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じっと少女は魔女を見上げていた。
己の言葉がどのように届いたのか、魔女がどのように反応するのか見定めるように。
「弟子?私の?」
さも面白いことを聞いたとばかりに目を丸くし、軽やかな笑い声をたてる。
「・・・何がおかしいの」
「おかしいわ、おかしい。この私にそんなことを言うなんて。知らないの?私は予言の魔女よ」
「・・・・・」
少女の顔に訝しげな色が浮かぶ。
少女が知っているのは、この塔には破滅を招く魔女が封印されていることだけだ。
それが『予言の魔女』と呼ばれているのかは知らない。
だから。
「知らない。でもあなたは魔女でこの世界を滅ぼすほどの力を持っているんでしょう?」
少女の言葉に魔女はまた笑う。
「世界を滅ぼしたいの?」
「・・・いいえ」
「おかしいわ。世界を滅ぼす気は無いのに滅ぼす力を求めるの?」
「世界を滅ぼすほどの力が欲しいから」
じっと少女と魔女の視線がぶつかりあう。
どれほどの時間、見詰め合っていたのか。
「良いだろう。運命の娘」
魔女の声のトーンが変わった。低めに、腹の底から響くような声に。
「お前の思惑如何によらず弟子にしてやろう」
朱唇がにやりと歪み、背筋が凍るような不気味さが増す。
「ただし」
「・・・・・」
「私の言う条件が呑めれば、よ」
再び魔女の声が軽いものに変わる。
「・・・何?」
「先には言えないわねえ」
聞かなければ弟子にはなれない。聞けば後には退けない。
「私の目的を達成する障害にならなければ、呑んでもいい」
「心配いらないわ。ちょっとしたお願いだもの」
宙に浮いていた魔女が少女の傍に下りてくる。
そして内緒話をするように耳元に口を寄せ、囁いた。
「・・・・・」
「ね?簡単なことでしょう?」
ふふふと少女の反応を楽しむように魔女はその周囲をふわふわと回り始める。
「もちろん貴方が目的を達成した後で構わないわ」
魔女が何を言ったのか。
少女は変わらず固い表情で自分の周りをぐるぐると回る魔女を見つめた。
その中に何か罠が隠れているのでは無いかと見定めるように。
そしてゆっくりと目を瞬いた。
「その条件で、良い」
パンッと何かが破裂したような音がして、少女に無数の白い花びらひらひらと舞い落ちる。
「取引成立ね!」
最後にくるりと一回転した魔女が、少女の目の前に降り立った。
「改めて自己紹介しましょう!私は予言の魔女。グリンダよ」
貴方は?と魔女が首を傾げる。
「私は・・・」
少女の瞳に一瞬迷いが浮かぶ。
「サラ。そう呼ばれてた。・・・本当は違うけれど」
「いいわ。じゃあ貴方のことは”サラ”と呼ぶわね!」
こうして少女は魔女の弟子となった。