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お嬢様の自覚


「お嬢様、本日もお疲れ様でございました。珍しく素直にお荷物をお渡し頂けるのですね。」


 みりあの執事、城里生誠が切れ長の目で柔らかく微笑んだ。

 しかし、みりあにはその言葉も笑顔も嫌味にしか受け取ることができない。

「今日は弁当が重かっただけだ。」

 城里生は、みりあのぶっきら棒な返答を気にも留めない様子で後部座席のドアを開け、みりあの乗車を促した。そして受け取った重箱と鞄をトランクへ入れて運転席につく。

「昼食は皆さんとお過ごしにならなかったのですか。」

 確かに朝とあまり変化のなかった重箱の重さに、城里生は後ろへ声をかけた。

「今日は昼寝をしたかったから、別の場所で食べたんだ。」

「お嬢様、まさか屋外でお休みになられたのではないですよね。」

 学院には、仮眠室という名のホテルの一室のような部屋まで用意されている。

「こんな気持ちの良い天気の日は芝生で寝るに決まっているだろう。」

「お嬢様っ、松葉重家のお嬢様がそのようなことをされては困ります。何のために学校が仮眠室を用意していると? それから、その言葉遣いは学院でも注意を受けていらっしゃるはずです。」

「先生方にはきちんと話している。」

 みりあは仏頂面で座席にふんぞり返って腕組みをした。

 その姿をバックミラー越しに見た城里生がもう一言続けようとするより先に、みりあが口を開いた。


「城里生、私も言った筈だ、お嬢様と呼ぶのはやめろと。」

「みりあ様とお呼びすることは出来ません。これもご説明させていただいたと思いますが、お嬢様にはせめてお嬢様と呼ばせて頂くことで、松葉重家のご令嬢である自覚を持って頂かなければなりません。お嬢様の立振る舞いを総帥に自信を持ってお見せできるようにし、無事に十八歳での社交界へのお披露目をお迎えできるようにすることが、私の大切な務めでもあります。」


 何がお嬢様の自覚だ。子供の頃から誘拐されそうになったり、取り巻きが絶えない生活を送っていれば嫌でも自覚しているぞ。

 みりあは窓の外に流れる景色に目をやった。

 


 滑らかにステアリングをさばきながら、城里生は考えていた。

 お嬢様の言葉遣いがあのようになったのはいつの頃からだろうか。

 小学校の頃、武術を習いたいと言い出した頃か。

 何度か危険な目に遭い、ご友人も巻き込みそうになったその後、お嬢様が初めて泣いて頭を下げてまで武術をやりたいと頼んできたのだ。

 危険な目に遭った時にも気丈に涙を見せなかったというのに。

 

 護身術くらいなら役に立つかもしれないと思って、根負けして了承してしまったが、今のお嬢様は攻撃力も身につけている。

 総帥のお耳に入ると問題になるのだが、お嬢様の熱心さは冷めることはなく、最低限、見えるところに痣など作らないように、筋骨隆々にならないように注意させるのがやっとだ。

 とにかく頑固な性格なので、今更やめさせるのは無理だろう。まさかあそこまで強さも身につけるとは思っていなかった。

 そう考えると、武術を始めて間もないお嬢様にとって、あの言葉遣いは子供だったお嬢様でもできる『強さ』の表現だったのかもしれない。

 それが今でも続いてしまっているのだろうか。

 

 城里生の疑問がおぼろげな回答に辿りつく頃、ダークグリーンのリムジンは広い屋敷の中へと入っていった。


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