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1. 私の彼氏の頭に兎耳が生えました。

 えーと、私の彼氏の頭に兎耳が生えました。ネタ的には私に生えておかしくないんじゃないかと思うんですけど、何故か彼氏です。あと、ウサギ耳は女子か可愛い系の男の子がいいんじゃないかと思い知りました。犬系とか、そういう、いや、まあ、あいつもあれで犬系だけど、どちらかというとドーベルマンとかブルドッグとかそういうアレだから。


 どう贔屓目に見ても、似合わないから!!


「……どうしたの、それ」

 私がなんだかやるせない気持ちで尋ねると、端的に「生えた」との回答が来たんですけど、笑えません。笑った瞬間に殺されそうで、笑えません。いや、こいつが私どころか女に手を上げるような奴なら、即別れてますけどね。


 事件が起きるような前触れとかイベントは、残念ながらありませんでした。春だったりイベントだったりしたら、そういうネタかと笑い飛ばせたかもしれないのに。


 ……笑い飛ばすのは無理だわ、うん。私にそんな勇気はありません。


 私の苦悩に反して、ヤツの頭上の白くて細長くてふわふわしたものは、ピクピクと微かに痙攣している。動物の耳に詳しくはないけど、たぶんこれ楽しんでるよね。


「けっこう、気に入ってたりするの?」

 私が恐る恐る尋ねると、少し考えてから「わりと」と奴は曰った。


 気に入っちゃうんだ、と私は脱力を隠しきれず、彼に寄りかかり、項垂れる。


「凛桜?」

 気遣うような声掛けに私が顔をあげると、彼の頭上のうさぎ耳はへにょりという効果音が聞こえてきそうなほどに垂れ下がっていた。


 見た目は怖いし、中身も結構怖いけど、彼は案外に弱気な部分もあって、そんでもって、私はそんな部分に一番惹かれてしまっているのだから、仕方ない。


 ため息を一つ吐いて、私は彼のウサギ耳に手を伸ばした。感触は見た目を裏切らない滑らかな柔らかさと温もりで、先日食べた大福を思い出す。そっと撫でると、ウサギ耳が痙攣するさまは、ちょっと面白い。


 面白がって撫でていると、急にその手を取られて、眼前に強面が迫ってきた。


「やめろ」

 ひどく不機嫌な声で、眉間に皺を寄せる様は、慣れていても怖いものだ。だけど、睨んでくる瞳の奥にあるのは怒りではなくて、懇願にしか見えなくて、思わず私は吹き出していた。


「なんで?」

 無言のままの彼に対し、私は空いた手で再び彼の耳を掴んだ。今度は、撫でるのではなく、握って引っ張る。


「っ!」

「せめて黒なら許せるかもしれないけど、これは駄目よ。死人が出る」

「おい、凛桜……っ」

「どうやったら、とれるかな」

 ぐいぐいと引っ張っても、まったく抜ける気配がない。根本から行かないと駄目だろうか、と私が体勢を変えようとした途端、いきなり天地が逆転した。私が彼に押し倒されたのだ。


 交際を初めて一年以上経つが、私と彼は未だにキス以上をしていない。興味が無いわけではないけれど、未知の行為に恐怖する私に配慮してくれているのだ。


「いいかげんにしろ、凛桜」

 よく見るとちょっと涙目だ。いつもの気遣いを忘れるほどに痛かったのか、と罪悪感が私の胸に疼く。


「ごめん、そんなに痛かった?」

 私が彼を見上げて問いかけると、更に不機嫌そうになって、首を振られた。痛かったからでなけりゃ、なんで彼は怒っているのだろうか。しかも、顔を赤くして、強く私を睨みつけてきて。その上、ウサギの耳をまっすぐに立てて、小さく痙攣させている。


 これで怒っていなくてなんだというのだ。


「……龍弥……?」

 不安になって名前を呼ぶと、もっと眉間に皺が寄った。これは、本格的に怒らせてしまったらしい。


「ごめん、もうしないよ」

「そうしてくれ」

 私が謝罪すると、即座に返事が返ってきた。だけど、彼は私を押し倒した体勢のままだ。視線が外されることもなく、ますます睨まれているような気もする。


「……あの、龍弥……っ」

 口を開いた瞬間に、それは襲ってきた。降ってくるとか、生易しいものじゃない。いきなり食べられた気がした。


 今までもそれなりにキスはしてきた気がしたけど、こんなのはない。ただ重なるんじゃなく、舌を絡めとられ、喉の奥まで探られて、息をする暇もない。苦しさに耐えかねて、彼の胸を強く叩いても、開放されるどころか更に深くなるキスに、眩暈がする。


 キスだけなのに、頭の中まで覗かれてかき混ぜられているみたいな気分になって、私は彼の胸に押し付けた手を強く握りこんでいた。


「凛桜」

 やっと開放される頃には、私はもう起き上がることも出来ないまま、潤んだ目で彼を睨みつける以外の手段を持たなかった。


「あんまり、これに触るな。抑えきれなくなる」

 だけど、その後に説明された内容で、私は彼を許さざるを得なくなった。うさぎ耳が性感帯だなんて、私が知るわけ無いでしょうっ。


 もう絶対に彼のウサギ耳には触らない、と強く私は決意したのだった。

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