昼休み
私立W女学院はいわゆるご令嬢が通う超お嬢様学校だ。
中学、高校、そして今時珍しい、花嫁修業学校とでもいうべき女子短期大学が存在する。
成績で言うところのレベルは上位クラスに入っているが、多少のことは家柄と寄付でどうにかなる学校だ。そしてその寄付により、学内の設備、セキュリティは見事なものだった。
それは大切なご令嬢の身を預かるうえで必要不可欠であり、学院の売りでもあった。
同時にそこへ愛子を通わせる親の求めるものでもあり、利害関係は何の問題もなく成立して今日に至っている。
殆どの生徒たちの通学は自家用車である。その為、校門は二重になっている。
まずひとつめの校門を守衛とカメラなどのシステムにより車を通す。その先は広い車寄せになっている。そこで生徒たちは車を降り、もう一つの校門をくぐることになっている。
不審なものは立ち入れない場所での車の乗降ができるようになっていた。
「それが迷惑だっての。」
ご令嬢の口から出たとは思えない言葉が発せられたのは、噴水がキラキラと虹色の光を反射させている脇、つつじの植え込みの陰。
スラリとした長い脚を前に投げ出し、重箱の弁当を広げて、豪華な食材が巻かれた太巻きをほおばっているのはこの学院に通う中でも一、二の規模のグループ総帥の娘、松葉重みりあ、高校一年生。
「私、やはりみりあに何かあったらと思うと、胸が張裂けそうで一秒も正気ではいられなくなってしまいそうだわ。せめて城里生様とご一緒という訳にはいかなくて?」
学院ブッフェのイタリア野菜サンドを小さく口に運んでいるのは、松葉重みりあの親友、伊勢季子。
こちらは女性らしく足をスカートの中に隠すように横座りで、ナフキンを膝にかけている。
二人はとある作戦を立てており、いつものベンチではなく、あえて植え込みの陰で昼休みを過ごしていた。
普段、ベンチに二人が座っていると何かと声を掛けられて、みりあの重箱弁当がどんどん空になっていくのだ。とても話ができる状態ではなくなる。
これはみりあの、松葉重家の家柄ゆえ仕方のないことで、何かとみりあに近づきたいと思っているものが多いのだ。『お友達なの』と言えるネームバリューが欲しいのだ。
そのあたりのことは幼少の頃から馴れっこのみりあは、それを重箱弁当のおかずを一緒に口にすることで誤魔化し、深い話にしないようにしていた。それゆえ、最初の頃は普通の大きさだった弁当がいつの間にか大きな重箱弁当になってしまったのだが。
みりあは次に上品な大きさに揚げられた鶏やポテトを口に放り込んだ。そして首を横に振る。
「城里生なんかに話してみろ、そのまま季子の家に伝わって、大事になるに決まっている。」
「そうかしら。」
「絶対そうだ。城里生には心というものが欠けているんだ。だから季子の純粋な気持ちなんて、一カ月説得したって理解してくれないに決まっている。少しでも自分の首とか家柄に悪いことが起きそうなことは全て却下だ。」
声を荒げて拳を作り断言するみりあに、季子は少し首を傾げた。
「私には、とてもみりあ想いの相性の良い執事にお見受けできるのですが・・・。」
「それはあり得ない。」
みりあは一言で片づけると作戦の続きを考えた。