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第20章 失敗

第20章 失敗


「え?なんで私ここに?」

星羅はいつも通り自分の世界から、レン達と会う広場へと続く道を創造したはずだった。これまで彼女の住む世界からマジックワールドへ来ることに失敗したことはない。それなのに今は、エリザの街へ来ていた。

林の中に一人佇む星羅を見下ろすようにして、エリザの街を囲む高い壁が立っているのを、星羅は呆然と見つめていた。

「どうしよう、ここから一人でレン達の所には行けない。私だけじゃ移動魔法は使えないもん。ナオトさん、いるかな…」

不安で一杯になった気持ちを落ち着かせながら、星羅はエリザの街へと入っていく。この街は今日も賑やかで、人々の笑い声やかけ声があちらこちらから響いてくるが、今の星羅にはそれすらも不安を煽るものに感じられた。

「星…羅?星羅か?」

突然背後から呼び止められた彼女は驚きのあまり声も出せずに固まってしまった。そんな彼女をみて、声の持ち主は申し訳なさそうに謝る。

「ナオトさん」

見知った顔に出会え、星羅の緊張が一気に解けた。膝の力が抜け崩れ落ちそうになる星羅をナオトが慌てて支える。

「大丈夫か?今日はエイト君たちは一緒じゃないのか」

ナオトに支えられたまま、星羅は首を縦に振った。瞳に涙を浮かべた星羅を見てただ事ではないと察した彼は星羅を近くの軽食屋へと連れて行き、彼女にオレンジジュース、自分にはコーヒーを頼んだ。

「落ち着いたかい?」

 オレンジジュースを飲みながら小さく頷いた星羅を見て、ナオトはホッと胸をなでおろした。

「何があったのかな?まさかエイト君たちと喧嘩して一人でここまで来たのかい?」

「違います。私、レンたちの所へ行こうと思っていつもこっちに来るときみたいに広場をイメージしたはずなのに、気がついたらここにいたんです」

 話しながら星羅は再び不安にかられ、目に涙を溜めた。

「大丈夫だよ、私がエイト君たちに今の状況を知らせておこう。彼らならきっと迎えに来てくれるはずだよ」

 そう言ってナオトはいつものように、ハトを(魔法だけれど・・・・)を飛ばしに外へ出た。その姿を窓越しに眺めながら、星羅は落ち着きつつある頭で現状を整理し始める。

 自分の世界から来る時に何か変わったことはなかったか、マジックワールドをイメージする時に何か余計なことを考えていなかったか・・・・・・。思い返してみても今までと変わったことは特に思い出せない。


 これは偶然だったのかな・・・・。もし偶然じゃなかったら・・・・・・怖い


「どうした?大丈夫かい」

 外から戻ってきたナオトに声をかけられ星羅は我に返った。

「今エイト君たちに連絡をした。もう安心していいよ」

「ありがとうございます。私一人ではどうしようもなかったので助かりました」

「私は大したことはしていないさ。星羅のほうが突然のことで驚いただろう。ところで、どうしてエリザに来てしまったのか理由はわかるかい?」

 いいえ、と星羅は首を振った。

「考えてみたんですが理由はわかりません。以前ナオトさんに頂いたバンダナを持っていますが、それが媒介となってしまうこともありますか?」

 それを聞いたナオトは困ったように腕組みをした。

「可能性としてはゼロではないと思う。だけど、星羅が想像したのは普段君たちが会っている広場なんだろう」

「はい。自分で聞いておいてなんですが、このブレスレットはレンからもらった物です。私がマジックワールドに来られるようになったころ、きちんとレンたちの元へいけるようにと、彼がくれたんです。だから、バンダナがあるからといって、エリザの方へ来てしまうとは考えにくくて・・・・。それに、これまでもバンダナを持った状態で、自分の世界とこっちとを行き来できてました。それなのに、今日はなぜかうまくいかなくて・・・・」

「話を聞けば聞くほど、なんでこうなったのか私にもわからないな。もし不安なら、こちらの世界に来る時に私のあげたバンダナは家に置いておくといい。そうすれば、君とこの世界をつなぐ媒介はそのブレスレットだけだ。今日のようなことが起こる確率も減るだろう」

 今回の理由がはっきりしない以上、ナオトの言った対策が一番だろう。そう思った星羅が黙って頷いてみせるとナオトは満足したようにニッコリと笑みを作った。

「ところで、星羅はもう夏休みだったよね。友達に会えないのは寂しいんじゃないか?」

 沈んだ顔の星羅の気分を変えるためにナオトはわざと明るい声を出した。

「そうですね、仲の良い友達と会えないのは少し寂しいです。少し前まえだったら家に居ても1人の事が多くて、いつもテレビをつけていたけれど、今はレン達がいますから。学校にいるときよりも楽しいと思うことも多いですよ」

「そうか、星羅も母子家庭なんだよね。私もそうだったから、少しは君の気持ちがわかるよ」

「やっぱり1人でいるのは寂しいと思うことが多いですよね。ナオトさんもそうでしたか?」

「そうだなあ、寂しいと思うことも多かった。特に一人で食べる夕飯なんかがね。なんだか味気がなく感じたよ」

「私も!同じです。よかった、私の気持ちをわかってくれる人がいて」

星羅の顔に笑みが広がる。

「そういえば星羅はどこに住んでるんだ?都心のほうかい?」

「いいえ、都心からは少し離れています。東京は東京でも、神奈川よりなんです」

それを聞いたナオトは驚きの声をあげた。

「驚いたな。もしかしたら私が住んでいた所の近くかもしれないな」

「え!それなら向こうの世界で会っていたことがあるかもしれないですね」

思いがけない事実だったが、共通の話題がさらに増えた2人は、血相を変えたレンとエイトが来るまで話に花を咲かせたのだった。



 


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