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報復  作者: 深皇玖 楸
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王共茣と璃奈《上》

なんかいろいろごめんなさい。

六月修正完了とか嘘ついてごめんなさい。

九月になってもこんなでごめんなさい。



では、どうぞ。




「ほら、もう一度言ってみろよ綵菟」

 王共茣の声はどこまでも冷えていて、綵菟の胸に突き刺さる。

「俺だってな、柚弥が死んだの知って悲しかった。学校の奴らが死んでくのが辛いのは…皆同じだろ?………無力なんだよ、皆。だから、一人で溜め込んでばかりないで相談しろよ」

「王共茣……」

「それに、璃奈ちゃん目指すのは阿呆だぜ?」

 王共茣が心底馬鹿にしたような目で見てくる。

「今まで生きてきた過程も思考回路もスキルも、敵わねぇことくらいお前も感じてんだろうが」

 指摘されれば頷くより他はない。背が異様に高く、奇抜な色をした髪を持ち、とにかく目立つ彼女ではあるが、中身は更に異常だ。「璃奈に…妙な影が見えた。多分、そういうことだ」

「ならしっかりしろ。溜め込んでんじゃねぇ」

 王共茣はそう言ってパイプ椅子に乱暴に座る。無音の室内にギシッと悲声があがったが、勿論二人ともそんなことは一切気にしない。

「…迂濶に動けないのも、お前が歯痒い思いをしていることも、璃奈ちゃんは知ってる。雪廻のことも知らないほど、この問題を甘く見てもいない」

「…そう、だな」

「俺からはそれだけだ。お前はまず食って寝ろ。話はそっからだ」

 王共茣はそれだけ言って仮眠室を出た。

 残された綵菟は溜め息を一つ吐き、大人しくベッドに横になった。





 時計の針が時を刻む音だけが聞こえる室内で、綵菟は思い出を辿っていた。

(璃奈、か…)

 中学の頃は、ただの大人しい後輩だと思っていた。上背はあっても、全体的に華奢で、とてもじゃないが運動なんて出来そうになかった。長すぎる手足を持て余す姿は不器用そうで、実際に段差で躓いているのを見ると滑稽に思ったりもした。

 モデル体型と言うには痩せすぎていて、表情にも覇気がなく、人形のような。兎に角、異質な存在だった。

 だが学年の違う綵菟にとっては、接点がない以上は取り立てて気にする存在でもなかった。

 璃奈が転校してきて、初めての定期テスト。璃奈は一位を取った。

 綵菟たちが通っていた中学は指導要領が独自のもので、それ故に無駄にレベルが高い。

 璃奈は平然としていた。つまり、彼女にとっては当たり前だったということだ。少なくとも、綵菟にはそう見えた。

 超然とした態度には驚かされたが、ガリ勉から来る自信ともとれた。

 それから直ぐに体育大会が開かれた。驚くべきことに璃奈は長い手足を存分に利用して、クラスに勝利をもたらした。

 普段の不器用そうな動きは演技なのかと疑ってしまうほどに、彼女は豹変したのだった。

 見るからにひ弱そうな身体から溢れ出すエネルギーは学校を覆い尽くし、支配した。

 そうして、璃奈は二学期が終わる頃にはすっかりアイドルとなっていたのだ。

 しかし璃奈はまるで台風の目の如く、表情には相変わらず覇気がなく、いつも無表情か困惑している様子しか見掛けなかった。

 そんな璃奈とのファーストコンタクトは、三学期に訪れた。

 璃奈が学校行事の一つ、冬山ハイキングで何故かクラスメイト数名と行方不明になった事件の後だった。

 不思議なのは事件から一ヶ月後に見つかったことだ。

 彼らは何も語らなかったし、受験シーズンで三年生が関わることも赦されなかったので詳しいことは知らない。

 それは、それぞれがそれぞれの思いを抱えて、志望校の結果を待っている時のことだった。 真冬なのに、コートもなしに屋上で一人弁当を食べていたところに、綵菟は出くわしたのだ。

 屋上に行ったのは、本当に偶然だった。

 琳鋭の受験は私立ということもあって、早めに終わっていた。一方で優太を始めとする多くの生徒が受ける星条は、奇妙なことに卒業式が終わった後に一次があるので非常にピリピリしていた。

 早い話が、邪魔をしないように出てきただけ。睦瑳と柚弥も同じ理由でそれぞれの教室を出てきて、行く宛もなく自然とそんな流れになった。

 扉を開けたままの格好で呆然と立ち尽くすこちらを、いつもの何を考えているのか分からない表情で、ぼーっとこちらを見ている璃奈の弁当箱は何故か重箱で、相当な量だった。しかも湯気まで出ていた。保温可能な重箱なんて見たことがない。

 あまりに可笑しくて、一緒にいた睦瑳と柚弥と三人で吹き出してしまった。

『その量一人で食べんのかよ。男子並みだな』

 一年も経っていないけれども、この頃の綵菟は丸っきり“中坊”だった。それだけのことだった。

 璃奈はそんなからかいにも応じず、相変わらず無表情のまま、こちらを真っ直ぐに見据えて口を開いた。

『食べますか?今日は皇先生がお休みだから、私には少し多くて…』

 それはてっきり、その重箱のことだと思っていた。まだ半分以上残ったそれは、確かにおかしな点はあった。

(お握りじゃなくて白米だったしな)

 璃奈は鞄から、和柄の巾着を差し出したのだ。つまり、重箱一つで一人前。巾着の中身は標準サイズの弁当箱だった。

『三人分ではないですが…よろしければ』

 なんだか圧倒されてしまって、三人は弁当箱をつついた。

 手作りだというそれはどれも絶品で、うっかり重箱の方も見つめてしまう程だった。

 厚かましくも食後のお茶も分けてもらいながら、すっかり打ち解けた様子で柚弥がどうして屋上なのかと訊いた。

 手が悴んで箸が握れないくらいなのに、なぜ璃奈はこんなところにいるのか。

 すると璃奈は微苦笑して、答えてくれた。

『桜が見たくて』

 その時にはもう、ガリ勉少女だという印象は綵菟の中にひと欠片も残っていなかった。





うん、昨日投稿した桜の幻想よりはましでも短いですね。

《上》とか区切ってんじゃねーよって感じですね。


でも区切りたかったんです。構成的に。


《下》では過去の王共茣も出てきます。


展開も更新も温いですが、頑張ります。



というか、桜の幻想では書かなかったのですが、小説を放置しないためにくじ引きで書くことにしたのです。

次に当たったときには速やかに更新します。


でもくじ引きに飽きたらまた亀かもしれません。

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