*7*
「あなたに魔法の才能は無いわね」
魔女は宣告した。
「・・・弟子にする前に言って」
少女が魔女を睨みつけた。
「あら嫌だ。才能が無いと言っただけで使えない訳じゃ無いのよ」
ほほほ、と相変わらず魔女は軽やかに浮遊している。
少女にとっては鬱陶しいだけだろう。
「才能は無い。でも魔力はあるのよ」
「で?」
「だから努力でカバーしなさい」
他人事のように言って、魔女は大量の本を積み上げた。
「才能溢れる私には無用だったけれど凡人のあなたには必要でしょう?」
「・・・・それはどうも」
いちいち勘に触る魔女の言葉に多少の機嫌の悪さを見せつつも少女は無表情でそれらを受け取った。
努力することに抵抗は無いらしい。
少女の座るテーブルの脇に積み上げられた山から一冊取り上げる。
「それは火の属について書いてあるわ。きっとあなたと一番相性がいい」
「・・・わかるの?」
「燻るのは闇の炎。照らすは聖なる光。天地を貫き永久に」
魔女の言葉は時折意味不明となる。
予言なのか言葉遊びなのか判断が出来ない。
少女は無視して本に目を戻した。
魔女に弟子入りしたからといって、何かが劇的に変わったわけでは無い。
ただ少女は時間を見つけてはそっと塔にやって来て、城の図書室にも置いていないような魔術の本に目を通す。その本の数は何処に仕舞われているのかもわからないほど膨大で、果たして読み終えることが出来るのかもわからない。
だから努力しろと言うのならば、そうするしか無いのだろう。
一刻たりとも無駄にすることなく、読み続けるしかないのだ。
目的を果たすために。
「まあ姫様っ!こんなところにいらっしゃるなんて!御髪に草がついてらっしゃいます」
塔からそっと抜け出して、草をかきわけた先の庭でアニーに見つかった。
「隠れ鬼でいらっしゃいますか?」
草をつけた様子の少女が面白かったのだろう、思わずといった様子でアニーが笑いを漏らす。
少女は首を傾げた。
「そうですわ。ユーリア様がお探しです」
「・・・・・」
「成人の儀が近うございましょう。そのお衣装選びをしたいのだそうです」
ますます少女は首を傾げる。王女の成人の儀式に少女は全く関係が無い。・・・はずだ。
少女の疑問にはアニーが答えてくれた。
「花束を渡す役の少女をシェーラ様がなさるので、お揃いで衣装を揃えたいのだと仰って」
「・・・・・」
「・・・お伝えしていませんでしたかしら?」
全くもって。
無表情で不機嫌になるという器用な特技を披露しながら、少女は容赦なく連行された。
「シェーラ!もう何処に行っていたの?」
部屋に入るなり腕を引かれて、長椅子に掛けさせられた。
その隣にユーリアが座る。
目の前には色とりどりの布が散乱していた。
「次はそれを見せて下さる?」
戸惑う少女も何のその。王女は商人らしき相手に指示を出す。
「・・・そうでん。デザインはそれでいきましょう。色は・・私とシェーラでは似合う色が違うから別々にしたほうがいいわね」
そして今度は色の選定に入る。
次々と自分で決めて行くユーリアの隣の少女は何もすることが無い。
「この青色はどう?シェーラによく似合うのではない?」
「ええ、お似合いですわ」
「ではこれにしましょう。私は・・・やはりこの赤かしらねえ」
シックな赤色は王女の鮮やかな赤髪を更に際立たせるだろう。
「シェーラはどう思う?」
問いかけに少女は、こくりと頷くばかり。
あれもこれもと、何故か式典以外のドレスも注文され、少女の瞳は知らず閉じていた。
「あら、眠ってしまったの?」
「姫様はあまりご興味がございませんから退屈だったのでしょう」
「・・・まだまだ子供ねえ」
そう言う王女の顔は微笑ましそうに笑っていた。