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第38話 旅立ち

 俺は洞窟へ行き、師匠に出発の挨拶をした。

「旅をするなら供を連れて行くとよい。」

師匠はおもむろに地面に召喚陣を描き始めた。


「では、魔力を注入するのじゃ。」

俺は召喚魔法を使うことができるのだが、召喚陣を描く事ができなかった。呼び出すものによって、図柄が異なるからだ。それを綺麗に描くことはなかなか難しかった。


俺は召喚陣に魔力を注入すると、召喚陣から光が発した。


「呼ばれて飛び出てニャニャニャニャーン。あっちはケットシーのキング、アーサーにゃ。」

召喚陣から、1匹の喋る猫が飛び出て、空中を浮いていた。


「こいつは?」

俺は師匠に尋ねた。


「アーサーじゃ。昔、一緒に旅したとともある。旅をするなら、なかなか使える奴じゃ。」

俺はこの猫が?と疑った顔をした。


「あっちの新しいマスターは見る目がないですにゃ。」

どうやら俺が訝し気な顔をしていたのを見とがめたらしい。


「いや、そんなことはないけど・・・」

俺は弁解した。


「召喚したものは、この世界に留めておくのに魔力を必要とする。アーサーなら、こちらの世界に留めておくのにそれほどの魔力も必要としないから、常に現世に召喚したままにできるぞ。注意するのは、召喚したものは、自分の半径500mを離れると元の世界に帰ってしまうから、気をつけるのじゃ。」

師匠は解説をしてくれた。


「この猫は何ができるんですか?」

俺が師匠に質問をしたが、その返事はアーサーが答えた。


「ふっふっふ、あっちの特殊な魔法はこの世界でも無敵にして唯一無二の魔法ですにゃ。」


『なんか凄そうだな・・・』

アーサーは詠唱を始めた。


「 時空を統べる鍵よ 宵闇の扉を開き 我が神殿を開放せよ 」

アーサーの横に次元の切れ目が生じ、丸い円を描いた。そして、ふわふわとアーサーがその中に入ると、その切れ目が閉じた。


すると、アーサーが消えて、元の空間に戻った。少し待ってもアーサーは出てこなかった。


『ん?』

俺は師匠に聞いた。


「師匠、アーサーはどこへ?」


「亜空間の中じゃ。契約者なら、呼び出せばまた出てくるじゃろ。」

俺は呼び出しの方法を知っていたので、魔力を出し呼び出した。


「出でよ。アーサー。」

目の前にアーサーが、少し眠そうな顔をして目をこすりながら、現れた。


『こいつ寝てたのか・・・』


「どうだにゃ?凄さが分かったかにゃ?」


「うん?隠れるだけなら意味ないんじゃ。他に何かできるのか?」

やれやれというように首を振りながら、両手を広げていた。


「あっちの魔法はこれだけですにゃ。この魔法は敵の攻撃から避けることができる無敵の能力ですにゃ。この凄さが分からないですかにゃ・・・」

隠れるだけってのが、あまり凄さが分からなかった。何故旅するのに有効なのだろうか?

 俺が疑問に思ってるのを察して、師匠が補足説明をしてくれた。


「その亜空間にはものをしまっておくこともできるんじゃ。アーサーが居れば、手ぶらで旅をすることができて良いぞ。」


『なるほど。今は特に荷物がないが、荷物ができれば便利だな。』

俺は納得した。


「失礼にゃ。あっちの能力は決して荷物持ちとしての能力にあらずにゃ。」

アーサーは納得していなかった。


「とっつきにくいところもあるが、仲良くなればいろいろしてくれるじゃろう。」

師匠は俺に耳打ちをした。


『信頼関係を築いていかないといけないという事か・・・』


「あとは・・・そうじゃ、失敗作の薬を持っていっても良いぞ。我の呪いには効かんが、人間の治癒などには使えそうだからな。路銀に困ったら売って金の足しにでもすると良い。」

それはありがたかった。師匠の作った紫の液体の有効性は、嫌というほどわかっている。特訓の時に肉体の一部が損傷しても、何度もその薬で復活できたからだ。修行でかなり使ったが、まだ結構残っていた。


