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3人目 大きな怒りが身を潰す

 あいつの受けた痛みを知らせてやる。あいつの受けた痛みを、負わせた人間全員に受けさせてやる。あの日から俺は、そのためだけに生きてきた。

 あいつは、等々力や早乙女のグループに殺されたんだ。奴らには最低の死と最悪の痛みをくれてやる。

 俺はあいつと婚約していたんだ。それなのに、奴らは私欲のためにあいつを殺した。だから俺は、復讐と言う私欲のために奴らを殺すのさ。

 次の標的は乾美琴。一番あいつと確執が深かった女だ。乾が他の連中をけしかけた。俺は乾を許さない。


   * * *


 あたしは眼を開けた。開けた、筈だ。

 視界は暗いままだ。これは……目隠し?


 目隠しの所為で、何がどうなっているやら分からない。あたしは今、どこにいるの? それも分からない。どうしてこんな事になっているの? ただ、ブーン、とエンジンのような音がしているのが聞こえた。


『ハァイ、お早う乾美琴サン。聞こえてるかな?』


 どこからか声が聞こえた。加工された声で元は分からない。でも、こんな声が聞こえるって事は、ここは少なくともあたしの家じゃないって事。


『返事がないけど続けるよぉ。君、今の状況を理解……って、してる訳ないか。教えてあげよう。君は今、君の家から数十キロ離れたところにいる。さらに、拘束もされてる。逃げる事は出来ないね』


 確かにさっきから、動きが制限されている。


『さて、今君は、地面に寝転がっている状態だ。それは分かってるかな?』


 分かってる。さっきからお腹が地面についているし、それぐらい目隠しをされていたって分かる。


『そして、君の後ろには、ある機械があるんだ。ま、端的に言うなら「ローラー」、かな。巨大な円筒状の機械が、君の後ろにはある。重さは数トン。でも大丈夫だよ、転がってこなければ君には関係のない話だ。転がってこなければね』


 転がってこなければ。逆に言えば、転がってきたら命の保証はないと言う事だ。そして、そのローラーは機械らしい。それってつまり、仕掛けがあるって事でしょう。


『頭のいい君なら分かってるだろうけど、ローラーは僕の操作で自由に動くようになってる。前後移動だけだが、今の君を踏み潰すには充分だ』


 そう、やはりそうだ。この声の主は、あたしを殺す気なんだ。

 となれば、心当たりは一つしかない。この声の主は、あの事を恨んだ、彼だ。


『さて……恐怖は味わえてるかな? 僕はいつでも君を殺す事が出来る』


 あたしは怖かった。彼だとすれば、絶対に本気だ。本気で殺す気で仕掛けている。今のあたしに逃げる方法はない。


『ま、ずっと喋ってても面白くないな。早速動かしちゃおうか』

「待っ……」


 彼の言葉と共に、ガコン、と何か機械のスイッチが入るような音がした。きっとローラーだ。


『よーし、近付けてみるかな』


 ゴロゴロゴロゴロ……大きなものが転がる音。音源は確実に近付いてきてる。ローラーが近付いてきてるんだ。そう思うと恐怖があたしの背筋を舐める。あたしは身震いした。


『もうすぐ当たるね』



 その言葉とほぼ同時に、あたしの爪先に何かが当たった。そしてそれは、ずかずかとあたしの上に上がりこんで来た。


「あぎゃああああああっ!!!」


 ボキボキッ、と骨が折れる音がした。爪先の感覚がない。完全に砕けてるんだろう。でも、あたしにはそんな事分からない。

 ただ、ひたすら痛い。


 ローラーはどんどん進んでいる。脚が潰されていく。数トンの重さのものが乗っているんだから、当然だろう。


「あああああああああああっ……」


 あたしは悲鳴を上げ続ける。まるであたしの声じゃないみたいにひび割れている。


『一旦止めよう』


 声がそう言ったのはローラーがあたしの腰に乗った辺りだった。


「あ……あなたの目的は、分かってるわ……。復讐でしょう?」

『よく分かってるじゃないか』


 声は即座に応じた。


『そうだ。俺はあの事件に関わった人間全員に復讐をしてる』

「でもあれは……あの子が、由美が悪かったのよ……!」


 あたしがその言葉を口にした瞬間、バンと机を叩くような音がした。


『ふざけた事を言うな!!』


 激昂した彼の声。


『あいつの事を殺したのはお前らだ! あいつは何も悪くなかった! それなのに、あいつを憎んだお前らが殺したんだ!!』

「違うわ! あれは由美があたしたちを脅したからよ! あたしたちは、脅されたから仕方なく―――」

『口封じに殺したんだろう!』


 そう言われ、あたしは押し黙るしかなかった。腰の辺りがズキンズキンと痛む。意識を保っているのも辛い。


『それに、あいつはお前らを脅したんじゃない――お前らを、悪の道から救おうとしただけだ! それなのにお前らは―――!』


 違う、彼女はあたしたちを脅したのよ――そう叫びたいのをあたしはぐっと堪えた。反抗すれば簡単に殺されてしまう。あたしは今、彼の手の上を転がされているんだ。


『……やめよう、こんな不毛な会話は』


 彼は怒りを押し殺した様子で言った。


『こんなやり取りをしていても、腹が立つだけだ。さっさと終わりにしてしまおう』

「待っ、やめて!」


 ボキンと腰の骨が砕けた。


『とっとと死んでくれ』

「ぐあああああああああああっ!!」


 背骨が折れた。――のかしら? もう分からない。痛い。苦しい。こんな事ならいっその事、早く死んでしまいたい。どうしてそんなにゆっくりローラーを動かすの? もっと早く、頭を潰せばいいじゃない!


「ああああああああああああああああああああ……」


 あたしは半ば発狂していた。早く、早く早く殺して。早く潰して!


『もう少しか? ん?』


 ゴリゴリゴリッ。ローラーが前後に細かく移動して、あたしの背骨を粉々にしていく。せめて早く意識を失いたい。なのに、どうしてこんなに頭が冴えてるの!


『さて、そろそろ終幕にしようか』


 早く、早く終わらせて!


『これでボタンを固定しておこう』


 ローラーがバリバリとあたしの背骨を砕いていく。人間は背骨が駄目になると死ぬんじゃないの? どうしてあたしはまだ生きてるの? 早く殺してよ!


 ブツッ、と何かの電源が切れる音がした。


 ローラーがあたしの身体をすり潰していく。


「あぐああああああああああああああいやあああああああああああああああ!!!!!!」


 内臓も潰れた。残っているのは胸から上だけ。


 ぐちゃっと、何かが潰れる音がして、あたしは、やっと、意識を失った。

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