*17*
国軍5千と反乱軍7千。
反乱軍には王弟の私兵以外に彼に与する貴族の私兵が加わっていた。
「・・・数的には不利ですね」
斥候から齎された情報を元に王子の天幕には国軍を率いる主要なメンバーが揃っていた。
王子と副官、国軍三軍と四軍の将とその副官である。
「予想していたことだ」
卓を真ん中に全ての人間が立っている。緊急時にすぐに動けるように。
「そうは仰いますがな、殿下。数的不利は甘く見てはなりませんぞ」
「フィアース将軍。甘く見ているのでは無く、私は皆の力を信じているのだ」
今回率いる三軍と四軍は実力が3番目、4番目という訳ではない。国軍はその数字によって役割が違うだけで実力は同じだ。劣る者は入ることさえ出来ない。
「人を乗せるのが相変わらず上手いですなあ」
「スインドラ将軍。国随一の魔術の使い手である貴方には大いに期待している」
「仰せのままに」
魔術部隊である第四軍を率いる将軍は恭しく王子に頭を下げた。
「しかしけしからんっ!反乱軍に味方する者がおろうとはっ!」
「腐っても王弟殿下ってことだろう」
激昂するフィアース将軍をスインドラ将軍がどうどうと宥める。
質実剛健、曲がったことが大嫌いなフィアース将軍の大柄な体は怒ると一回り大きく見える。
「そう。叔父上は決して愚か者では無い。全く勝機が無い状況で剣を抜くほどな。ゆえに皆にも苦戦するだろうことは覚悟して貰いたい」
「仰られるまでもなく全力で相手を致しましょう」
「遠慮なく全魔力叩きこんでやりますよ」
王子は二将軍の言葉に微笑んだ。
「頼もしい。二将軍が揃えば私は安心して後ろに控えていられる」
「何の我らこそ殿下が控えて下さるからこそ何も背後の憂いなく戦うことができますぞ」
「そうそう。結局『勝てない』なんて一言も仰らないんですからね~」
これから戦に臨むというには明るい雰囲気だった。
「それでは三軍はこれより陣形を整えますゆえ失礼致します」
「よろしく頼む」
「畏まりました」
胸に手をあて頭を下げるとフィアース将軍は颯爽と出て行った。
残ったスインドラ将軍は副官たちを下がらせ、王子と二人きりとなった。
「殿下。王弟殿下の反逆、何かおかしくないですかね?」
「というと?」
「はっきりした根拠ってのは無いんですが、何かね・・・まあ魔術師の勘ってやつですか」
魔術師といっても国軍に所属する者はある程度の剣の腕も求められる。そのせいかスインドラ将軍も一般に想像する魔術師というよりは剣士に近く、体格も王子に劣らない。剣士と違うのは魔術師の常で赤髪を伸ばしていることか。
「勘か。・・・私もそう思う」
「お、そうですか」
「勝機は低いうえ、叔父上に利はほとんど無い。だが向かってくるものに迷っている暇は無い。・・・注意は怠らぬ」
「ですなあ。少々不気味ですよ」
「気をつけることだ」
「御意」
そしてスインドラ将軍も天幕を出て行った。
「・・・様、姫様っ」
少女の目の前でアニーが呼びかけていた。
「このようなところでお休みになっては御体に悪うございますよ」
少女はこくりと頷きソファから立ち上がった。
アニーの言葉のように少女は眠っていたわけでは無い。遠く意識を飛ばして戦場の様子を伺っていた。
国軍も王弟軍も一触即発。
数的にも地の利もあるのは王弟の側。だが精鋭を揃え勇者を擁する国軍の強さはそれを凌駕する。
少女はバルコニーに出ると戦場の方角へ視線を向けた。
「兄上様がご心配ですか?」
アニーの問いかけに首を振った。
「まあ。姫様は兄上様を信頼なさっているのですね。そうですわ。殿下はかの魔王さえ倒された当代随一の騎士なのですから」
少女の小さな手がぎゅっと握り締められた。
『サラ』
『だからっ!沙耶だって!!さ・や!』
『だから。サラであろう?』
『・・・・リンのバーカっ!!』
「お前が魔を呼ぶ姫か?」
呼びかけに視線を下ろせば一人の男が立っていた。
近しい者しか近づけないはずの離宮で、男は見慣れた兵士の格好ですらない。
少女は特に何の反応もかえさず男を見下ろしていたが、階下の手すりに手をかけるとそのまま垂直に飛び上がった。
そして少女の目の前に居た。
かなりの高所を脚力だけで飛び上がるとは、尋常ではない。
「見事な魔の色だな」
頤をつかまれまじまじと目を覗き込まれる。
ゆえに男の真っ赤な瞳もよく見えた。
「姫様っ!!・・・誰ぞっ!!曲者がっ!!」
アニーが叫び、静かな離宮が一瞬のうちに喧騒に包まれる。
「痴れ者がっ!」
短刀をかざしてアニーが突っ込んでくる。
「勇猛だな、侍女殿」
男は容易くアニーの手首を掴み、短刀を奪う。
「くっ・・・姫様っ!お早くっお逃げ下さいっ!!」
「その必要は無い」
「失礼しますっ!!曲者とはっ・・・!?」
離宮の警護に当たっていた兵士たちが部屋に突入してくる。
そこで手首を男に拘束された侍女と、無表情で佇む少女を視界に入れる。
「早くっ!この者を取り押さえなさいっ!!」
「え、いや・・・」
アニーの叫びに何故か兵士たちは戸惑うような視線を向ける。
「何をしているのですっ!!」
「だからその必要は無いと言っているだろう、侍女殿」
「・・・・」
アニーは叫ぶのをやめ、男を見上げる。
「・・・何者です?」
「申し遅れたが、殿下よりこの離宮の警護を命じられた第六軍が将ラスカーだ」
「・・・将、軍・・・?」
呆然と呟くアニーに頷くとラスカーと名乗った男は拘束していた腕を解き、少女の前に膝をついた。
「初めてお目にかかります、姫君。これより御身をお守りする者、見知り置き下さい」
やはり無反応な少女に構うことなくラスカーは小さな手をとると甲に口づけた。