第22章 兄弟
第22章 兄弟
「ここには、もういないか・・・・」
男は静まり返ったマンションのエントランスに一人佇み静かに呟いた。時は深夜の3時過ぎということもあり、建物全体が静まり返っているため、男の呟きがやけに響く。
「絶対に見つけ出してやる」
そう言ってその場を立ち去った男の顔には、何者かにむけた憎悪が強く現れていた。
「ナオトさん疲れた顔してますけど、大丈夫ですか?」
父の仕事の同伴でエリザの街を訪れているエイトは、こっそりと父の元を離れナオトと会っていた。だが、ナオトの目元にはクマができ、表情も疲れているように見える。
「最近仕事が忙しいのと、眠りが浅いのとで体調が優れなくてね。わざわざ会いに来てくれたのに申し訳ない」
「いえ…。むしろそんな時に来てしまってすみません」
「エイト君達が来るのは、私にとっても楽しみだから気にしないでくれ。君の顔をみれて、元気が出てきたよ。他の2人も元気にしてるかい?」
「はい。レンも星羅も元気です。星羅もあれから、間違ってエリザの街に来ることもないですし、魔法の方も徐々に力をつけていってます」
それはよかったと呟いたナオトの顔に疲れた笑みが広がった。
「星羅は私があげたバンダナは、こちらに持ってきてるのかい?」
「いえ、今は家に置いてきてるみたいですよ。バンダナのせいではないと思うのですが、それを持っているとまたエリザに間違えてきてしまうかもしれないと不安がっていました」
それを聞いたナオトは少し悲しげな表情をしながら、「その方がいいだろうね」とうなづいた。自分が渡した物が、星羅を不安にさせてしまった事を申し訳なく感じていた。
「こんな事をエイト君に聞くのはどうかと思うが、興味本位で一つ質問させてくれないか?」
ナオトは疲れた顔に、これまでには見たことのない悪戯っぽい笑顔を浮かべている。そんな彼を見て、エイトは「何でしょう?」と首を傾げた。
「いや、実は前から気になっていたんだが…。レン君はいつ星羅に告白するんだ?」
それは予想外の質問だった。予想外すぎて、エイトは飲んでいたジュースを吹き出しそうになったほどだ。
「な、どうしてそれを?レンが言ったんですか?」
「いや、直接聞いたわけじゃないけど見ていれば分かるよ。で、レン君はいつ星羅に気持ちを伝えるんだ?」
「いや…俺は何も聞いてないんですよ。そもそも、あいつが星羅に気持ちを伝える気があるのか、という以前の問題かもしれないです」
「というと?」
「レンは、自分の気持ちに気がついてない可能性があるってことです。星羅が来るまで、あいつ、女の子と接することなんてほとんどなかったから、そういう気持ちに気がつくのには時間がかかるかもしれないですよ。自分が他の女の子に抱いてる感情と違うってことくらいは知ってるとみたいですけどね」
それを聞いたナオトは一瞬固まった後に大笑いしだした。
「すまないね。まさかレン君は自分の気持ちに鈍感だったとわね」
ナオトは目尻に浮かんだ涙を拭きながらも、まだ笑っている。
「どうだろう、ここはひとつ私たちでレン君に自分の気持ちを気づかせてあげないか?」
ナオトの提案にエイトは飲んでいたジュースにむせかえった。
「俺は今ナオトさんの意外な一面を知って驚いてます。なんだか少年みたいだ」
「そうかなあ、私からみるとエイト君が大人びてるんだよ。で、どうだろう?協力してくれないか」
「俺は何を手伝えば?」
いつの間にかナオトの疲労に満ちた表情は消え、少年のように瞳をキラキラさせている。こうしてエイトと過ごすことは弟といるようで楽しんでいる自分自身に驚いているのだった。




