそう思ったのだとすると、猫違いというわけではないのかもしれない。名前もアースーと似ていると言ってたような気がする。

エニグマとアーサーには何か因縁があるのかもしれない。


俺はエニグマの怒り方を思い出して考えた・・・


俺はこの事は胸の内にしまっておく事に決めた。






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