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第121話 お家に帰ろ、お家に帰ろ

 部屋の中に生えていた木の壁を外の破壊してしまった壁と取り換えながら、俺はアスカに尋ねた。


「それで、どのくらい前に連れていかれたんだ?」


「そうね………私がお風呂に入る前だから………1時間くらい前かしら」

 4人が何故ここに来てしまったのか。

 遺跡を目指してここに辿り着いたのだろうか。これは早急に妖怪族が縄張りとしている遺跡へと向かわなければならない。

 なんとか話し合いで解決できればいいが………

 この温泉宿のような場所も修繕したことだし、穏便に事を済ませたいところである。

 

「じゃあ、遺跡とやらに向かおう!!」

「はいにゃ」

「仕方ないわね」

『………』

 エレインは無言で頷き、4人は中心にあるという遺跡を目指すことにした。


 道を歩いていると妙な事に気付いた。

 道の両端には木造の建物がちらほらと建っているが、誰かがいる気配が全くしないのである。それどころか通りにも誰一人として歩いていない。辺りは静寂に包まれ、聞こえてくるのは風の音と俺達の歩く足音くらいである。


「何でこんなに誰もいないんだ? 見たところ家らしき建物は結構あるっていうのに」

「あっちの気配に恐れをなして逃げ出したのかもしれないにゃ。話し合いが上手くいかなかったら申し訳ないにゃ」

「はぁ~?! 何でアンタなんかに恐れをなさなきゃいけないのよ」

「アスカはあっちの強さを分かってないにゃ。やれやれにゃ……って、やめるにゃ。ほっぺたをつねるのはよくないにゃ~」

『急いだ方がいいかもしれない。何か嫌な予感がする………』

 2人がじゃれ始めると、エレインが竜人族の言葉で不吉なことを口にした。


『何か気になる点でも?』

 俺も竜人族の言葉で返す。


『いや、勘でしかないが………私の勘は良くない場合にはよく当たってしまう』


「ちょっと~、それ何語なのよ。一切喋らないと思ったら、私の知らない言語じゃない?!」


『なんにゃ? こんな言葉も分からないのかにゃ?』


「ちょっ、あんたまで変な言葉を使わないでよ!! 何て言ったのよ!! き~っ!!駄猫のくせに!!馬鹿にした顔しないでよっ!!」

 そう言えばアーサーも竜人族の言葉は喋れたな。その事がよほど悔しいのだろう、アスカはその場で地団駄を踏んだ。


「これは竜人族の言葉だ。エレインが嫌な予感がするらしいから、遺跡へと急ぐぞ!!」


「『そうにゃ!! 馬鹿には説明している暇はないにゃ!! しっかりついて来るといいにゃ!!』間違えたにゃ。アスカでも分かる言葉を喋らないといけないにゃ。やれやれにゃ」


「ぐぬぬ。何で滅んだと言われている竜人族の言葉をあんた達が………あっ……」

 アーサーのドヤ顔に悔しがるアスカ。

「説明は後だ。まずは妖怪族を取りまとめているやつの所に話をしに行くぞ」


 俺達はエレインの後を追い、里の中心部を目指した。


 そこにはそれまでにあった木造建築の建物とは違い大理石で作られた神殿のような建物があった。イオニア式の建築様式であるパルテノン神殿に酷似しており、円柱の柱が周囲を囲んでいた。


『ここか』

 エレインが入り口で立ち止まる。


『それっぽいですね。中に入りますか?』


『そうだな』

『そうにゃ』

「だから分かる言葉で話しなさいよ」


「すまない。この中に好戦的な妖怪族をまとめているやつがいる可能性があるから、気をつけて中に入るぞ。話し合いで何とか解決できればいいが………先生達も取り返さなくてはならないからな」


「ここが遺跡ってわけね。今度こそは私専用の黒い石を手にいれてやるわ」

 そこで俺は思い出した。黒い石をアーサーの異空間に入れた時に警報が鳴り響いたことを。


「いや、それは妖怪族との話し合いの後だな」


「何でよ!! 私はそのためにここへ来たのよ」


「あれを手にすれば、トラップが発動しただろう」


「私の魔法で何とかなったじゃない」


「また同じ仕掛けとは限らないし、警報が鳴って、妖怪族と揉めてしまえば、話合いもまとまらなくなってしまうだろう」


「…………わかったわ」

 絶対に分かってなさそうな表情だが、ここはアスカを信じるしかない。

「じゃあ行くぞ」


 俺達は神殿の中へと進んだ。


 中は特に液晶のようなモニターもなく、柱がいくつか並んでいるだけであった。そして、柱に囲まれた空間には下へと通じる階段があったのだが、その階段の入り口の前に誰かが一人座禅を組んで座っていた。


