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第28章 決意

第28章 決意


「ここで終わらせるわけにはいかない」

 ナオトの静かな声がそう言った。しばらく沈黙が続き、

「それがナオトさんの決意ですね」

 聞き返したエイトにナオトは小さく頷く。

「ああ、そうだよ。こんな事になる前に、もっといろんなことを私たちは話しておくべきだった・・・・。そうは思わないか?」

 ナオトはもがくのをやめ、今はどこか寂しげな眼差しをエイトに向けている。 エイトは軽く息を吐き出すと、悲しげな笑みを浮かべ、

「そう・・・・思います」

「私はこの復讐をここでやめることができない。レン君が私を解放したら、またあの男の元へ行く。エイト、君は君がやるべきことをしなさい」

 それを聞いたエイトがグッと唇を噛み締めた。

「俺は・・・・」

 それ以上先を言うことがなかなかできず、またも沈黙が生まれた。

「エイト」

 事の次第を静かに見守っていたレンは、いつの間にかエイトの隣に立ち、彼の肩に手を置いた。

「レン、俺は・・・・」

 それ以上言うなというようにレンが頷いた。高度な魔法を使い続けているため、彼の額からは汗が流れている。

「君が本来やるべきことはわかってるよ。でも、ここは僕たちの世界じゃないし、君はまだ法の番人でもない。君がどうしたいか、その気持ちに従っていいよ」

 レンの言葉に思わずエイトは涙ぐんだ。

「俺、本当に・・・・ごめん。俺がやるべきことはわかってるんだ。でも、そんなこと・・・・俺・・・・」

 エイトがやるべきこと、法の番人になる者としてとるべき行動。それは、ナオトから力を奪うこと、もしくは現在の法の番人である父にナオトを引き渡すことだ。エイトが自分の取るべき行動を決め兼ねていると、ふいに名を呼ばれた。星羅の声だ。

「星羅、出てきたのか」

 青白い顔をした星羅にレンが慌てて駆け寄る。エイトは星羅の姿を見、先ほど木の陰に隠した男の姿を思い浮かべた。ナオトと本当に向き合いたいと思うなら、エイトは思う。


 ナオトさんがしてしまったことや、父親への気持ちとか、そういうのもひっくるめて受け止める必要があるんだろうな・・・・

 

 彼は1度大きく深呼吸し、そして

「レン、ナオトさんを解放してくれ」

 レンは一瞬固まったが、すぐに頷き風の魔法を解いた。ナオトの足が地面に着地すると同時に、レンも力尽きたように膝をついた。星羅も同じく彼の横に膝をつき、労るように額の汗を拭っている。

「ナオトさん、俺はあなたと向き合うために、あなたをあちらの世界に帰します。そして、あなたから力を奪います。これが俺の決意です」

 それを聞いたレンも星羅も、驚いたように顔をあげエイトをみた。彼の横顔や姿勢、そして何よりも先程の言葉から揺るぎない決意が伝わってくる。

「私とむきあうため・・・・か。それが君の決意だね」

「はい。ここで俺があなたのしたことを見過ごしたら、きっと誰のためにもならない。俺は、あなたときちんと向き合って、いろんな話をしたいんです。そのためには、あなたのしたことを見過ごすわけにはいかない。そう思ったんです」

 ナオトは静かに頷き、特に抵抗するわけでもなくそのまま立っている。

「拘束せよ、プウォーダー」

 エイトが拘束呪文を唱えると、ナオトの腕が後ろ手に縛られ身動きが取れなくなっていた。

「レン、無理をさせて悪かった。俺は、むこうに置いてきたあの人の様子を見てくるから、少し待ってて。星羅も怖い思いをさせて本当に悪かった」

 そう言ってナオトの父親の元へ向かおうとするエイトを、レンが呼び止めた。

「本当にこれでいいのか?後悔・・・・しないか?」

「大丈夫だ、後悔はしない」

 そう言って微小を浮かべると、背中をむけて行ってしまった。エイトの姿がみえなくなると、ナオトが星羅とレンに声をかけてきた。

「星羅、申し訳ないことをした。君に謝って許されるとは思っていない。私のことは恨んでくれて構わない。だけど、ほんとうに悪かった・・・・」

 そう言って膝をつき頭を下げるナオト。星羅はしばらく黙っていったが、落ち着いた声で顔をあげるように促した。

「ナオトさんがしたことを簡単に許すことはできません。だけど、あなたを恨むことはどうしてもできないです。ナオトさんの弟さんやお父さんへの気持ちを考えると、恨むことはできないんです。だけど・・・・許すことも、今はできない。あなたにされたことは、とても怖かったから・・・・」

 星羅は言葉を選びながら話す。

「けど、ナオトさんと一緒にいる時間はとても楽しかった。だから、私の心の整理ができたら・・・・、またレンやエイトさんたちと一緒に会いにいきます」

 ナオトはまた頭をさげ、「すまない」と涙ながらに呟いた。そして、一度顔をあげるとレンにも同じように謝る。

「僕は、ナオトさんがエイトや星羅を傷つけたことが許せない・・・・。でも・・・・、あなたのことは嫌いになれそうにもない。だからエイトと同じように、あなたと向き合っていこうと・・・・そう思います」

 レンの口調は、ナオトを責めるわけではなく淡々としていた。むしろ、最後の方は包み込むような優しさすらも感じるような口調だった。

「本当に・・・・すまなかった」

 頭を下げたままのナオトの肩にレンは手を起き、一緒に立ち上がらせる。それに併せて星羅も立ち上がった。そこへエイトも戻ってくる。

「エイトさん、あの人は?」

「大丈夫だよ、怪我は治した。それから記憶を少しいじって、さっき起こった出来事はなかったことになってるよ。朝になったら誰かが見つけてくれるだろう。さあ、もう戻ろう。星羅、君も一度俺らの方にこれるか?」

「うん」

 返事をきいたエイトとレンがマジック・ワールドへ戻るために術を使おうとするのを、星羅は慌てて止めた。

「2人とも疲れてるでしょ。ここは私がやるよ。それに、この魔法はたぶん私が一番得意だから」

 レン達が見守る中、星羅が見慣れた広場を心の中にイメージするとすぐに辺りが眩しく光る。しかし、この時は誰もこれから起こる事を少しも予想できていなかった。


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