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いつものこと
チリンチリン、と時代遅れの自転車のベルの音がして振り向くとそこにはお巡りさんがいた。お巡りさんの姿を見た瞬間に、ドキドキと心臓の鼓動が耳に聞こえはじめる。ただ、自転車からゆっくりと降りるお巡りさんの姿なのに酷く恐ろしく感じた。
「こ…こんにちは。」
探るように無難な挨拶を絞り出す。身体中の血液が冷えたような感覚がして、声は少し震えていたかもしれない。
「どうもこんにちは。こちらは田中さんのお宅で良かったですか?」
籠に入れていた鞄から、分厚い書類を出してパラパラと捲りながらの返事が返ってきた。どうやらただの住人調査だったようだ。
それに気付いた時、全身からほぅっと力が抜けて鼓動以外の音が聞こえ出す。違った…。お父さんじゃなかった…。
「はい。そうです。」
もう声は震えていなかった。