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link minds blade wards  作者: 柾木藍茅
第一章 alert
4/5

1-(4)協力者

 先日の病院での一件ののち、かくして『戦争』はその幕を開けたものの、いまだどの所持者も動く気配を見せなかった。しかし、所持者の殆どは今現在奏多が住まう一花市に身を置いていることが、幽理の持つ呪詛によって判明していた。

 そして、晴れて後3日に奏多は退院した。その当の本人は、自宅前にて、わずかに戸惑いの表情を見せていた。

「……本当に、うちで構わないんですか。狙われる可能性も、考慮したほうが」

「狙われるも何も、所持者がいるからとはいえ、容易く民家を襲うことはないだろう。仮に、今ここで爆撃音が聞こえたとしたら?」

「…………それもそれで、近所迷惑ですね」

とまぁ、なんやかんやで、やむを得ずしてしばらくの拠点を、奏多の家にすることとなったのだ。

「では、しばらくはうちが住居兼拠点、ということでいいですね?」

「遠慮なく。しばらくは頼む」

 そんな会話を続けながら、どこか趣のある玄関の扉を二人はくぐる。長年、ずいぶんと手入れが入っていたのだろうか、木のにおいが鼻孔をくすぐる。

「……ずいぶんと、広い家だな」

「そうですか?あまりそうには思えないですが」

「それでも前のところよりは、格段に広い」

 開口一番、幽理は自然と本音が出てしまっていた。恐らくそれは、今までのせいで悠長に住まうことを、許されなかったからなのか。それゆえにか、今の時代には珍しい木目の映えた家に、ただ静かに、見入っていた。 

「ところで、今まで幽理さんの拠点って、どういった感じのところだったんですか?」

「……そこを聞かれるとどうしようもないが、ここ最近は廃ビルが多いところだ。酷かったときは廃屋そのものが拠点だった時がある」

「…………意外、でした」

 自然なようで不自然にも思える、そんな会話。それでも、奏多はどこか嬉しそうな、そんな思いだった。

 ふいに、足音が一人分、減ったような気がした。いや、気のせいではなかった。奏多が後方に視線を移すと、庭に正面を向く縁側に、幽理が座っていたからだった。

「あの、幽理、さん……?」

「すまない。どうも一気に、疲れが来たというか、その」

「いっ、今布団出します!」

 とたんに慌てふためく奏多。そんな感じの声を、いつ時か聞いたことがある、そう幽理は思った。しかし、それはとっくの昔に過ぎたこと。もう、聞くことですらできないと、淡々と、自覚する。

「お準備、出来ました」

「……あぁ、すまない」

 緩やかに、しかし億劫に、その腰を上げる。そして、衣擦れの音すら立てずして、黒いコートを脱ぐ。以外にも、白いワイシャツに薄い素材のスラックスという軽装が奏多の目の前で露になる。しかしそこで、何かに気づく。

「幽理さん、首、どうしたんですか」

 一瞬、何を指していったか分からなかったが、遅れて気づく。

 それは、ちょうどうなじから左の鎖骨にまで入った、大きな傷跡だった。

「これ、か。心配はいらない。ただの、古傷だ」

 それだけを言いながら、静かに床へ就いた。


 × × ×


 幽理が寝た後、なぜか奏多は、自然と落ち着いていた。いずれにせよ、まだ自分にはすべきことが多くある。そう、実感していた。そんな時、玄関に取り付けられたインターホンが響く。客人が、来たらしい。いそいそと奏多が向かうと、玄関には、女性が一人、いただけだった。

「あの……?」

「えっと、宮野伸十郎さんのお宅ってここでいいのかしら」

「伸十郎はうちの祖父ですが、何か」

「ふむ、ビンゴ」

「はい?」

「いや、別に不審者ってわけじゃないのよ。貴方が、宮野奏多ね」

「……………………まさか」

「そのまさかってとこかしら」

 着こなした紺色のフォーマルスタイルの似合ったその女性は、愉しげに、自らの名をかたる。


「私は愛宕李。麻桐幽理の協力者だって言ったら、理解してくれるかしら」


 × × ×


「成程。まだ私たちのこと言ってなかったわけ、アイツ」

 どういうわけか、結局は類は友を呼ぶというべきなのか、奏多は李を家の中に入れることとなった。綺麗め系の整った顔と、栗色の少しウェーブのかかったミディアムの髪の毛は、どこかスタイリッシュな一面を与えていた。

「はい。まさか、協力者がいるとは思ってなかったので」

「後でアイツ、シメようかしら」

「そこはだめです。でも、協力関係ってことは、付き合いは相当では」

 言われた途端、僅かに考え込むような仕草を見せ、

「まあね。かれこれ30年ほどかしら」

 若い外見によらず、単純に、しかしこれもやはり理解しがたい結論を出した。

「……もう、理解の範疇に及びません」

「まあ、理解しなくてもいいわよ。結末が結末、仕方ないことこの上なしだもの」

 やはり、ここまで来るとなれというものがあるのだろうか、李はどこか楽しげに笑う。そんな中で、奏多にはある疑問が浮かんだ。

「そうなうと、李さんも所持者ってことになるんですよね」

「ええ」

「だとしたら、もう一人、いるはずですけど?」

 李が目を丸くする。どうやらこれには虚を突かれたようだ。

「そろそろ帰るけど、いろいろ教えとくわね。私の相棒の名前は愛宕柚。私の双子の弟よ。ちなみに訳ありで今回の『戦争』は参加自粛。あともう一つ」


「あまり幽理の過去には触れない方がいいわ。あれはあれでとんでもない黒歴史の塊だから」


「……一応、肝には命じときます」

「よろしい。じゃあまたね、奏多ちゃん」

 どこか悪戯げに、しかし緩やかに、李は奏多の家を後にした。

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