第31話 病
俺は詠唱の勉強をしていた。周りに誰もいないことを確認したあと
「炎精よ 紅蓮の焔を纏いて 顕現せよ ファイヤーフレイム」
と唱えた。
魔力の調整をしなくても、炎の魔法を打ち出すことができた。
師匠に聞いたところによると、例えばファイヤーフレイムを放つなら、炎の魔力を使って炎の精霊を呼び出し、その炎の魔力を精霊が必要な属性の魔力に変換し調節してくれるということだった。そして、俺はその調節を精霊の力を借りずともできるから、詠唱を覚える必要性はないという事だった。
さらに詳しく聞くと、同じ魔法の詠唱をしたとしても、魔力量の差で規模が違う魔法になるということが分かった。
魔導書に書かれている魔法は全て詠唱なく使うことができた。というか、魔導書に載ってない魔法も今では使うことができるようになっていた。そのうえ、一度魔法を喰らいさえすれば魔法の属性の成分を誤差1%以内で分析できるようになっていた。つまり、一度喰らえば自分もその魔法を使うことができた。
では、なぜ今更詠唱を勉強しているのかって?
エレオノールの事を考えてというのもあったが、詠唱して魔法を放つことにハマってしまったからだった。
何かかっこいい感じがして楽しかった。
「氷精よ 森羅万象凍てつかせ 穿て、貫け、切り刻め アイスランス」
そう詠唱すると、無数の氷の礫が鋭利な刃物の形状をして、対象物めがけて飛んでいった。
魔法自体は普通なのだが、詠唱がかっこよかった。
「水精よ 万物を産みし力を以って 天地を洗い流せ アクアフラッド」
洞窟で使った水の魔法が出た。
俺は他にもいろいろと試してみた。ただ、本を見ながらならできるのだが、見ずにやるとなると、10個くらいしか覚えることができなかった。俺は人の言語を覚えている最中であったのと、1文字でも間違って詠唱すると発動しないのが原因だった。
そこで、俺は発想の転換を試みた。詠唱は適当に唱えて、精霊の力を借りずに、自分で魔力の調整をすれば、あたかも詠唱により魔法が発動したように見えるのではと考えた。
そこで俺は、ひとまずゼロから考えるのは難しかったので前世で覚えていたいくつかの詠唱に乗せて魔法を放つことにしてみた。
「エクスペクト・パトローナム」 腕を前に突き出し、水の魔法を放った。
わくわくが止まらなかった。
「滲出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧きあがり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ」闇魔法を中空に放つ。
どきどきが止まらなった。
「爆ぜろリアル!弾けろシナプス!バニッシュメント・ディス・ワールド!」片腕で半円を描き、光魔法を放った。
ニヤニヤが止まらなかった。
俺は人間の言葉の勉強と、詠唱の詩の作成に没頭した。そして、また月日が流れ、学校は6年目へと突入した。
俺は5年目の半年間を全く無駄とも思える魔法の詠唱の作成に没頭してしまっていた。俺はこの国に来てから一番無駄な、そして一番平和な時間を過ごしていた。
これは仕方ない事だった。
俺は重大な病に陥っていたのだから・・・
その病名は、中二病というものだった・・・・