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第13章 それぞれの気持ち

第13章 それぞれの気持ち


 エイトが接触したナオトという男の話を聞いてから一週間が経とうとしていたが、その間も特に変わったことはなく、ナオトからの連絡もなかった。

「お兄ちゃん、星羅さんが来ないからってダラダラしないで!起きてよ!」

 昼近くになっても起きてこない兄にしびれを切らしたララが勢いよく部屋のドアを開けて入ってきた。

「ん~、ララ。もう少し寝かせてよ」

「だめ!お兄ちゃん、ここのところ毎晩何してるの?遅くまで起きてるの知ってるのよ」

 腰に手を当てて仁王立ちしながら、ララは兄の部屋を見回した。そして、

「ねえ、これ何?」

 兄の机に積み重なった何冊もの本が目に止まった。

「エイトに借りた本・・・・。ララにはまだ難しいと思うよ」 

 それだけ言ってレンはまた眠ってしまった。ララはそんな兄には目もくれず、積み重なった本の一冊を開き読み始めた。読めない言葉も多く、文章を飛ばしながら数ページ読みすすめるとわかったことがあった。

レンは星羅に関係のありそうな文献を読んでいるのだ。村の伝記や歴史書を始め、積み重なった本の中には他の村や街の伝記などもあった。

「お兄ちゃん、星羅さんのこと心配なんだね」

 星羅の存在が村の人達に知れたら殺されるかもしれない。それをエイトから聞かされた時のショックを、ララは今でも覚えている。絶対に星羅のことを口外するものかと固く誓ったことも・・・・。

 でもレンやエイトは星羅を守るために、ここに安心して来ることができるように、黙っているだけでなく何か手はないかと行動しているのだ。

「お兄ちゃん」

「・・・・なんだ、ララ・・・・。まだ居たのか?」

 レンは寝ぼけ眼でララをみた。

「お兄ちゃん、星羅さんのこと好き?」

「うん・・・・」

「ララもね、星羅さんのこと好きだよ。絶対に星羅さんのこと守ろうね」

「うん・・・・」

 きっと目が醒めたときには今のやり取りなんか覚えていないだろう、そう思いながらララは部屋を後にした。


「その力によって我が子を殺した罪は重い。それもまだ魔法を使えない子供を、お前は父親という立場でありながら、その力を持ってして殺めたのだ。何か異論はあるか?」

「あいつがうるさかったから・・・・、だから仕方なかったんだ。あいつの母親は、あいつを産んですぐに死んだ。それから、どうにか頑張ってきたけれど限界だった。番人様の言うとおり、俺は俺の力であいつを殺したんだ。どうだ?俺は全部話した。これで満足か?」

 後ろ手に縛られ、膝をついた若い男は目の前に立つ長身の男を自嘲気味に笑いながら見上げている。長身の男、法の番人はそんな男を感情のない目で見下ろした。

「どんな理由があれ、未来のある子どもを殺したことに替わりはない。お前の罪は重い。罰を持って償いなさい」

 若い男は鋭い目で法の番人を睨みつけた。そして、番人の10歩程後ろで立つ少年に目を向けると嗤笑しながら

「よく見ておけ。いいか、お前たちは番人はな、人の苦しみや思いなんかどうでもいいんだ。お前もそのうち、この父親のようになるんだろう。お前の父親がすること、これからお前がすることをよく見ておけ」

 少年は、男の嗤笑をうけながら苦悶の表情を浮かべている。それでも、男から目を逸らそうとはせず、その言葉に怒りをみせることもなかった。

「関係のないことを・・・・。お前はこれから魔法を奪われ、その力がない状態で生活していくのだ。この世界で魔法が使えないことは、かなりの辛苦を味わうことだろう。それで罪を償いなさい」

 その言葉に男は目を見開いた。

「ちょ、待ってくれ。魔法を奪うことはやめてくれ。子どもを殺したことは謝る、どんな罰でも受けるから、だから魔法だけは奪わないでくれ」

 男は頭を床につけ、泣きながら懇願した。法の番人はそれを見ても淡々とした表情で、「もう遅い」と言った。

「デートラヘレ」

 番人が泣き崩れている男の上にかがみ込み、一言唱えると辺りが一瞬だけ光り、男はその場で気を失っていた。番人は男の上から身を起こし、唇をかみしめて震えている息子を一瞥し部屋を出ていこうとする。

