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第120話 みんなでなかよく ポチャポチャおふろ

 ボイラをシキのいる里に送り届けた後に、俺たちは再び遺跡を中心とした里へと戻ってきた。


「ここの遺跡の中心にヌラという妖怪がいて、ジパンニにある【賢者の滴】を求める妖怪達を束ねているらしいですね」

 俺は懐かしい竜人族の言語でエレインに話しかけた。ボイラ達、妖怪族がいる時は一切口を開いていなかったが、ここに来るまでにボイラの家で話した内容を大まかに伝えた。


「そうか………妖怪族というものの中にも戦いを望まぬものもいるんだな。今まで戦っていた妖怪族の中にもそんな奴がいたのかもしれないな……」


「いや、ジパンニに【賢者の滴】を求める妖怪達は好戦的なものばかりなのは確かなんじゃないかな………」


「………」

 エレインは無言で何かを考えているようだった。ボイラ親子のところで一日いたので、妖怪族に対して何か思うところがあったのだろう。


 俺たちは里の中へと足を踏み入れる。道には誰もいない。静かな空間がそこにはあった。その様は少し違和感のある光景ではあった。


「あの建物は何にゃ? 御飯を食べるところかにゃ?」

 里の入り口の建物の看板にアーサーが興味を示した。俺もその建物を見ると、そこは食事のできる宿のようなところだと分かった。看板には文字はないが絵でそれが分かるように描かれている。


「ここは敵の本拠地だからな。寄ったりはしないぞ」


「分かっているにゃ。ちょっと興味があっただけにゃ。マスターの料理は美味しいからにゃ。んにゃ、そう言えば、そろそろお昼にゃ。お腹が減っては戦ができないと言うにゃ。ひとまずお昼にするのはどうにゃ?」


「それも、そうだな……じゃあ、少し戻ったところで昼飯を作るか」

 これから、どのくらい時間がかかるか分からないのでアーサーの提案に乗る事にした。腹がっては何とやらだ。 

「そうにゃ。それがいいにゃ」

 エレインにも伝えて里の外に引き返そうとした時、宿のような建物の中から鼻歌が聞こえてきた。


「ラン、ラ~ララ、ラーラーラン、ラン、ラーラララ~ン♪」


 どこからともなく響いた歌声は、聞き覚えのある声である。


「…この声は…」

「んにゃ?!」

 頭の上でピクリとアーサーが反応する。


 俺は建物の入り口には入らず、声のする方へと外から裏の方へと回り込んだ。後ろからはエレインが声をかけてくる。


「どうした?」

「いや、一緒に来た仲間がいるかもしれないです」

「こんなところにか?」

「多分ですけど……」

 その鼻歌の音はアバロンで出会った少女アスカの声にそっくりであった。彼女は謎の多き少女である。こんな妖怪族の中でも危ない奴らが集まっている里にいるはずがないとは思うのだが、絶対いないともいいきれない何かがアスカにはある。

 建物の中には入らずに、声のする方へと行くと建物の裏には木でできた塀で覆われた部分があった。塀は俺の身長の1.5倍くらいはあり、屋根のようなものはなかった。飛び越えることもできそうであるが、アスカではなく妖怪族かもしれない。

 俺は指先に炎をともし、木の塀に小さな丸い穴をあけてそこから中を伺った。


穴の向こう側にはアバロンにあったような露天風呂があった。そして、一人の少女がお湯に浸かって鼻歌を歌っている。後ろ髪しか見えないので、アスカかどうか判別はできないが、なんとなく後ろ姿はそっくりである。そんな事を思って凝視していると、少女の鼻歌が止まり、こちらを振り返った。


 アスカだ、と思った瞬間に、彼女は魔法の詠唱を開始し、大量の水でできた槍がこちらへと襲いかかる。


「戻ってきたわね。食らいなさい!!【千の水竜蛇(リヴァイアサン)】」


 まずい。何やら魔力の流れ的に物騒な魔法である事が分かる。覗きでエレインを巻き添えにしてしまう等あってはならない。


 俺は一歩下がり、即座に魔力を合成する。


「【プロメテウスの檻】」

 俺とエレインを黒炎が包み込む。

 その瞬間、目の前の木の塀が破壊音と共に飛び散り、そこから水の槍が次々に飛んでくる。しかし、俺の作り出した黒炎がその水を次々と蒸発させていく。

 少しすると蒸発する音もしなくなったので、俺は魔法を解除する。

 水が大量に蒸発したので、屋外だというのにサウナ以上の地獄の暑さが辺りを包んでいた。プロメテウスの檻の魔法は炎の中の温度を快適な状態に保つようにしていたのだが、それがなくなったのでその暑さが俺達に襲い掛かる。

