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第123話 いいな♪いいな♪ニンゲンっていいな♪

~十二柱の一人・アスタロスの視点~


「いった~い!!」


 アギラが入り口の番とかいうウォールに殴りかかっていったと思ったら、視界がぐにゃりと歪み変な浮遊感を味わった後、地面へと叩きつけられた。


 私は辺りを見回した。


「あれっ?! ここは?」


 そこは四角い部屋の中だった。かなりの広さがある。アギラもエレインもあの駄猫も辺りにはいなかったが、代わりに見知ったやつがそこにいた。十二柱の一人であるアスモデウスだ。そいつは大きな音を立てた私に気付かずに一心不乱に何かを読んでいるようであった。


「あんた、こんなところで何やっているのよ? というかここはどこなの?」

 向こうもこちらに気付いたようで、手に持っていた紙の束から視線をこちらへと向ける。


「おや? お久しぶりですね。アスタロスさん。こんな辺境の地にあなたがやって来るなんて、どういう風の吹き回しです?」

「ここはどこかって聞いてるのよ。質問を質問で返すなんて、あんたバカぁ?!」

「おやおや、久しぶりに会ったというのにご機嫌が悪いようですね。外見は全く成長したようには見えませんが、あの日がきているんですか? ふふふ。おっと、睨まないでください。あなたの質問に答えますから。ここはジパンニという国にある、とある遺跡の内部ですよ。妖怪族を使って研究施設として使うことに成功したんですよ」

「えっ? ………つまり、ここはさっき見た神殿のような建物の内部ってこと? 何で私がここに飛ばされたの? というか、あんたが妖怪族を率いてるの? で、何をやっているのよ? 他の十二柱たちは魔族会議に駆り出されてかなり忙しいっていうのに!!」


「質問が多いですね。それにしても、私がいることを知らずにここに来たのですか。なら階段の近くにウォールという男がいたでしょう。そいつにあなたは飛ばされたのでしょう。運が良かったですね。そいつはこの遺跡の内部でのみですが、恐るべき力をもっていますからね。何でも異界に物体を飛ばすことができるとか。時空魔法に似ていますが、妖怪族は魔力を持たないですからね。また違う何かが働いているようです。私の知的好奇心は限界突破していますよ。ふふふ。そういう意味ではあなたが無事にこの世界に留まれたのは、流石十二柱の一人といったところでしょうか」

 どうやら、私は結構危ない目にあっていたらしい。これだから、やはり家でゴロゴロしているに限るということを再認識させられた。しかし、今はそういうことを考えている場合ではない。


「で、他の質問の答えは?」


「そう焦らないでください。私は妖怪族を率いているかという質問の答えはNoですね。利害の一致というやつです。私の計画と、ヌラの計画がお互いに協力できる点があったというわけです。彼らの能力は魔法とは違った能力が多い。そう、どちらかと言えば、我々の持つ固有呪術に似たものです。我々の能力に比べれば、かなり劣りますが、ある条件下において、その力は飛躍的に高まることが分かったのですよ。私の研究の成果によるところが大きいですが。ふふふ」


「その成果とやらのせいで、私が危ない目にあったってわけね!!」


「まぁ、何事もなかったのですから良かったじゃあないですか」


「あんたバカァ!!良くないに決まってるじゃないの。私の貴重な命が失われるところだったわ!! それであんたはこんなところで何をしているのよ?」


「ちなみにあなたは、こんな辺境の地に何しに?私に会いに来たというわけではないなら、わざわざ出不精のあなたがこんなところまで来ないのでは?」


「わたし? わたしは、まぁ、あれよ。遺跡にある黒い石を探してるのよ。何か知らない? 魔王が使っていたじゃない。」


「黒い石? あれの事ですか?」


 そうして、アスモデウスが指さした先には、確かにアギラが持っていた直方体の黒い石が置いてあった。

「これよ。これ!! これは私がもらっていくわ」

 これさえあれば、知りたいことが何でも分かるわ。


「何を馬鹿なことを言ってるんですか」


「あんたバカァ!! あんたは知らないかもしれないけど、今魔王が復活して大変なのよ。あんただけ、こんなところで呑気に研究しているみたいだけど、ベルゼブブは相当焦っていたわよ。今、私は魔王の情報を引き出すためにこんなところまで来てるのよ」

 まあ、アギラが魔王っていう情報は、今のところ間違っていたっぽいけど、ひとまず、この黒い石を貰うためには間違いに気付かなかった(てい) でいくしかないわ。魔王がそのうち復活するのは確かなんだから。


「ほう、魔王がね………もう、そんな時期ですか。しかし、これを外に持ち出されては困りますね。この遺跡の機能にロックがかかってしまいますからね。それに、これを外に持ち出したとしてどうするというのです。【感応者】でなければ遺跡の外部では使うことができませんよ」