「エイト、法の番人たるもの感情に左右されてはいけない。何度もそう言っているはずだ、お前も時期にこの位に就くのだ。いい加減、自分の感情をコントロールできるようになりなさい」

 ドアノブに手をかけた法の番人、エイトの父は、息子のほうをみることなく冷たく言い放つ。

「それから、看守を呼んでその男を連れ出しておきなさい」

 そう言い残し出ていった父親の足音が聞こえなくなるまで、エイトは黙って唇を噛み締めていた。


 牢を後にしたエイトは重い足取りで森の中を歩いていた。牢は村を囲む四方の森の東に位置した場所にひっそりと作られていた。そこに立ち入ることができるのは、牢の関係者と法の番人だけである。

「くそっ」

 エイトは手に取った石を思い切り投げ飛ばした。自分でもうまく言えないが、父への怒りや恐怖、そして罰を受けた男への怒りや哀れみが彼の中で渦巻いていた。先程、魔法を奪われた男は数か月前まで村に暮らしていた。だが、ある日自分の子どもを魔法で殺し、牢に入れられた。何度もその男の話を父が聞きに行っていたことは、エイトも同行していたので知っていた。おそらく反省の言葉や後悔の言葉を聞こうとしていたのだろう。男の言動が刑罰を決める1つの基準になっていることはエイトも知っていた。

 だが、男は自分のしたことを悪かったとは言わなかった。自分は一人で頑張っていた、誰も助けてくれなかった、だから俺は悪くない。男はそんなことを言い続け、今日まで来たのだ。だから父が下した判断が間違っていたとは思わないが、どうも気に入らないのだ。泣く男を目の前にしても表情を変えなかったせいかもしれない、何を言われても淡々としていたせいかもしれない。そして、そんな父親に恐怖すら感じた。法の番人の仕事場に行くのは今日が初めてだったが、顔色1つ変えずに刑を執行した父が、自分と同じ血の通った人間だとは思えなかった。この人なら、なんともしないで死刑すら行うのだろう、そう思いさえもしたのだ。

 そして、泣き崩れて許しを請うた男への怒りや哀れみ。自分へ向けられた憎悪の感情。初めての経験にエイトは発狂しそうだった。

「くそ、くそ・・・・」

 エイトは頭を抱え、近くの幹により掛かる。そしてそのままズルズルと崩れ落ちるようにしたしゃがみこんだ。

「あんな仕事、あんな風に俺にやれって言うのかよ・・・・」

 自然と涙が流れてくる。

「あんな仕事、俺はやりたくない」

 一人泣きながら、ふとレンやララの笑顔が浮かんできた。


~2人は、俺があんなことするところをみたらなんて言うだろう。軽蔑するだろうか、同情するだろうか。そうだ、星羅は?一体どんな顔をするのだろう?~


 法の番人の息子というだけで畏怖され、友人もいなかったエイトはいつも一人だった。そんなエイトに初めて声をかけてくれたのがレンだ。レンはこの村に6歳のころ引っ越してきた。外から入ってくる人間がほとんどいない村にとって、レンたち家族は異色の存在で、初めは誰も近寄らなかった。だからこそ、レンは同じような状態にあったエイトに声をかけたのかもしれない。

 理由はどうであれ、初めて自分に声をかけ暖かく接してくれたレンやその家族がエイトは好きになった。それからしばらくして生まれたララのこともすぐに好きになった。村に馴染んだ後でも、レンと家族のエイトに対する態度は変わらなかったことを、エイトはとても嬉しく思っている。だからこそ、失いたくない存在なのだ。

 そして星羅。突然異世界から現れるようになった少女もまた、エイトにとって大切な存在だ。それは自分が星羅に恋をしているということもあるが、誰かを好きになる気持ちを初めて教えてくれた存在でもあるからだ。それに、何と言っても自分の親友の想い人だ。星羅を失って悲しむレンの姿を想像するだけで、エイトは胸が苦しくなった。

 だから星羅を守ろうと決めたのだ。それは星羅のためでもあり、自分のためでもあり、レンやララのためでもある。星羅のことを村人に知られないようにするだけでなく、知られても安心していられるようにするために何かできることがあるかもしれない。そのためにエイトはナオトにも会ったのだ。


~こんなところで泣いている場合じゃないな・・・・~


 涙を拭って立ち上がったエイトは、レンの家へ向かって走り出した。


 

 



 

 

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