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第8章 球技大会

第8章 球技大会


「いよいよ今日だね。星羅、緊張してる?」

球技大会のその日は、風もなくカラッと晴れた過ごしやすい日となった。スポーツをするにはもってこいの天気だ。

「ちょっとだけね。みんなの足引っ張ったらどうしようかなって思うと、胃がキリキリするよ」

そう言って星羅は自分の腹部をさすった。

「ちょっと星羅、顔色悪いよ。ねえ、具合悪いんじゃないの?」

愛理のひんやりした手が星羅の額に触れた。

「熱は…ないみたい。食欲は?今朝ちゃんと食べたの?」

「あ、それが…」

星羅が言いにくそうに言葉を濁し俯いた。愛理がその先の言葉を促す。

「その…炊飯器のタイマーセットを忘れたせいで、ご飯食べれなかったの」

「へ?」

星羅の言葉が理解できなかった愛理は思わず素っ頓狂な声を出した。

「だ、だから、炊飯器のタイマーセット忘れてご飯食べてないの。お弁当は、購買で買えばいいやと思って慌てて出てきたのよ」

星羅は自らの失態に顔を真っ赤にしている。

「星羅が?へー、星羅でもそんなドジ踏むんだね。なんか安心した」

そう言って愛理が嬉しそうに笑う。

「どういうこと?」

「だってさ、星羅はいつもどんな事でもそつなくこなすから、なんだかドジをするなんて思ってなかったんだよね。あ、運動は別ね。運動はすぐに転ぶし、傷作ってばっかりだもんね」

「もう!からかわないで」

「ごめんごめん。いや、私嬉しいんだよ?なんだか欠点なんかありませんって感じの星羅が、意外なところ見せてくれて嬉しい。ほら、ご褒美に私の昼食をあげる。胃が痛いのは、空きっ腹だから!まだ試合始まるまで時間あるんだから食べなよ」

愛理は、恐らく母親の手作りだと思われるおにぎりを一つ差し出した。

「ご褒美って…なんか違う気がする…。それに、これ愛理のお昼じゃん。だめ、もらえないよ」

「いいの。私もたまには購買で買いたい気分なのよ。ほら、早く食べなよ。あ、私も試合前に腹ごしらえしようっと」

空いている方の手を鞄に突っ込んだ愛理は、ごそごそとさらにおにぎりを取り出した。

「ほら、星羅も食べよ。ね?」

「ありがとう」

差し出されたおにぎりを受け取ると、星羅は嬉しそうにそれをほうばった。




試合が近づいてきた星羅は無意識のうちに左腕のブレスレットを握っていた。

昨夜もレン達に会いに行った際に、今日の球技大会のことを伝えたのだ。

『頑張ってね!きっと星羅ならうまくやれる、自信持って!』

レンの言葉を思い出し、「大丈夫、大丈夫」と繰り返し呟く。

と、その時。ポケットの中の携帯が震えた。


〜え?お母さんからメールだ!〜


思いがけない相手からの差出人に驚きの声をあげそうになりながら、星羅は慌ててメールを開いた。


球技大会頑張ってね!結果楽しみにしてるから!


とても短い文章だったが、星羅には十分すぎる言葉だ。携帯をギュッと抱きしめると、母親の温もりが伝わってくるようで安心感さえ覚えたのだった。


家に帰ると母の菜月が嬉しそうに待っていた。

「おかえり。やったね!ホームラン打ったんだってね。さすがじゃない!」

星羅のチームは優勝こそできなかったが、彼女自身は本番でホームランを打ってみせることができた。これにはチームメイトも驚いたが、かなりの喜びようでもあった。なかでも愛理の喜びようようがすごく、周りもたじろいだほどだ。そのことを星羅はいち早く母にメールしていたのだ。

「うん。みんなが応援してくれたからね」

星羅がにっこり笑う。

「今日は星羅の好きな唐揚げにするよ。今日は仕事ないから一緒に食べよう」

星羅の顔がさらにほころび、目がキラキラと輝いた。

「すぐ着替えてくる!私も手伝うから待っててね!」

母と過ごせる久しぶりの時間に旨を弾ませる星羅だった。


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