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第26章 闘いの準備

第26章 闘いの準備

 

「嘘だろ・・・・」

 エリザの街から戻ってきた3人は、いつもの広場に座っていた。レンから星羅にかけられた魔法のこと、そしてそこにはナオトが関係していることを教えられたエイトは信じられない、というように自分の髪を鷲掴みにしていた。正確に言うと、信じられないのではなく、レンの話を信じたくなかったのだ。

「本当なんだ。僕は君に嘘をつかない」

 レンはまっすぐにエイトをみて言った。レンにもエイトが混乱しているのはわかっているし、エイトもレンが嘘をついているとは思っていない。頭ではそうわかっていても、エイトの心が話についてきていないのだ。

「エイト、時間がないんだ。頼む、僕一人じゃ星羅を守れない。ナオトさんの力は思っていた以上に強いんだ。だから僕に力を貸して」

 親友の真剣な顔と、彼の膝の上でぐっすりと眠っている星羅を交互にみてエイトは深く息を吐いた。

「ナオトさんがこんな事をするなんて、正直信じたくない。だけど、ナオトさんよりもレンの言葉のほうがやっぱり俺にとっては信用できるんだ・・・・。わかった、俺も協力する」

 顔をあげたエイトはいつもの冷静な彼の表情に戻っている。

「ありがとう」

 今にも泣き出しそうな表情のレンに、エイトは呆れた笑みを見せた。

「ほら、そんな泣きそうな顔するなって。まだ何も解決してないんだからな」

 星羅といえば2人の会話にも目を覚まさずに深い眠りについていた。エリザの街で一度目を覚ましたが、こちらに戻ってきてからレンが眠らせたのだ。

「星羅にかけられた魔法がどんなものかわからないと、それに対抗しにくいな」

「かけられた術を見破る呪文があったよね。それで分かるかな?」

 それでいこう、と顔を見合わせる。

「ナオトさんがどれだけ強い呪文を使ったかわからないし、本当は僕たち2人で呪文を見破りたいけれど、下手をすれば星羅に負担をかけさせるよね。だから、僕がまずやってみる。それで駄目だったら、2人でやろう」

「わかった。呪文を暴こうとした者に危害が及ぶようなものだったら厄介だから、その時は俺がレンを援護する。レンは、星羅にかけられている呪文を明かすのに専念しろ」

「頼んだ」

 星羅を自分の膝の上から、芝生の上に寝かすとレンは1つ深呼吸した。そして、星羅に手をかざし、

「ナオトさんがかけた術の真実をみせよ、ベリタス・ダ・アフレイトゥ」

 星羅を中心に辺りに風が巻き起こる。だが、それ以上のことは起きなかった。

「なんでだ?僕の魔法が弾かれたのか?」

 予想外のことにレンもエイトも困惑していた。

「いや、レンの術は弾かれていない。どういうことだ?星羅はナオトさんに何もされていないってことか?」

「まさかそんな!星羅の様子がおかしくなったのは、ナオトさんと2人で出かけてからだ。もし、ナオトさんが星羅に何もしていないなら、星羅の様子がおかしくなった理由をきちんと話してくれるはずだろう」

「落ち着けよ。もしかしたらナオトさんも誰かに術をかけらていて、本当のことを言えなかった可能性もあるだろう」

 エイトはそうであってほしいと願っていた。心のなかでは、ナオトを信じたい気持ちを捨てきれないのだ。

「こうなったら星羅の記憶を覗いたほうがいいな。星羅の記憶自体いじられている可能性はあるけど、一度あったことを完全に本人の中から消すことはできないはずだ。レン、この魔法は俺だけの力じゃ使えない。レンの力も必要だ」