 いや、普通にアギラは使っているのだけれども………それにしても…


「【感応者】?」


「そうです。妖怪族の協力で、この遺跡の一部の機能のアンロックに成功はしましたが、その全てを知り得たわけではありません。が、どうやら、その黒い石はこの遺跡の核から情報を取り出す端末のような働きをしているようです。そして、それを外に持ち出しても使えるのは条件が必要なようなんです。その条件が何なのかは事例がないので分かりませんが、持ち出すことが可能であることは、その端末の情報から明らかではあります」


「端末の情報というと?」


「ホワイトラビット!!」


「お呼びでしょうか。アスモデウス」


 アスモデウスが呼びかけると、黒い石の上にタキシード服を着たウサギが現れた。アギラの料理店にいるアリスのように重量を感じさせないかのように、宙に浮いている。


「お前を呼び出すこの石は遺跡の外に持ち出せるのか?」


「持ち出すことは可能ですが、アスモデウス、あなたには外部でのアクセス権限がありません。ですので、外部に持ち出すことは推奨しません」


「アクセス権限?」

 私が尋ねると、そのウサギはアスモデウスの方を見る。


「答えてやってくれ」

 ウサギは私の方に体を向けた。


「外部で使用するには生体認証が必要になります。しかし、アスモデウスにはその認証が得られていません」


「だそうだ。妖怪族の力を借りて、第一の認証はなんとかなったのだが、外で使うために必要な認証は得られていない。だから外に持ち出しても何もできないそうだ」

 アギラが使っているのだから、何かあるはずである。生体認証ってのをすればいいのではないだろうか。


「生体認証ってどうやればできるの?」


「筐体に触れて、魔力を流していただければ権限を有しているか判断可能です。権限を持っていないものが使用した場合、ロックがかけられたり、データ保全のため自壊作用が働く場合があります」


「じゃあ、これを外に持ち出しても私には全然使えないということなの?」


「今のところは、そうなるな。しかし、そのうちこの施設の謎を解きあかせば持ち出すことも可能になるだろう」


「あんたは結局ここで何をやってるの? この遺跡の謎を解き明かそうとしているの?」


「ふふふ。そんなことではありません。それは副次的な研究ですね。私の研究は魔王をこの手で造り出すことですよ。私達が魔王を恐れる時代に終止符を打とうと思いましてね。魔王が我々を使役するのではなく、私が魔王を使役する方法を考え出したのですよ」


「えっ??!!!《魔王の支配(デモンズ・ルール)》の謎を解明したっていうの?」


「ふふふ。違いますよ。私は先の大戦で魔王の細胞の一部を拝借しましてね。そこから、この遺跡の施設を使って、その細胞の培養に成功したのですよ。私の指示を忠実に聞く魔王をね。ふふふ。誤算だったのは、能力を最大限引き出すために、魔力を持つ血液が大量に必要だったことです。妖怪族は魔力を持ち合わせていないですし、こんな辺境の島国では魔力を持ったものは少ない上に、魔力の素質のあるものは大陸へと渡ってしまいますからね」

 

「あんたバカね。自分の血液を使えばいいじゃない」


「使いましたよ。しかし、一人の血液では意味がないのですよ。魔力の質を複数ブレンドする必要があるのです。そうして、魔王復活に必要な因子を相互補完することによって、魔王を復活させることができるのです。幸運にも遺跡の噂を大陸へと流すだけで、あちらから魔力持ちの実力者がやってきましたからね。私は研究しながらここで待つだけで、上質の魔力を持った冒険者がやってきましたよ。ふふふ。魔王が復活しているなら、私が作り出した魔王改をぶつけて葬り去ってあげましょう」

 アスモデウスはアスモデウスで言われずとも魔王対策をしていたという事か。それなら私は何もしないで様子見していればいいわね。何もしないでいいなら、それが一番ね。


「な~んだ。それなら私が魔王を倒す方法を調べたりしなくても良かったわね。それで、あとどれくらいで完成しそうなの。よかったら私のいう事も聞くようにしておいてくれるとありがたいんだけど」


「魔王の倒し方を知るためにこの黒い石を求めていたのですか。残念でしたね。私も調べましたが、何もわかりませんでしたよ。まあ、私の作った魔王改があれば、どうとでもなるでしょう。前魔王は歴代最強といっていいほどの武勇でしたからね。ふふふ。あなたのいう事を聞くタイプも作ってあげましょう。この研究が成功すれば、いくらでも複製が可能ですからね」

 それはいい事を聞いた。魔王が復活してもこれで恐れることは何もない。私はアスモデウスを見てニコリと笑う。自然と声が出る。

「クスクス……」

「ふふふ……」

2人で笑いあっていると、けたたましい音が部屋中に鳴り響く。


「何なの? いったい………」

 アスモデウスは何かの画面を睨んでいる。

「………魔王改が復活しようとしている。あと50人くらいの血液が必要だったはずだ。どういうことだ………こうしてはおれん、今すぐに行かなくては!!」

「あっ、ちょっと!!」


 アスモデウスは私のことを放って、部屋から出て行ってしまった………




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