私たち、引っ越します
「それじゃあ、今晩から定禅寺君のうちに?」
「うむ。来るがよい」
「良いかな?」
「もちろん。それで芽衣がいじめられる事もなくなるんでしょ?お母さん、こんな事しかできなくてごめんね。お父さんももうすぐ帰ってくるから、一緒にお話ししましょう。大丈夫。きっと大丈夫よ」
その言葉は、私に言っているようで、母自身に言い聞かせているようだった。
きっと、少し気を緩めるとまた泣いてしまうからだろう。
お母さんの言った通り、20分もしないうちにお父さんが帰ってきた。
私はお父さんにも同じように説明した。
お母さんも一緒に説明してくれたけど、言いだしっぺの定禅寺はずっとクッキーを貪っていた。
「そうか。分かった。すぐに荷物をまとめよう」
「お父さん、ありがとう!!」
「それにしても、芽衣が定禅寺さんの息子さんと知り合いとはな」
「む。父上を知っておるのか?」
「そりゃあ知ってるさ。定禅寺君のお父さん、定禅寺革さんは一代で会社を世界規模にした超やり手なんだ。会社勤めをしていて知らない人は居ないよ。それにお父さんは定禅寺グループの子会社で働いてるから」
「ふーん」
「流石は父上じゃな。余もゆくゆくはそうなるのじゃろうな」
こいつ、やっぱすごい家の息子なんだ。
そうは見えないんだけどなあ。
「ほらほら、急いで。定禅寺さんが車を用意してくれたんだから。今晩のうちに終わらせましょ」
お母さん張り切ってるなあ。
「おい母さん。これ要るのかー?」
お父さんも楽しそう。
あ。
出てきたのはアルバムの山だった。
小学校の頃、中学校の頃。
あんなに楽しかったのに、高校じゃあ何でこんな事に……。
ううん。
くよくよするのはやめよう。
「芽衣―!下は終わったわよー!」
階下からお母さんが呼びかけてくる。
「上ももうちょっとで終わるー!」
「お母さん、ご近所に挨拶してくるからー!」
「うーん!」
今晩私たち家族は定禅寺のうちへ引っ越す。
何故だか不安は無くて、ワクワクしてた。
いじめなんかない世界への逃避行って感じかな……。