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第17章 エリザの街へ

第17章 エリザの街へ


ナオトの提案を受けてからの3週間は、魔法の特訓につぐ特訓日々だった。レン達の住む村からエリザの街までは、馬に乗ってもほぼ1日かけて行くような場所だ。そんなところへ、レン達が行くことを決して家族は許さないだろう。それに、なぜエリザの街へ行きたいのか、と怪しまれること間違いなしだ。

「そこでだ、俺やレン、星羅なら魔法でエリザまで行けるかもしれない。もちろん、かなり練習が必要だけどな」

 エイトは移動魔法を使おうというのだ。この魔法は、上級魔法で使えるようになったとしても危険が高く、疲労度も大きいので使おうとする人間はほとんどいなかった。

「幸い、俺もレンも魔法の成績は悪くない。レンはきっと俺よりも高度な魔法を使うことができる。星羅も、俺達が補助すればできると思う。ただ、ララにはまだ危険が大きすぎる。ララ、悪いが今回は村に残ってくれるか」

 それを聞いたララは一瞬しょんぼりしてみせたが、すぐにわかったと頷いてみせた。

「ありがとう、ララ。よし、そうと決まれば早速練習だ。移動魔法は、自分が行ったことがある場所にしか基本使えない。俺は、エリザの街に行ったことがあるから問題ないが、レンと星羅は初めてだ。だから、これをナオトさんにもらっておいた」

 エイトが鞄から取り出したのは、バンダナだった。それを2人に渡しながら、自分の分も一枚取り出す。

「これは、ナオトさんが魔法をかけたバンダナだ。これがあれば、エリザの街へ行ったことのない2人もナオトさんのいるエリザの街へ移動できるはずだ。俺も、これを使うことでより確実に魔法を使うことができるってわけだ」

「もしかして、これと同じ役割をしてくれるの?」

 そう言って星羅は、レンからもらった革のブレスレットを指差した。

「そう、それと同じ媒介の役割を果たしてくれる。いいか、ナオトさんと約束したのは3週間後だ。3週間後にエリザの街で落ち合う約束になっている。それまでに、なんとしても移動魔法を完成させるぞ」

 それからの3週間はあっという間に過ぎた。ちょうど星羅の高校は夏休みに入ったこともあり、時間には余裕があった。星羅たちは、時間が許す限り朝から日が暮れる時間まで、とにかく移動魔法の習得のために時間を使った。ララは、そんな3人をサポートすべく、水を持ってきたり、差し入れを運んできてくれた。

 そして、3週間が経った。3人はほとんど完璧に移動魔法を使いこなせるようになっていた。だが、練習で移動した場所は、せいぜい森の中。エリザまでの遠距離を移動するのは、今日が初めてだ。

 3人は緊張した面持ちで、星羅は髪に、エイトとレンは腕にナオトからもらったバンダナを結びつけた。

ナオトはこの日のために、もう一つ星羅に送ってよこしたものがあった。それは、ララたちが着ているような綿でできたワンピースだ。ちょうど腰のあたりに結び紐がついていて、それを星羅はララがしているように前で結わえていた。初めて着るマジック・ワールドの衣服だったが、着心地は悪くなかった。それよりも余計な飾りがついていない分、星羅の世界の服よりも着心地はよいかもしれない。

「お兄ちゃん、エイ兄、星羅さん気をつけてね」

 見送りのためにやってきたララは、不安そうな顔で3人を見上げた。

「大丈夫、必ず帰ってくるからね。待っててね、ララちゃん」


 星羅はクラクラする頭を抱えながら、ゆっくりと目を空けた。星羅の両隣では、同じように頭を抱えているレンとエイトがいる。

「ねえ、レン、みて。私達、エリザの街に来れたみたいよ」

 3人が到着したのは、エリザの街の入口にある林の中だった。エイトは服についた土を払いながら、ゆっくりと辺りを見渡し立ち上がった。少し離れた場所から、人々の声が聞こえてくる。

「間違いない、エリザの町だ。ほら、ふたりともあの木の陰から見えているのはエリザの街の城塞だ」

 エイトの指差す方をみると、たしかに見上げるほどの灰色っぽい壁があった。

「エリザって、城塞都市だったんだね・・・・。僕、初めて知ったよ」

「そう、エリザは昔から闘いが絶えない場所だったんだ。もちろん今はそんなことないけどね。この壁はその名残だよ。行こう、街への入り口はあっちだ」

 街に入った3人を待っていたのは、賑やかな街並みだった。両側にレンガ造りの建物が並び、右をみても左をみても、商人たちが声を張り上げて品物を売っている。

「エイト、今日はお祭りなのかな。みてよ、こんなに人がいる」

 レンは呆気に取られたように口を開けている。

「いや、エリザの街は毎日こうみたいだよ。俺も最初来た時は驚いたよ。こんなに人がたくさんいて、賑やかな場所があるのか、って。もう少し進むと噴水広場があるんだ。運が良ければ、大道芸がみられるんだ」

 心なしか、エイトは楽しそうだ。

「星羅もレンもはぐれずに来いよ。ナオトさんとは、その噴水広場で待ち合わせしてるんだ」

 待ち合わせの場所に移動するまでの間、3人はキョロキョロと辺りを見渡した。星羅は自分の世界と違う活気づき方をしたこの街に、なんだか胸がドキドキしていた。まるで、幼いころに連れて行ってもらった夏祭りのときのような高揚感だ。レンといえば、とにかくみるもの全てが物珍しくて、いろんなものに興味を持っていた。そのたびにエイトに、あれは何か?これは何か?と聞くのだが、エイトは嫌がる素振りもなく説明してみせた。

「エイトさんって、本当に物知りなんだね」

 エイトの博識には、星羅も思わず感心したほどだ。

 3人が待ち合わせの噴水広場に到着すると、ナオトはすでにそこにいた。

「やあ、これたんだね。よかったよ。どうだい?エリザの街は?」

「すごいですね、僕、生まれて初めてこんな人がたくさんいる場所に来ました」

 レンが興奮気味に言うのを、ナオトは嬉しそうに聞いていた。

「そうか、それはよかった。せっかくだし、少し観光してからどこかお店にでも入ろう。あれ?今日はあの小さな女の子、ララはいないのかい?」

「ララはまだ移動魔法を使うには危険が大きすぎるので」

「そうか、それは申し訳ないことをしたね。ララには何かお土産を持って帰ってあげるといい。よし、まずはあっちから行ってみようか」

 

 


 

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