 俺は冷却魔法で辺りを瞬時に冷やした。


 木の塀が無くなった先には、水球に包まれたアスカがこちらを見て驚いた表情をしている。

 エレインは、一歩前に出て臨戦態勢に入る。


「あっ、お兄ちゃんじゃない。無事だったのね」

 アスカの周りにあった水球が消える。 

 どうやら、俺だと分からず攻撃したようである。それも当然か。木の塀で隠れていたわけだからな。しかし、覗いただけで、あんな魔法を放つとは恐ろしい少女である。

 俺は臨戦態勢に入ったエレインを竜人族の言葉で止める。


「敵じゃないです。やっぱり知り合いだったみたいです。覗き魔と勘違いして攻撃したようですね」


 臨戦態勢を解いて自然体にはなったが、その表情は少し険しい。アスカの方を見て眉間に皺を寄せいているような気がするのだ。

 そこで俺は気付いた。アスカが素っ裸で前を一切隠さずこちらを向いているのだ。いくら少女だと言っても出るところは出ているのである。それが、全く恥ずかしがらずに、こちらに近づいてくるのだ。前の世界であれば、一発アウトな状況のような気がする。いや、この世界でもアウトか………


「上手く逃げれたのね。捕まったかと思って心配したわ」

 アスカは俺が黒い石を壊して捕まって心配してくれていたのだろう。しかし、何故こんなところで風呂に入っているのか。いや、それよりもまずは服を着てもらわねば、エレインの倫理的にもこの状況はまずいのだろう。


「いや、捕まったのだけど、それから色々あってな。それは後で話そう。それより、何か着た方がいいんじゃないか?」


「ん? そうね。わかったわ。あっ、あれから何も食べてないからお腹が減ったわ。何か作ってよ。お兄ちゃん」

 裸である事を暗に指摘したが全く恥じらう様子がない………


「ああ、丁度、今から昼御飯にしようと思っていたところだ。その時にあれからの事を話すことにするよ。アスカもあれから何があったか教えてくれ。じゃあ、服を着てきてくれ。いったんここを離れて、里の外に出ようと思っているからな」


「何で? ここで食べればいいんじゃない。移動するのは面倒くさいじゃない。中に食事を食べるところがあるわよ」

 

「いや、ここは危険だからな」


「大丈夫よ。お兄ちゃんと私がいれば、返り討ちよ。それにこの宿には誰もいないから安全よ」


「えっ? 誰もいないの? 何で?」


「えっ……あっ……ここは全て無人で対応する宿みたいなのよ。受付では変な人形が案内してくれたし。だから、ここで食べましょう。着替えてくるから、受付を済ましておいて」

 何やらこの宿はハイテクな宿のようである。考えてみれば、これから人族を襲うのをやめるように説得しに行こうとしているのである。それなのに、こんなに無人の宿の塀を破壊してしまっては、話がまとまるものもまとまらないのではないだろうか。もしかすると、この宿はヌラという妖怪が経営しているという事もありえるのじゃないだろうか。

