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第7章 特訓

第7章 特訓


「私、この世界をマジック・ワールドって呼ぶことにする」

「マジック・ワールド?」

 レンとエイトは聞きなれない言葉を耳にして同時に聞き返した。

「うん。私達の世界で、マジックっていうのは不思議なことを見た時とかに使う言葉なの。現実離れしてることとかを見たときに、マジックみたいってよく言うの。魔法なんか、まさにマジックみたいなものだわ。だから、魔法を使える世界って意味を込めてマジック・ワールドって呼ぶ」

 レンたちにすれば魔法を使える自分たちの世界は不思議でも何でもないので、マジックと言われるといささか違和感を感じ、互いに顔を見合わせてしまう。

「僕達からすれば、星羅の世界こそ『マジック』なんだけどな」

「俺もそう思う。ま、いいんじゃないの。ここが、マジック・ワールドってやつでもさ」

 その言葉を聞いた星羅が小さくガッツポーズをした。

「よし、特訓始めようか」

 レンが立ち上がり、星羅に手を差し出した。彼女は少しためらったが、恥ずかしげに、でもどこか嬉しそうにその手をとって立ち上がる。レンは星羅のそんな様子には気がついていないようだ。

「レン、お前、まさか天然か?」

 エイトは呆れた様子で親友をみる。

「え?僕が?なんで?」

「いや、なんでもない。さ、星羅。準備はいいか?」

 不思議そうなレンに背を向け、頬を赤らめている星羅に向き合う。星羅はエイトを真っ直ぐにみつめると、コクリと首を振った。その顔は真剣そのものだ。

 自分自身が魔法使いであることを知ってから、彼女はレンとエイトに魔法を習うことにしたのだ。それはたくさんの魔法を自由に使ってみたいという思いからでもあったが、それよりも魔法を習わないことで誰かを傷つけたり、取り返しのつかないことをしてしまうことが嫌だったからである。

「この間教えた魔法の基礎は覚えてるか?」

「はい。魔法は言葉を介してその力を発揮する、ですよね?」

エイトがそうだと頷いた。

「だからこそ、同じ言葉から生まれる魔法でも、言葉の強さ、そこに込められる思いの強さで全く別の物になる。レン、いけるか?」

「任せて。星羅、僕が今から言う言葉をよく聞いててね」

レンが星羅とエイトから数歩下がったところで立ちどまった。そして、

「風よ、その姿をかえ現れよ」

柔らかい、優しい口調で言葉を紡いだ。


〜あ、この魔法。あの時の魔法だ〜


それは、星羅がまだマジック・ワールドを夢だと信じていた時、レンと初めて会った時にみた魔法だ。この魔法で星羅の心は救われたのだ。

レンの魔法で生まれた風の精が星羅の周りをクルクルと回る。その手が星羅の頬を撫であげると、身体中に清々しい風が吹き込むような感覚がした。

「すごい・・・・」

そう思わず呟いていた。

「星羅、レンの言葉の違いに注目しとけよ。レン、次頼む」

レンは頷くと、さらに2人から距離を取った。

「なぜあんなに距離をとっているんですか?」

「そうしないと俺たちが危険だからさ。ほら、みてろ」

 エイトに促されレンを見て星羅は驚いた。レンの雰囲気がこれまでと違うのだ。

 今まで纏っていた柔らかい雰囲気は消え、代わりにピリピリした感じが伝わってくる。

「風よ、その姿をかえ現れよ」

 レンが先程と同じ言葉を唱えた。が、先程よりも尖った鋭い言い方だ。

「え?」

 それは一瞬の出来事だった。レンが言葉を唱え終わると同時に、何か鋭いものが飛んできたのだ。

 ヒュッという音がしたと思うと、星羅の頭上から木の葉が何枚か落ちてきた。風は吹いていなし、葉は青々としていてまだ落ちる気配はなかったはずだ。

「今の何?」

 事態が飲み込めないでいる星羅のもとにレンが戻ってきた。

「今のも風の魔法だよ」

「だけど、今のは・・・・。最初のと全然違った」

「当たり前さ。『魔法は言葉を介してその力を発揮する』って言っただろ。1度目と2度目のレンの違いわかったか?」

「言葉の強さ・・・・かな。始めの言葉は柔らかかったけど、次のはなんだか尖って聞こえた。それにレンの雰囲気も、ちょっと怖かった」

 エイトがそのとおりだと頷く。

「同じ言葉から生まれる魔法でも、そこに込める思いなんかで今みたいに全然違ったものになるんだ。それがわかったところで星羅もやってみろ」

「まずは一番簡単なところから始めよう。そうだな・・・・、風を吹かせてみようか」

「レンが見せてくれたやつ?」

「いや、あれはただの風じゃないんだ。さっき僕が使った魔法は、風そのものに意思をもたせたんだ。なんていうかな、自然に吹く風に僕の意思を込めたって言えばわかりやすいかな。今から星羅がやるのは、意思を込めない風を吹かせることだ。自然に吹いている風を人為的に作り出すイメージだ」

 レンの言わんとしたことがわかり、星羅は2度頷いてみせた。

「伝わってよかったよ。さあ、やってごらん」

「でも言葉がわからないよ。なんて言えばいい?」

「ごめん、伝えてなかったね。『ウェントゥス』、これだけだ。その言葉に風が吹いてほしいって思いを込めてごらん」

 思っていたよりもずっと短い言葉に多少拍子抜けしたが、言われたとおりに唱える。

「ウェントゥス」

 だが、何も起こらない。そよ風ひとつ吹いていない。

「星羅、思いを込めるんだよ。例えば、あんたは今ものすごい暑い場所にいる。風が吹いたら気持ちいだろうなって想像してみろ。そういう気持ちで唱えるんだ」 

 エイトの例え話を目を閉じてそのままイメージする。


 私は今、真夏の太陽の下にいるんだ。汗がすごくて冷たい風が吹いたらどんなにいいだろうって思ってる。セミも鳴いてて、汗がダラダラですっごく暑い。風が吹いたら気持ちいだろうな


「ウェントゥス」

 一瞬、氷のような風が吹いた。その冷たさにその場の誰もが身震いしたほどだ。

「わお、冷たい風だね」 

「今のって、成功?」

 レンとエイトに恐る恐る問いかけると2人が笑顔で頷いた。

「よかったね、星羅」

「あんた、俺の例え話をそのままイメージしたな。だから、あんな冷たい風が吹いたんだろ」

「うん。想像しやすかったから。ありがとう、2人のおかげで初めてちゃんと魔法使えた」

「ま、覚えることはまだまだあるけどな」

「よし、続きやろうか」

 魔法が使えたことの喜びと、レンとエイトのサポートを頼もしく感じながら星羅はもう一度風を起こしてみせるのだった。

 

 



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