第36話 勇者一行の帰路・その5
帰路210日目
~勇者・ジークの視点~
「いい出来じゃないか。」
ガラフの作ってくれたプラチナの剣を2、3度振った。
そして鎧も新しくプラチナで作られたものを身に着けていた。
「こんなところじゃったが、ティーエのおかげでいいものができたわい。」
ガラフは満足そうに頷いた。そのガラフの装備も新しくプラチナ製のものばかりである。鎧に兜、斧までもすべて新しくプラチナで作成した。
そのため、少し暖かくなってからも、装備の完成を待ったため、出発に時間がかかってしまったのである。
ぼろぼろになったオリハルコンの鎧はこの小屋に捨てていくことにした。ガラフも前の装備は全て置いていった。持って帰れば素材として高値で取引されるだろうが、持ち運ぶのに邪魔だからである。
こうして、俺たちは山脈越えを始めた。新しい装備があるといっても、俺たちはできるだけ戦闘を避けるように行動した。飛んでいる飛竜には極力見つからないように、木々に隠れながら山を登った。
しかし、いくら気をつけたとしても飛竜に一度も見つからず山々を越えることはできなかった。
何度か戦闘に陥ったが、新しい武器と完全に立ち直ったガラフのおかげでなんとか飛竜を撃退することに成功した。
帰路250日目
~魔法使い・ティーエの視点~
ガラフが本来の動きを取り戻しています。
『私も杖さえあれば、もっと活躍できるのに。』
と歯痒い思いです。
変態悪魔に杖さえ取られなければ・・・あの時の光景を思い出すと今でも身震いをしてしまいます。しかし、あの悪魔は無詠唱で凄まじい魔法を使っていました。この世界には、まだまだ私の知らない魔法の仕組みがあるようです。魔導士学園で天才と呼ばれていた私も、この広い世界ではまだまだだったようです。
いろいろとマヤカに相談に乗ってもらっているうちに、他のものに対して、いろいろな視点をもてるようになりました。
学園生活では、今にして思えば、他人との協調性がなかったかもしれません。
マヤカの優しさや、ジークの気遣い、そしてガラフが裏で皆を支えてくれている事、行きには気づかなかったいろいろな事が分かるようになってきました。
まだまだ私はこれからなのです。まだ若いから大丈夫なはずです。
帰路277日目
~ドワーフ・ガラフの視点~
ワシはキマイラの一戦で前に出ることができてから、ワシの呪いが治ったことを確信したんじゃ。あの後、小屋の近くにきた魔獣も撃退することに成功したし、食糧としていろいろな獲物を狩ることも1人でできたんじゃ。
それに、あの薬は本物じゃった。ワシの失った指も回復することができたんじゃ。王女に1本必要としても、あと4本も残っておる。多少の無茶をしても大丈夫という事じゃ。
ガラフの気持ちは大きくなっていた。
そしてガラフは知らなかった。実は呪い等にはかかっていなかった事。最初に飲んだ薬は、たとえそれが水だったしても効果が出たであろう事を。つまり、プラシーボ効果であったのだ。しかし、その真実を知る者は誰もいなかった・・・
帰路339日目
~僧侶・マヤカの視点~
私たちはなんとか無事に?山脈を越えることができた。疑問符が付くのは一度ガラフが飛竜にやられて、私の魔法では治せない傷を負ったことだった。
しかし、あの魔王様からもらった薬によってまたもやガラフの命は救われることになった。魔王様への気持ちがどんどんと大きくなっていく。この想いを止めることは誰にもできないだろう。
ティーエに相談してみようかと考え始めていた。ティーエは恋などもした事がなさそうだった。だから恋愛相談としてではなく、夜に個室を作ってもらえないかという事に対してだった。最近のティーエは前よりも話しやすい雰囲気が出ていた。
私は胸の成長を気にしているという事をジークとガラフにこっそり伝えた。その事にあまり触れないであげて欲しかったのと、食事の改善ができたらと思ったからだ。旅の途中では、贅沢できないのは分かっていたが、小屋にいる時の食事だけでも改善できればと考えたからだ。
ガラフは、たんぱく質をとった方がいいのではという事で、肉、魚、乳製品や大豆など動物性のものから植物性のものまでいろいろなものを集めてきてくれていた。
私はそれとなくティーエにたんぱく質は胸の成長にいいよ。と風呂で言っていたので、モリモリと食べていた。
また、夜寝室で胸のあたりのシーツがごそごそと動いているのを見かけた。たぶん、マッサージをしているのだろう。
個室を作ってもらえば、ティーエにとっても私にとってもしたいことを気にせずできるのだ。だからこそ、個室について言いやすい雰囲気でもあった。
しかし、薬の効果が証明されればされるほど、私が2本も無駄にしてしまったという事実が、個室を作ってもらうと言う事を躊躇させた。
こうして、今日もまた悶々とした夜を過ごすのだった・・・
『 奇跡の水 』 残数 4本