依頼その1 少女たちと花畑
「………ハァ」
「あら、溜め息なんて吐いてどうかしたんですか社長?」
「なんでもねーよクララ…ブラックくれ」
「はーい」
なんでも屋『ハンディオール』。六年前オレがクララと一緒に立ち上げた店だ。誰でもできるような事から可能な専門職までやってのけることで町では知らない人ぞいないほど大盛況している。
給料は完全歩合制の割に社員もそれなりにいるし依頼だって一か月のうちに結構入り込んでくる。
…なのに、今日は依頼が少ないのだ。
「クララさーんお酌してくんない?なんなら口移しで―――」
「ざけんなボケカス酒飲んでねーで働けキィーック!」
「げぼぁ!」
朝っぱらからふざけたことぬかす女好きの酔っ払い野郎に蹴りを入れる暇があるくらい今日は退屈だ。
オレはずっと椅子に座りながら暇を持て余しているのだ。
「てめっ、いきなり何しやがる!跳び蹴りで酒が零れたら弁償だぞ弁償」
「うっせーゲイル!久しぶりに事務所に顔出したと思ったら酒飲んでばっかじゃねーかテメー!仕事しろ仕事を!」
「別にいいじゃんかよぉ。依頼ないし、社長だってコーヒー飲んでんじゃん」
「屁理屈かテメー、他の社員…はいいや。ダイチを見習え、自分から仕事を探しに行くぐらいの気構えをしろ!」
「社長が行かせたんだろうが」
ゲイル・ローザ…うちの事務所の社員で数年前、居酒屋で知り合い職を探しているというので雇った社員だが、勝手にいなくなるし女と酒ばっかでオレの怒りが溜まる一方なのだ。
銃の腕は良いが、それ以外がダメ過ぎる…ギャンブルをしねーのが救いか。
「あら社長、もしかして嫉妬してくれてるの?」
「ばっ、ちげーよ!クララからも注意しろ!女の言うことなら聞くだろコイツ」
「ゲイルさん、仕事してくださいね?」
「はーい♡」
一度シメてやろうかコイツ。
「ただいま戻りましたー」
と、玄関を開けてダイチが帰ってきた。
「おうダイチ、鈍器持ってこい。性格変わるくらい強力なヤツ」
「バイオレンスですね!?いやそんなことより、連れてきましたよ」
「連れて来たって、何をだよ」
「御客様ですよ。依頼人です」
ダイチの後ろから、可愛らしい少女がひょっこり顔を出した。
「ユニエ、八歳です!」
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「それで御嬢ちゃん、今日はどんな頼みがあってきたのかな?」
ユニエと名乗る少女をソファに座らせ、話を伺う。
この時相手の年齢に合わせて対応を変化させるのが一流のコツである。相手の話しやすい雰囲気を会話の中で作るのだ。
後ろで寝転がりながらロリコンみてぇとほざくゲイルは後でしばく。絶対にだ。
「あのね、お山の方にね、ユニエたちが育ててる花畑があるんだけど…」
ユニエは家族には内緒で近所の友達と山の方にある空き地に種を埋めて花を育てていたらしい。
花が咲いていっぱいになったら、自分の家族にプレゼントして驚かせるつもりだったのだ。
しかし先日見に行くと空き地は空き地は荒らされ、花もいくつか無事だったがほとんどがめちゃくちゃになっていた…。
何人かは親に相談しようと思ったが、一番年上の子が内緒だから親に言うのは止めようと言ったらしい。じゃあどうすれば…そうやって困っていた所を、ダイチが連れて来た。というわけだ。
「だからね、なんでも屋さんたちで原因をつきとめてほしいの!お金もちゃんと持ってきたよ!」
ユニエはハイ!と貨幣の入った袋を差し出した。
目の前で中身を確認するのはさすがに面倒なので、触った感触で金額を予想した。
…ふむ。銀貨だとしたら十分な金額になるな。
「よしわかった。その依頼『ハンディオール』が引き受けよう」
「ホント!?」
「本当だ」
それを聞くとユニエはわーいとはしゃいで声をあげた。
「よーしじゃあダイチ、オマエついてこい。あ、これ強制な」
「横暴だ!?…って僕が持ってきた依頼ですもんね。わかりました」
「じゃあ早速現場に行くぞ。お嬢ちゃん、案内してくれ」
「うん!」
「ちょっと待ちな」
これから出かける所に、寝転がっていたはずのゲイルが声をかけてきた。
いつの間にか服装を整え外出用のコートまで着ている。
「オレも行くぜ。可愛い女の子が困ってんだ。助けるのが男の仕事だろ?」
カッコつけているゲイルだが、オレは「テメーがロリコンじゃねーのか!」とツッコミたかった。