 それにはやはり一度里の外に出て森の木を切って塀を作った方がいいかもしれない。魔法を駆使すれば簡単に塀くらいは作れるだろう。

「ここの塀を直したいから、やはり一度、里の外に出よう。材料がいるからな」

 俺はアスカが建物に入る前に伝えると、こちらを振り返る。


「え~、面倒くさい。……そうだ。塀はなんとかなるわ。いいものがあるのよ。だから、ここで食べましょう」

 どうしてもここを動きたくないらしい。実際、俺とアスカだけでなくエレインの戦力を考えると、戦闘で危険に陥る事は考えづらい気もする。俺は少し考えて承諾した。


「分かった。じゃあ、ここで食べるか」


「わーい。じゃあ着替えてくるね。お兄ちゃん」

 喜んでる姿は本当に少女のそれである。恥ずかしがらないのも年相応という事だろうか。う~む。


 俺たちはそこを離れて、正面玄関へと戻り、中へと入る。受付のカウンターには着物を着た人形がちょこんと立っていた。これが自動で案内してくれるという事か。


 アーサーが俺の頭から離れ、ふよふよと飛んで、カウンターの机の上に乗る。

「アーサー一行が来たにゃ。案内してほしいにゃ」

 アーサーは前脚で人形の頭に触れる。

 その時、人形の首がころりとカウンターの上に転がり落ちる。


「にゃ? にゃにゃにゃ~!!」


 その時、着替えを済ませたアスカが右側の通路から出てきた。


「あ~、壊してる~。自動で喋る人形なんて凄く珍しいのに~。あ~あ」

 アスカはアーサーの方を指さしながら、ため息をついた。


「にゃ~、違うにゃ。あっちは無実にゃ~。信じてほしいにゃ~」

 アーサーが前脚をうにゃうにゃさせながら弁解をする。


「あんたが首を触ってるのをちゃんとこの目で見たわよ」


「違うにゃ。冤罪にゃ。信じてほしいにゃ。それに、アスカに言われる筋合いはないにゃ。塀をめちゃくちゃに破壊していたにゃ」


「あたしはちゃんと直せるからいいもんね~。けど、その人形はかなり珍しいものよ。壊したらやばい事になるかもしれないわよ。あんただけまた捕まっちゃうわね」


「んにゃ?! マスター、本当に違うにゃ。あっちは確かに頭を触ったにゃ。そしてちょっと力を込めたかもしれないにゃ。でも本当に無実にゃ。誰かがあっちを罠にはめようとしているにゃ」

 いや、かなり有罪の証拠が揃っている気がするが………


「首のところを見た感じ、完全に壊れてそうだな。さて、どうするか………」

 この人形がどれだけの価値があるのか。動いたところを見ていないから何とも言えない。


「分かったにゃ。再生にゃ。預言の時が今まさに来たにゃ。これは再生しないと因果律のなんちゃらでやばい事になってしまうにゃ」


 早くも? にしては、なんかしょぼい預言だな。今の状況だと、他の預言の言葉もよく分からない。しかし5割あたると言っていたのは、もしかすると発生確率ではなくて文章の5割の部分が起きるという事かもしれない。


「それじゃあ、直しておくか………」

 俺は人形の頭を手に取り、人形の首のあたりに絶妙のバランスで載せる。

 当然、喋りだすことはない………


「やっぱり、そうよね。流石はお兄ちゃん」

 アスカがにやにやしている。人形に回復魔法など無意味なので、こんな事くらいしかできない。


「ふ~、なんとか再生完了にゃ。これで、因果律のなんちゃらにはまることはないにゃ」

「さっきから因果律のなんちゃらって一体何を言ってるのよ。馬鹿猫のくせに難しい言葉を使うんじゃないわよ」

「うるさいにゃ。あっちはこのパーティーのリーダーにゃ。アスカもご飯を食べたかったら、あっちを敬うといいにゃ」

「はぁ、あんたバカぁ!! あんたがリーダーなんかしたら、一瞬で破滅するじゃない」

「うるさいにゃ。あっちがリーダーをすれば、破滅の道には進まないにゃ。預言でも出てるにゃ。再生の道を歩むにゃ」

「再生ねぇ」

 そう呟きながら、人形の頭を人差し指でつつく。すると、絶妙のバランスで保たれていた首はポロリと落下する。


「やめるにゃ。せっかく再生させたのに何て事をするにゃ」

 う~む。ちんけな再生すぎるな………

 妖怪族の能力は弱いって聞いていたし、こんなものなのかもしれない。

 アスカはにやにやしているのが気に食わないアーサーは前脚でアスカの髪をひっかこうとするが、全部アスカに躱されている。


「二人ともそれくらいにしておけ。それで、どこで食べればいいんだ?」

 再び人形の頭を元に戻して、アスカに尋ねた。もちろん絶妙なバランスで載せただけである。


「こっちよ。テーブルがいっぱいあるし、誰もいないから、きっと使っても大丈夫よ」


 俺達はアスカの後について、左手の扉を抜けると、そこにはアスカが言うようにテーブルとイスがいくつか並んでいた。1つのテーブルには皿が並んでおり、まだ片付けられていなかった。

 

