私、買われちゃいました④
私と定禅寺は喫茶店に入って、隅の席に向かい合って座った。
「ふむ。庶民はこういうところで茶を楽しむのか。少し狭いし、小汚いがコーヒーの香りは一級品だな」
小汚いとかデカい声で言うなよと思いながら私は切り出した。
「まずひとこと言わせてもらうわ。私を買うって何?何であんなことみんなの前で……」
「先にも説明したであろう?お前を助けたかったのだ」
こいつ、思ったより悪い奴じゃないのか?
「それに、分かっているとは思うが買ったからにはお前は今日から余の家畜よ」
うん。やっぱクズだ。
「買ったってあんたね。私は物じゃないのよ!」
しんとした喫茶店に私の声が響いた。しまった。つい大声を……。
「ふっ。この世に金で買えぬものなど無い」
堂々とそう言い張るこいつに更に怒りを覚えた。
「何言ってんのよ!だいたい、買うって言われてから私、何も言ってないのよ?成立してないわ!」
「そう言えばそうだのう。いくらじゃ?」
「は?」
「じゃから、いくら出せばお前を買えるのだ?6億までなら出そう」
6億!?
その金額に飛びつきそうになったが、落ち着きを取り戻して考えてみる。
私はあの地獄から抜け出したい。
もしかしたらこれは地獄に垂れてきた蜘蛛の糸なのかもしれない。
なら、どうする?
それを登るも断ち切るも私の意思。
でも決まってる。
私の向かう先は一つしかない。
登ってやる。
この地獄から。
今は見えないけれど、必ずあの天国へ。
「良いわ。6億。買われてやろうじゃないの。ただし、条件がある」