「ありがとうございます。大切に使わてもらいます。」

5、6本手に取って、腰に巻いたカバンに入れようとした。


その時、ふと考えた。

「アーサー。この薬をさっきの亜空間の中にいれて持っていけたりする?」


「ふっ、ふっ、ふ、そんな事、造作もない事ですにゃ。」


「凄い。アーサー様の魔法を見誤っておりました。ぜひこれらを入れていきたいんですが。」

アーサーは少し照れていた。


「そうかにゃ。わかったならいいにゃ。今回は特別にゃ。」


『案外ちょろいな。』

俺は亜空間の中に手あたり次第、薬を放り込んだ。


 どうやら、その亜空間の中は無重力のようになっており、アーサーは自由にその中のものを取り出せるらしかった。


 また、亜空間の中は時間の流れも、こちらの世界とは違う時間が流れているらしかった。ほぼ時間が止まっており、素材などの鮮度を保つこともできるらしい。


 こうして、俺はお供を1人加えて、南の大陸へと旅立つことになった。


 俺は体育の授業で周辺の魔物と戦うことには慣れていたので、特に警戒する事もなく、順調に南下していった。


 アーサーは、最初はふわふわと飛んでついて来ていたが、やがて俺の肩や頭に乗り、その位置で寝るのが日常になった。


 何日かは強い魔獣に出会うこともなかったのだが、途中でキマイラに遭遇した。

 俺は授業で習ってこの魔獣の特性は理解していた。ライオンの頭を持ち山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つ生物。その胴体には翼が生えている。そして、その牙はミスリルと同じ硬度を持ち、口から火を吐く。尻尾である毒蛇に噛まれれば、意識があるのに動けないという状態になるのだ。さらに、頭の部分を倒しても、その蛇は独立して生きており、別個にしとめなければならなかった。


「あれは、キマイラだにゃ。ここら辺では最強の魔獣だにゃ。マスター。幸運を祈るにゃ。」

アーサーは魔法の詠唱を唱えて、亜空間の中に入って消えてしまった。


『逃げ足は早いな・・・さてと。』

俺は暴れるキマイラの噛みつきを避けた。

手刀で倒すこともできたが、返り血を浴びるのが嫌だったので、風の魔法を使った。


「 切り裂け 風の刃(ウィンド・カッター) 」

俺の魔法は胴体と頭を切り離した。

そして後ろに回り、左手に風の魔法、右手に炎の魔法を発動した。


「 切り裂け 風の刃(ウィンド・カッター) 」


「 ()ぜろ  地獄の炎(ヘル・フレイム) 」

風の魔法で胴体と尻尾を切り離し、炎の魔法で尻尾を焼き尽くした。

そこまでを、数秒でこなし、アーサーを呼び出した。


「出でよ。アーサー。」


「にゃにゃにゃ。ひどいですにゃ。あっちを囮にして逃げるつもりですかにゃ。キマイラさん。あっち(わたし)を食ってもおいしくないですにゃ。それに小さすぎて満足できないですにゃ。食べるなら是非マスターにしてくださいにゃ。」

頭を抱えて怯えていた。


「いやいや。キマイラはもう討伐したから・・・」

それを聞いて、アーサーは顔をあげた。


「にゃにゃ?」

胴体と頭が切り離されたキマイラと俺を交互に見て、

「もしかして、マスターってお強いのですかにゃ・・・・?」


 俺は自分がこの世界でどのくらい強いのかよくわからなかった。前の世界と比べればぶっちぎりで強くなっているのは間違いないのだが、こっちの世界に来てからはほとんど負けてばかりだった。

だから、こちらの世界では強いのかどうか分からなかった。


「そんなにだとは思うけど。俺より強いやつはいっぱいいるし・・・」


「そうですかにゃ・・・」

俺は、キマイラの死体の一部を魔法で解体した。キマイラの肉は食用とする事ができるのを知っていたからだ。俺はその肉をアーサーの亜空間に保存してもらえるように頼むと、オーケーをしてくれた。


「キマイラの肉は美味ですからにゃ。仕方ないですにゃ。」

キマイラの牙も亜空間の中に放り込んだ。南の大陸に行ったとき、素材として、人間のお金と交換できるかもしれないからだった。アーサーには売れたお金で美味しいものを買うからと言ったら、しぶしぶ了解してくれた。


「本当ですかにゃ。新鮮な魚をたらふく買ってほしいにゃ。・・・いいんですかにゃ。それなら、仕方ないですにゃ。」

アーサーは食べ物を餌にすれば、なんでも了解してくれた。案外扱いやすい奴だと思い始めていた。

キマイラを解体していて不思議だったのが、何か光る刃のようなものが、喉の奥に詰まっていた。


『これが喉に詰まって暴れていたのかな・・・』

そんな事を考えながら、俺たちはその場を後にした。




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