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第65話 上級悪魔

~上級悪魔・フルーレティの視点~


私達悪魔族(アクマ)は、怠惰な種族である。その中でもベルゼブブ様のやる気の無さは群を抜いていた。


私達悪魔族(アクマ)は、自分の縄張りに結界を張り、その外へと出ることは滅多にない。何も食べなくても、10年は生きることができるので、悪魔族は結界の中で、1日中、ゴロゴロして過ごしている。しかし、悪魔族が活発に活動する時期が存在する。それは、魔王が降臨した時である。魔王は周期的に復活を遂げ、私達に命令を下す。魔王の命令を受けた者は、その命令に絶対服従をしなければならない。それが、私達悪魔族が生まれた時から持つ《魔王の支配(デモンズ・ルール)》という逃れられない呪いだった。


ベルゼブブ様は、魔王の命令に従う事を忌避しようと考えていた。700年ほど前に西の大陸を攻める命令を受けて、ベルゼブブ様の部下がほとんど死んでしまったからである。


ベルゼブブ様は、魔王の再誕が近い事を知り、西の大陸を離れるべく、悪魔召喚の術に応じた。幸運にも、召喚された場所は南の大陸だった。その場所にいた者たちを追い出し、結界を張り、そこを新たな根城とした。


ベルゼブブ様は、転移という特殊な魔法を使うことができた。転移の魔法は一度行ったことのある場所ならば、瞬時に移動できる魔法である。


その魔法で、東の大陸へと戻り、何人かを南の大陸へと誘われた。しかし、その誘いに応じるものは私以外にはいなかった。他の者達は、魔王が復活したことを信じていないし、そもそも自分たちの縄張りから動くことを面倒くさがった。


こうして、私とベルゼブブ様は、魔王の命令を回避するために、この南の大陸の山の中で暮らすことになった。


今日もまた変わらぬ怠惰な1日が過ぎていくと思っていた。しかし、それを許さぬ来訪者が突然現れた。

背後の扉から、風の魔法で攻撃を受けたのだ。


その風の刃はなかなかの威力があった。私でなければ、四肢を寸断されていもおかしくはなかった。

しかし、私の得意とする氷の魔法は風の魔法に優位性があった。私は、魔法攻撃が当たる瞬間に、咄嗟に氷の障壁を張った。そのおかげて、致命傷を避けることができた。


『 氷精よ 大気の水を昇華し 礫と成せ 氷礫陣(アイス・アレイ) 』


すぐさま、私は氷の魔法を唱え、部屋中に雹を出現させた。私のこの魔法は、私の意志で半永久的に雹を出現させ続けることができた。相手にぶつけて無くなれば、自動的に雹が部屋中を埋め尽くす。


『 風の精よ その舞を以て 我を守護せよ 旋風壁(ウィンド・ウォール) 』


来訪者はその周りに風の防御を張った。それを見て、私は、この戦いの勝ちを確信した。

私の氷の魔法を見て、優位性のない風の魔法で防ごうとしているという事は、相手は風の魔法しか使えない可能性がある。氷の魔法で攻撃を続ければ、いずれ倒せるだろう。


私は、部屋中にある雹を相手にぶつけた。

風の防御で、大半が防がれ、周りに飛び散った雹が部屋を破壊してしまったが、2割くらいの雹は風の防御をすり抜けダメージを与えることに成功していた。


私は再び部屋中に舞っている雹を相手へとぶつけ続けた。

このまま続けていこうと思った時、扉から2人目の来訪者が現れた。


「おや、もう1人、侵入者がいたようですね。しかし、たった2人でベルゼブブ様に仕えるこの上級悪魔であるこの私、フルーレティに挑むとはとんだ命知らずがいたものです。」

私は雹の攻撃対象を2つに分けた。1つは今まで通り風の防御にぶつけ、もう1つは新たな男の来訪者にぶつけることにした・・・・


驚いたことに、私の雹は新たな男に着弾することはなかった。その男の1m手前で全て気化してしまった。


そして、驚いた事はそれだけではなかった。

部屋中に小さな黒い炎の粒が浮いていた。その粒は、私が生成した雹を、全て気化させ続けていた。


「そ、その炎は・・・」

私の雹は普通の火の魔法くらいで溶けることはしない。しかし、その黒い炎は簡単に私の魔法を無効化していた。


そして、私はその炎を前にも見たことがあった。700年前に西の大陸へと攻めたときに竜が吐いていた黒炎と同種のものだった。あの炎に悪魔族は一網打尽にされてしまったのだ。


「まさか・・・・そんな・・・」

その男は黒い炎を完全に操っていた。その男の手の上には黒い炎の球体が出来上がっていた。


「降参するか?」

その男は、攻撃をして来ずに私に降伏を勧めてきた。


しかし、私は応じない。ここにはベルゼブブ様がおられるのだ。少し待てば、気付いてこちらにいらっしゃるだろう。ベルゼブブ様が本気を出せば、何とかしてくださるだろう。


私はそれまで時間を稼げばいいのだ。

私は無言で2人との間合いを詰めた。私には奥の手があった。


私の固有呪術である。私の使える呪いは、戦闘ではあまり役に立つものではなかった。せいぜい驚いて、すこし時間を稼ぐことができる程度であろう。しかし、今の状況なら、有効かもしれない。もしかすれば、交渉の切り札になるかもしれないのだ。

私は呪いを発動した。


『 歪んだ世界(セクシャル・チェンジ) 』

私の呪いは、半径5m以内にいる生物の性染色体を書き換える。つまり、雌雄を逆転させるのだ。


・・・・・


しかし、その呪いは目の前にいる2人には効果が出なかった。

『なぜ?・・・呪いに耐性があるの?・・・2人とも?・・・そんな馬鹿な・・・』

私は後ずさった。


「ここから出て行くなら、手荒な真似はしないけど・・・」

男は再度、提案した。


ベルゼブブ様さえ来れば、ベルゼブブ様さえ来れば。


私は心の中で反芻した。


そして、その祈りは通じた。


2人の後ろにある扉をベルゼブブ様の漆黒の右手が掴むのが見えた。

これまでだ。愚かな来訪者共よ。ベルゼブブ様が本気を出せば、お前ら等一瞬で葬り去ってくれよう。

扉が開き、ベルゼブブ様がその姿を現した。2人は振り返り、ベルゼブブ様の姿を捉えた。


その姿は全身火傷の傷を負い、瀕死の重傷だった・・・・





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