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ジハード  作者: みかど
6/23

*5*




 部屋に戻った少女は絶妙のタイミングで現れたアニーに身包み剥がされた。

 あと一歩遅ければ出歩いていたことがバレていたかもしれない。


「姫様。隣国からの御使者がいらっしゃるそうです」

「・・・・・」

 それで王子も王女も忙しく立ち回っていたのだろう。

 だがそれが少女にどのような関係があるのか。姫とは名ばかりの居候に。

「あら。そのような顔をなさって。姫様も鳳凰の間にいらっしゃるのですよ」

「・・・・」

 少女は首をかしげ、そしていやいやと首を振った。

「駄目ですよ。陛下と殿下のお言葉ですから」

 人前に出ることを極端に忌避する少女に、それではいかんと事ある毎に王と王子は引っ張り出そうとする。本気で嫌がれば渋々折れる二人なのだが今回ばかりは効かないらしい。

 アニーは準備万端でドレスを抱えている。

 少女は嫌そうに大きな溜息をついた。











 広間に姿を現した少女の姿に、一瞬の沈黙が落ちる。

 誰もが少女に視線を飛ばし、様々な思惑を孕ませる。

 名ばかりの王女とは言え『王女』であることに変わりは無い。ましてや王も王子も分け隔てなく接するのを目にすれば。


「シェーラ。よく似合うよ」

 王子の言葉に僅かに頭を下げる。

 アニーが少女のために用意したドレスは白を基調として、紫のフリルで飾られていた。

 少し大人っぽい雰囲気もあるそのドレスは少女の黒髪をより美しく見せた。

「いつもよりずっと大人っぽくて素敵ね!」

 ユーリア王女も少女を囲む。

「殿下方、どうぞこちらへ」

 宰相が王の元へ王子たちを招く。

「揃ったな。我が子供たち」

 穏やかに王が笑っている。その隣の王妃の席は長らく空席だ。

「そうして三人揃っていると下手な絵画を見るより眼福だな」

 王子は母親譲りの金髪、王女は王譲りの燃えるように赤髪、そして少女の漆黒のような黒髪。

 容姿を褒められた王子は軽く頭を下げ、王女はにこりと笑い、少女の表情は動かなかった。

「さて、お前たちにアルカーナの使者殿を紹介しよう」

 王の言葉に待ってましたと使者が進み出る。

 その中の一際派手な衣装を身に着けた女が第一声を発した。

「お目にかかれて光栄ですわ、イルシオン殿下。魔王を打ち倒した高名はわが国にも響き渡っております」

 女の目は獲物を狩る狼のように飢えていた。

「それは恐縮です。しかし魔王を倒すことが出来たのは私の力だけではありませんから」

「まあ謙虚でいらっしゃる」

 ほほほと笑い声をたてる様に、ユーリア王女の眉が寄る。

 使者だというのに高飛車な態度の女は誰なのか・・・恐らくはアルカーナの王女あたりだろうと見当をつける。

「改めまして。私、アルカーナの第一王女リリアーナにございます」

 礼儀作法にのっとってドレスの裾を持ち上げ頭を下げる・・・王子だけに。

 ユーリア王女の顔が明らかに不快そうに歪められた。

「此度は貴国と我がアルカーナの親善を深めるために参りました」

 貴国というよりは『貴方』と親交を深めたいのだとリリアーナの目は訴えていた。

「遠いところをわざわざお越しいただきありがとうございます。わが国に名物というものはそう多くはありませんが美しい国です。どうぞ楽しんで行って下さい」

 王子はリリアーナ王女の訴えを軽く無視して、外向け用の笑顔を貼り付けている。

「よろしければ殿下に案内をしていただけませんこと?」

「残念ながら、先約がありまして。翌日より軍の演習に出ることになっております」

 王子の肩書きには軍の総統というものがある。その名の通りこの国において軍の最高指揮官である。

「まあ・・・それは残念ですわ」

「申し訳ございません」

 しかし何事もトップが動くというのはあまり無い。

 軍の演習があると言っても、王子がするべき役割はその計画と結果の報告を受けることだ。

 つまり、王子が演習に出るなどただの断る口実だ。

 そんな事情など察することが出来ないリリアーナ王女は額面通り受け取って落胆している。

 これで柄が悪ければ舌打ちでもやりかねない雰囲気だった。

「代わりと言ってはなんですが、妹が貴方の案内を致しましょう」

「は?」

 予想だにしない飛び火にユーリア王女の顔が盛大にゆがんだ。

 その顔が『誰がこんな女の相手など。冗談ではない!』と叫んでいた。

「こう見えても我が国の一軍を率いるもの。護衛としても打ってつけでしょう」

「ああ、それは良いな。女同士にしかわからぬ話もあろう。年頃も同じ頃であるし。どうかなリリアーナ王女?」

 王にまで言われてはユーリアもリリアーナも断る術を持たない。

「ま、まあ頼もしいですわ。よろしくお願い致しますね」

「・・・武人ですので気のきかないところもありますが、私でよければ」

 二人の王女は互いに微妙な空気を抱きながら微笑みあった。



「シェーラ。明日は空けておくんだよ」

 こっそり王子が耳元で囁いた。




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