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ナルキッソスの姫君

作者: 7B

「おお、おお! 成功じゃ!!」


「当たり前でしょう。姫は私を誰だと思っているのですか」


「いやぁ、この召喚の魔法も五百回はやったよね。成功率何%位かな?」


 声が聞こえる。

 が、煙が視界を覆って前が見えない。

 一体何が起きてるんだ。

 俺は早いとこ家に帰らないといけないってのに。


「風よ、彼我の間の煙を払い除けなさい」


 声と共に一陣の風が目の前のモヤモヤを吹き飛ばす。

 そこには三つの顔があった。


「あらまあ、これは見事じゃない?」


「色調は異なるけど、確かにそっくりね」


 品定めをするように舐めるような視線を向けてくる三人。

 生まれてこのかた不愉快な男の視線を集めてはいたが、純粋な興味本意の視線でまじまじと見つめられたことは無かったかもしれない。

 しかしまあ、確かにそっくりだ。

 驚きを通り越して呆然とするほど、目の前の三人、そして俺はそっくりだった。

 と、目を丸くしてぷるぷるしていた一人が口を開いた。


「そなたは、おのこじゃな?」


 それは確認というより、確信している呟きだった。

 初見で俺を男だと見抜くとは、この子は何者なんだろう。

 ひよこの雄雌鑑定士か?

 混乱する俺に彼女はこう言い放った。


「そなた! 妾と結婚するのじゃ!」




 昔々、あるところにメシェークという国がありました。

 その国の姫様は大層美しいことで有名でした。

 姫様は何よりも何よりも、自分の美しい顔が好きでした。

 姫様はある日、こう言いました。


「世界には、同じ顔の人間が三人居ると言う。妾は、妾と同じ顔の人間が見てみたい」


 家臣は世界中を探し回りました。

 時に海を隔てた対立国へ、時に魔族の住む森へ、時には空の遥か向こうにある浮遊大陸へ。

 そうして捜索を続けること十余年、とうとう姫様とそっくりな顔の人物を見つけ、三人は一同に介しました。


 一人は大国の姫

 一人は魔族の魔術師

 一人は不死の命を持つ錬金術師


 姫様はうっとりとした表情で言いました。


「妾の顔は本当に美しい。この顔と結婚したいくらいぞ。」


 しかし残念ながら、それは叶わぬ夢でした。

 姫様とそっくりな二人も姫様と同じ女性だったからです。


 姫様は二人を客人として屋敷に住まわせ、御茶会を開くようになりました。

 というのも、あまりに自己愛の強い姫様に呆れ果てた王は、姫様を遠方の屋敷に軟禁していたのです。

 自分の顔が大好きな姫様の側に二人が居れば、姫様も満足して我が儘を言わないだろう、

という王の計らいでした。

 姫様は王の思惑通り、しばらくの間、三人での御茶会に夢中になっておりました。


 けれど、姫様は諦めきれませんでした。

 自分とそっくりの顔を持つ伴侶を持ちたい、その欲望は日に日に大きくなっていきます。

 そこで姫様は世界の外へ目を向けました。

 この世界の外には異なる世界が広がっていると言う。そこにならばこの顔を持った男もいるかもしれない。

 姫様の願いを叶えるべく、魔術師と錬金術士は努力しました。

 その頃には姫様も、錬金術により不老不死の肉体を得て、大好きな自らの美貌を時を止めて堪能しておりましたし、人類は戦争によりとっくに滅んでおりました。


 そうして何百年たった頃でしょうか、召喚方法も確立し、当たっては砕けてを数百回繰り返して、漸く待望の姫様と同じ顔の少年を引き当てたのです。




「というわけ、残念ながら君に拒否権はない。姫と結婚してくれ」


姫は少年の右腕にがっちりと抱きつき離れようとしません。

少年は召喚理由に驚くやら、さらっと世界が滅亡していることに戸惑うやら、ささやかながら主張する姫の体に赤面するやらで大忙しです。

左手は魔法使いに操られ、婚姻届を記入しています。


「これでよし、と。君の国の書面を真似て作ってみた」


魔法使いが左手から紙を奪い取り突きつけてくる。

目を走らせると夫の欄には俺の名前、戯巫篠ぎふしのリアス。何で名前知ってるんだ、とか言いたいのをグッと我慢して、もう一点の疑問を口にした。


「妻の欄が三つあるんだけど」


「それはもちろん上から妃、第二婦人、第三婦人の順じゃ!妾の妃ポジションは譲れんから、第二と第三はじゃんけんで決めたのじゃ!」


勝ちました~とひらひら手をふる錬金術士、負けたのだとちょっぴり残念そうな魔法使い。


「お主の国は二人の神が交わって出来たのであろう? さあ、契約はなされた。これから我らで新世界を作ろうではないか!」




あぁれぇと絹を裂くような悲鳴が聞こえたとか聞こえなかったとか。

そうしてこの一度滅びた世界は再び始まったのであった。


めでたしめでたし

多分戯巫篠君と同じ世界に観加賀野君がいる。

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