私、買われちゃいました⑥
「ち、違うのだ。これは癖で。気が付くと手が鼻に」
置いてあった紙ナプキンで指を拭きながら定禅寺はそう弁明した。
いや、無意識でやっちゃう方がタチ悪いからね。
「そう。気を付けてね」
そう言うと定禅寺はほっとした顔をした。
「そんなことより、早速行きましょう」
「どこへだ?」
「決まってるでしょう?私の家よ。家族に説明しなきゃ」
「それもそうだのう。なら先に爺に増築をさせる。少し待ってくれ。爺!」
「はっ、ここに」
「ひゃっ」
天井からあの老紳士がぬっと姿を現した。
流石は平成の忍者。
ビックリさせてくれるZE。
「増築の件なら既に手配済みです。御心配なさらず」
天井にぶら下がったまま話すんかい。
ってか何で店員も他の客も無反応なのよ。
私にしか見えてないの!?
「流石じゃ爺。頼んだぞ」
「はっ、ではこれにて」
「…とりあえず、行きましょうか」
私たちは喫茶店を出て私の家へ足を運んだ。
「あら?芽衣のお友達?」
まだ夕方だけど、母は専業主婦で一日中家に居た。
「そう。定禅寺君」
「うむ。定禅寺保じゃ。楽にせい」
何だこいつ。
「ふふ。おもしろい子ね。さ、上がって」
「良い家だ。こじんまりとしていて……」
「そう言うのは良いから。お母さん。お母さんにも聞いてほしい話があるの」
「え?お母さんにも?やだ、そんな急に」
お母さんの反応を見て気が付いた。
これじゃあまるで結婚報告じゃん!!
「いや、ちが、そういうのじゃなくて!!」
「そういうのとは何じゃ?」
くそう、定禅寺が気付いてないのがむかつく。
「はいはい。お母さんちゃんと聞くから。話してみて」
「うん実は……」
私は今日あったことを話した。
買われたこと。
引っ越さなければいけないこと。
そして、もういじめられることは無いであろうこと。
「うん。そう。うん。ごめんね。お母さん、びっくりしちゃって。少し、席外すね」
お母さんは目に涙を浮かべていた。
そっか。
私のお母さんは本当に私の幸せを願ってくれていたんだ。
だから泣いて喜んでくれている。
そういえば、私がいじめられてるのを知った時、お父さんもお母さんもめちゃくちゃ怒ってくれてたな。
怒る時に怒れて、泣く時に泣ける。
嬉しい時に喜んで、楽しい時に笑う。
そんな当たり前が普通にできる素敵な私の家族。
ありがとう。
お母さん。
お父さん。
2人は望まないだろうけど、私は気がすまない。
2人を悲しませた学校の奴らを見返してやる!!