「こっちに座りましょう。あっちのテーブルで料理したら大丈夫じゃないかしら」


「………本当に大丈夫か?」


「大丈夫。大丈夫。なんとかなるわ」


 見たところ誰もいないのは本当のようである。人の気配が一切感じられない。ここで食事しても、ちゃんと片付けておけば大丈夫だろうか。ここまで来てしまったのだ。何か言われれば、その時に対価を払えばいいだろう。

 俺は早速食事を作ることにした。


 せっかく味噌を手に入れたのだから、味噌を使った料理を作りたい。そして、今からの事を考えるとガツンと肉を食いたい所だ。肉はいろいろとアーサーに預けてあるから、それに塗って焼いてみるのもいいかもしれない。俺の調理器具なら、美味しくできるのではないだろうか。


「アーサー、肉を出してくれ」

「ドラゴンの肉かにゃ?」

「いや、それはまた今度だ。ひとまず、そうだな………鳥肉を出してくれ」

 エレインには竜人族の言葉しか分からないので今の会話はセーフだろう。

「分かりましたにゃ」

 鶏肉の他に味噌や調理器具も受け取ると、鶏肉に味噌を塗り、調理を開始する。


「独特の香ばしい匂いがするにゃ~」

「わくわく」

 2人は匂いに我慢できない様子。エレインは無言でこちらを見つめている。


「スープも作るか………トマトジュースとじゃがいもと玉ねぎを出してくれないか?」

「トマトジュースも使うのかにゃ?」

「そうだ。ミネストローネを作ろうと思ってな。鳥の旨味が残った鍋に入れれば一石二鳥だろう」

「これでいいかにゃ」

 受け取ったトマトジュースのパックには印がついている。

「いや、これは駄目なやつだろう。ソロモンのお気に入りの方じゃないか?」

「そうだったにゃ? うっかり間違ったにゃ。じゃあ、こっちにゃ」

 前にも間違っていたような気がするが大丈夫か………俺が気をつけていればいいか。

 俺は気を取り直して、鳥肉料理以外にスープも作ることにした。


「こちらもいい匂いがしますね~。本当にお兄ちゃんは天才ですね~」

「本当にゃ。涎が止まらないにゃ」


 俺は焼きあがった味噌の照り焼き風鶏肉とミネストローネを皿に盛って、皆のテーブルに置いて行く。

 アーサーは早速食べ始める。

「う、美味いにゃ~。至福の味にゃ~。この鳥肉はいままでと違う味にゃ。でも、そこがまたいいにゃ」

「美味しいわ。やっぱりお兄ちゃんの料理は最高ね。このスープも血のような見た目だけど、甘さと酸味と鳥の旨味の三重奏が口の中で鳴り響いているわ」

「そうにゃ。そして、このジャガイモのホクホクとした絶妙の食感がたまらないにゃ」


 2人は相変わらず、大絶賛である。何やら俺の中にある料理人魂に大量のエネルギーが投入されていくのが感じられる。

 エレインの方を見ると、エレインも無言ながら食べる手がとまる様子がない。その至福の表情を見れば、気に入ってくれている事は一目瞭然である。

 

 俺は食事を食べながら、アスカと別れてから巫女の屋敷に捉えられて龍神様の生贄となった事やエレインがその龍神様である事などを説明した。


「えっ?! じゃあ、ここってジパンニじゃないの?」

「そうだ」

 どうやらアスカはここをジパンニだと思っていたようである。道理で温泉にゆっくり浸かっているわけである。どれだけ方向音痴なのか………


「だから今は火種を作らないようにしておきたいんだ。外の壊した木の塀はどうするつもりなんだ?」

「それならあそこにある木の壁を外に持っていけばいいわ」

 アスカの視線の先には部屋の中に不自然な木の壁がそそり立っていた。


「なんだあれは?」


「何かの魔法か何らかの能力でできた木の壁よ。さっき争っていた人達が創り出しものだから、外に持っていってもいいんじゃない」


「争っていた?」


「そうそう。アギラ達と一緒に来ていた人たちが、その妖怪族達に連れていかれたんじゃない? よく分からないけど、ここが妖怪族の里ならそうなのかも」


「………は?」


 アスカの口から驚愕の事実がもたらされたのだった………





【  残り予備血液パック 40パック  残りトマトジュース 20パック 】





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