 その誰かは俺達が入って来たことに気付き、閉じていた目を開き、立ち上がった。その手には槍を携えていた。


「侵入者か? 人族の身で、よくここまで辿り着いたものだ」


 ?? よく辿り着いたというが、障害のようなものは思い返してみても何もなかったような気がする。それとも何か罠が張り巡らされていたのだろうか。


「あっち達には余裕だったにゃ」


「面妖な。化け猫が人族の側についたのか?」


「あっちは化け猫じゃないにゃ。妖精猫(ケットシー)にゃ。そこんとこヨロシクにゃ、そういうお前は誰にゃ? ここのボスかにゃ?」


「ククク。私はここの入り口の番を任されておるウォールだ。ヌラ様がこんなところにいるはずがあるまい」


「俺たちはそのボスのヌラってやつと話をしにやってきたんだ。ヌラと会わせてくれないか」


「ククク。はい、そーですかと人族をヌラ様に簡単に会わすわけがないだろう」


「俺たちは話合いで人族と妖怪族の争いをなんとかしようとやって来たんだ。何故ジパンニを襲おうとする? 戦わずに解決する事はできないのか? できないのならこちらも戦わざるを得ないぞ」


「………ふん。野蛮な人族が話し合いとは片腹痛いわ。我ら妖怪族が魔力を操れないからといって、下に見ているのだろうが、それはもう今となっては昔の事。お前達が選択肢を提示できる立場ではないわ。お前達はこれから鬼王復活の贄となるのよ」


 下に見ているつもりは………ないとは言い切れないが、決してそんなつもりではなかった。けれども、どうやら何か琴線に触れてしまった模様である。結局戦うしかないのか。自分のトーク力の無さに落胆してしまう。


「ちなみに、先生達を連れ去ったのはお前たちか?」

 みんなの情報が少しでも得られればと、尋ねてみる。

「先生? ………先ほど捕まえた4人の人族の事か?」

どうやらアスカが言っていたことは本当のようだ。先生達がこの先に囚われていると考えていいようである。

「クソッ!! 先生たちを捕まえてどうしようっていうんだ!?」

「ククク。鬼王復活の贄として連れてこられたのだ。人族の魔力が鬼王の復活に役立つのだ。光栄に思うがいい。じきにお前らもそうなる」


 俺がエレインに生贄として捧げられようとしていたように、先生達も鬼王とやらの生贄として捧げられようとしているようである。このジパンニという土地柄的に生贄の風習が流行っているのだろうか。そんな事を考えていると、槍を構えたウォールは槍を持っていない手で何らかの印を結び始める。


『気をつけろ、奴らは変な術を使うぞ』

 エレインが俺達に注意を促す。

『あっちに任せるにゃ』

「何?何よ?わかる言葉で話しなさいよ!!」


 俺は素早くウォールとの間合いを詰める。今はまだ話し合いを諦める段階ではないから、手加減して気絶させることにする。

 俺の手刀がウォールの首へと迫る。ウォールは俺が近接していることに全く気付いていない。どうやら俺のスピードについてこれていないようだ。


「【異界飛ばしアナザー・ディメンション】んなっ!!」

 何かしようとしていたようだが、どさりと倒れた。


「案外、あっけなく終わったな」

 俺は後ろを振り返り、決めポーズをとった。

 しかし、そこにいるはずのエレインとアスカの姿はなく、アーサーの重みが頭から消え去っていた。

「えっ? あれっ? どこ行った?」

 あたりを見回したが、3人はどこにもいない。俺は焦る。何が起きた?ひとまず落ち着くために俺は素数を数える。2、3、5……

 神殿内は静寂に包まれ、床にはただウォールが転がっているだけであった………




【  残り予備血液パック 40パック  残りトマトジュース 20パック 】 


 

 


 




 

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