「わかってる。君に力を貸すよ。ほら」

 レンが差し出した手をエイトが握った。

「この歳になって、レンと手をつなぐ日がくるとは思わなかった」

 そう言ってエイトが軽く笑い、「こうしないと2人で魔法を使えないだろう」とレンも同じように笑い返した。

「この状況で笑えるなんて、僕たちけっこう強者だね」

「たしかに俺たちは強者コンビだ。準備は?」

「できてる。君は?」

「大丈夫だ。いくぞ」

 目をつぶり、同時に呪文を唱える。次に2人が目を開けた時は、真っ暗闇の中にいた。

「レン?大丈夫か」

「ああ、ここにいる。ここは星羅の記憶だな」

 暗闇の中にオレンジ色の炎が浮かび上がった。エイトが魔法を使ったのだ。

「ああ、この暗闇だ。誰かが星羅の記憶をいじった証拠だな」

「誰がこんなことをしたかわからないけれど、もう一度かけられた呪文を明らかにできるか、やってみる」

 だが、レンの額にはうっすらと汗が滲み、呼吸もわずかにだが乱れている。

「おい、無茶するなよ。エリザの街に行き来するだけでも体力を使うんだ。それにさっきから使っている魔法も高度な術だ。無茶をしたらレンが危ない」

「大丈夫、まだやれる。それに、いざとなったら君がいる。だから、大丈夫だ」

 信頼しきった笑顔をみせるレンに、エイトも覚悟を決めて頷いてみせた。

「いざとなったら俺が助ける。だから、レンがやれるならもう一度頼む」

 レンは額の汗を拭い、静かに目を閉じると呼吸を整えた。

「我に真実をみせよ、ベリタス・ダ・アフレイトゥ」

 暗闇の中に風が巻き起こり、辺りが少し明るくなった。

「レン!成功だ、星羅の記憶が見えたぞ」

 エイトの声で目を開くと、先程までも暗闇が薄まり、数歩離れたところに僅かな灯りがあった。

「あれが星羅の記憶か」

 2人でその灯りに近づくと、灯りの中にぼんやりと何かの姿が動いている。2人は顔を見合わせ、同時にその光に手を触れた。

 次の瞬間に2人が立っていたのは、エリザの街の路地裏だった。目の前にはナオトと、彼に抑え込まれて涙を流している星羅が立っている。

「星羅!」

 思わず駆け出しそうになるレンの腕をエイトが押さえた。

「落ち着け、これは星羅の記憶だ。俺たちは干渉しちゃいけない」

「ごめん・・・・」

 恐怖に怯える星羅がそこにいるのに何もできない歯がゆさにレンは拳を強く握った。


 起きてしまったことをなくすことはできない。だったらせめて、これから星羅に起こる危険からちゃんと守らなきゃ。そのためにも、この記憶が必要なんだ・・・・


 星羅の記憶は、そのまま動画のように流れていく。そして、ナオトが嫌がる星羅に液体を飲ませ、彼女が気を失ったところで彼らははじき出されるようにして、元の世界に戻ってきた。

「はあ、はあ、はあ」

 四つん這いになった状態でレンが激しく呼吸を乱している。

「レ・・ン、だい、じょうぶか?」

 レンほどではないが、エイトもまた呼吸が乱れていた。レンは声を出さずに、大丈夫だと頷いてみせた。

「やっぱり星羅の様子がおかしくなったのは、ナオトさんが関係してたんだな」

 しばらくして呼吸を整えたエイトは、暗い声で呟いた。

「エイ・・ト、大丈夫か?」

 レンはまだ呼吸を乱したまま、横になっている。何度も高度な魔法を使ったことで、彼の体力はだいぶ削られていた。

「正直なことをいうと、かなりショックだ。だけど今はそんな感傷にひたっている時間はない。今夜、ナオトさんは行動を起こす。俺たちは、それを止めるんだ。星羅にはナオトさんが父親に復讐する手伝いをさせたくない。それがどんなに彼女のせいではなくても、絶対に自分を責めるに決まってる。それにわかったことがある」

「わかった・・・・こと?」

「ああ。最初にレンが星羅にかけられた術を知ろうとした時は、何も起こらなかった。それは、ナオトさん自身がかけた魔法を想定していたからだ。でも、さっき星羅の記憶の中でレンはただ真実だけをみようとした。だから、星羅の記憶もみれたんだ」

「どういうことだ?何が言いたい?」

 エイトはどこか誇らしげに「勝てるかもしれない」と言った。

「星羅の意識を封じ込めるような術をかけたのは、ナオトさん自身じゃないってことさ。さっき、星羅は何か液体を飲まされていただろう。あれがかけられた術の正体だ。あれは、そう簡単に手に入るものじゃないが、エリザのような大きな街なら、ああいった怪しい薬が手に入ってもおかしくはない。つまりな、ナオトさん自身には、星羅の意思を封じ込めるような魔法を使う力はないんだよ。それなら、俺たちにも勝機はある」

「最強コンビの力の見せ所・・・・だな」

 疲れた顔に笑みを浮かべたレンが言う。

「ああ、今晩が俺たち最強コンビの活躍場さ。だけど、闘いの場はこの世界じゃない。星羅の世界になると思う。俺たちが星羅の世界に行けるように、ちょっとこれを借りよう」

 そう言って、眠っている星羅の髪からヘアピンを2本外し、そのうちの1本をレンに渡した。

「これ・・・・いつも星羅がつけてるやつだな。いいのかな、勝手に取っちゃって」

 申し訳なさそうにヘアピンをみるレンにエイトは溜息をついた。

「こんな時に何言ってるんだよ。さあ、レン。あとはできるだけ体力を回復させておけ、それで闘いの準備は整うぞ」


 




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