第59話 実技試験
実技試験は5人ずづ行われた。名前を呼ばれた5人が1組になって、運動場や体育館や学校の外へと連れていかれることになった。
俺は学校の外へと行くことになった。そこには5つ席が用意してあり、名前を呼ばれた順番に着席させられた。俺は左端の椅子に座ることになった。
目の前に1人の試験官が立っており、いろいろ説明をしていた。そして、離れて右のほうに2人の試験官が手にペンと記録用紙の載った板を持って立っていた。
どうやら、魔法の資質を見るために、試験官が指定した魔法を発動させ、横の2人が採点するということだった。
『これだよ、これ。これで昨日の失点を挽回できる。』
俺は全力で魔法を披露し、試験官の度肝を抜いてやろうと考えていた。
「では、右端のモネさんからお願いします。ファイアはできますか?」
前にいた試験官は手に持った板に目を落としながら、尋ねた。
「すみません。ファイアはできません。」
「では、氷槍はどうですか?」
「それなら、大丈夫です。
『 氷精よ 森羅万象凍てつかせ 穿て、貫け、切り刻め 氷槍 』」
一つの小さな氷の礫がモネさんとやらの前方に飛んで行った。
『うぷぷ。俺なら無数の鋭利な刃物を飛ばしちゃうよ。』
俺は心の中で自分の力を再確認した。
「まだいけますか?」
「はい。あと一発くらいは大丈夫です。」
「では、氷壁はいけますか?」
「はい。『氷精よ 氷の守護で 万難を隔絶せよ 氷壁』」
顔と同じくらいの大きさの薄い氷が生じた。
『薄いよ。モネさん。それじゃあ、ひのきの棒も防げないよ。それに、なんかもう疲れているみたいだな。』
「わかりました。では次のコナー君お願いします。」
こうして、残りの3人も、試験官から言われた魔法をできるか、できないかを聞かれ、できる場合はその魔法を使うという事を繰り返した。だいたい、みんな2発か3発撃ったら疲れて終了となった。
その度に、横にいた試験官は記録用紙に何かペンで書きこんでいっているようだった。
そして、右隣のやつが終わり、とうとう俺の番が来た。試験管の口が開いた。
「それでは、これで終了になります。お疲れさまでした。」
はっ??俺は?
「ちょっと待ってください。俺を忘れてますよ。まだ試験を受けてませんよ。」
「あー、あなたは昨日の試験で、魔法詠唱の部分が0点でしたので、勉強のために試験に同席できるようにしましたが、やっても無駄でしょう。」
「おい、聞いたか。」「0点だってよ。」「何でここに受けに来たんだ?」「くっくっく・・失礼。」
横に座っていた受験者が、ざわついていた。
「いや、魔法は使えるんですよ。なんなら全部使って見せますよ。」
「この詠唱で、ですか?」
試験官は手に持った板に目をやりながら、聞いた。どうやら、手には昨日の俺の解答用紙を持っているらしい。
「第一問のファイアの詠唱に『 獄炎竜よ 我が魂を贄として 灼熱の門を開け 』と書いていますが、これではファイアの魔法は発動しませんよ。そもそも、魔法というものは精霊の力を借りるのであって、竜の力を借りるものではありません。 」
それを聞いた受験者は笑いながら、口々に俺を馬鹿にした。
「そんなんで発動するわけないじゃない。いくらなんでも、バカすぎでしょう。」
コノヤロー。さっき、あんたもファイアできないとか言ってたじゃねえか。
「書けばいいってもんじゃないんですよ。獄炎竜って、うぷぷ、笑えますね。」
許さねー。顔は覚えたからな。
「魂を贄としてどうするんだ。自分が死んじまったら意味ないじゃん。アホだな。」
後でぜってー、シメる。
「今時、灼熱の門って、中二病でも思いつかないぜ。あれだろ、小二病じゃね。」
殺す。どうやら、この世界に来て初めて殺人のハードルをクリアするための犠牲者はお前のようだな。
俺は心の中で、魂の雄叫びをあげ続けた。
「分かりましたか。こんな詠唱ではやるだけ無駄ですよ。あなたが恥をかくだけです。」
俺はそのとき脳裏に稲妻が走った。昨日のテストを逆転できるウルトラC的なアイデアが閃いた。
俺は冷静に戻り、切り出した。
「私の島国では、その詠唱で魔法を発動しているのです。試しにやってみてもいいですか?」
「この詠唱でできるならやってみせてください。どうせ無理でしょうけど・・・」
「できないって認めちまえよ。」「気持ちは分かるが、あきらめろ。」「往生際が悪いわね。」「くっくっく・・・失礼」
笑ってられるのも今の内だ。
俺は詠唱を開始した。それと同時に3種類の魔力を手で合成する。
『 獄炎竜よ 我が魂を贄として 灼熱の門を開け ファイア 』
詠唱が終わると同時に俺は魔力を放出する。前方には大きな炎があたり覆う。
「そ、そんな・・・」
試験管は驚いていた。
「えっ?」「何だ?」「何で?」「大きすぎる・・・」
受験者も何が起こっているのかわからなかった。
俺は炎を消した。
「どうですか?その詠唱でも魔法は発動したでしょう。」
「・・・・では、風の刃も、この詠唱で使えるのですか?」
「はい。大丈夫です。」
「 切り裂け 風の刃 」
遠くまで風の刃が飛んでいく。
「馬鹿な。詠唱短縮だと。」
「いえ。そもそも、風の刃に『切り裂け』、なんて一節ありましたっけ?」
横で採点していた試験官2人は見当違いの事を口にしていた。
俺はその後も昨日書いた魔法の詠唱で、魔法を発動し続けた。全部覚えているのかって?当然だろう。この魔法の詠唱は半年もかけて自分で作り出したものだ。忘れるはずがないだろう。俺のあの忌まわしき病にかかった半年は無駄ではなかったのだ。
途中何度も「まだ大丈夫なんですか?」と聞かれたので、俺は調子に乗って、「そこに書かれた詠唱だと魔力の効率があがるので、まだまだいけますよ。」と答えた。俺の答えが、正解よりも素晴らしいと思わせるためである。昨日答えた解答を全て正解に変える、まさにウルトラCの力技である。
俺が昨日答えた魔法を全部撃ち終えたところで、試験管3人は集まり何かを話し合っていた。そして、1人が俺たちの前に戻ってきて告げた。
「ひとまず、これで試験終了です。では、皆さんお帰りください。」
俺は試験していた場所から離れて、そのまま宿へと帰ることにした。
後は合格発表を待つだけである。俺にも希望が出てきたかもしれなかった。
これは後で知ることになるのだが、俺の答案用紙は魔法研究機関へと送られ研究されることになる。その研究は金と人を割き、1年にも及んだ。しかし、誰1人その詠唱を使いこなすことができなかったため、その研究は打ち切られ、その答案用紙は資料館に展示される事になるのだった・・・・