*13*
本宮は有能な魔術師たちが張った結界で覆われ、魔の侵入の一切を防いでいた。
そのことは魔物の侵入と恐慌状態に陥ろうとした貴族たちを落ち着かせ、わずかばかりの余裕を生み出した。
そうすると自然と視線は異分子へと向けられる。
つまり『魔』の色を持つ少女へと。
彼女のことを詳しく知る者は無い。養女となったことを知らせた場以降、少女が社交の場に出てきたことは無かった。ひたすら王族しか出入りの出来ない離宮に居て接触も出来ない。
もしや養女としたのは擬態で、『魔』の物を監視していたのではないか。
今回の魔物の侵入は少女が居たからこそ起きたことではないか。
人々は疑心暗鬼に囚われる。
疑うような、厭うような・・・刺すような視線が少女へと集まる。
だが椅子に座った少女は相変わらずの無表情で、魔の存在に騒ぐ様子も人々の視線に動じる様子もなくただ変わらず人形のように座っている。
それが異様だった。
「きっと・・・魔物よっ!」
金きり声で誰かが叫んだ。
一瞬静まりかえった広間がざわめく。
人々は責めるよに少女を見、続けて誰かが叫ぶ。
「このままであれば私たちも襲われるぞっ!」
男の甲高い声が響く。
ざわめきは一層酷くなる。
見るからに非力な少女に向けるには憚られる非難はパニック寸前の群集には通じない。
「騎士たちっ!何をしているっ!さっさとあの魔物を排せよっ!」
「この国がどうなっても良いのっ!?」
周囲に立っていた護衛の騎士たちに動けと群集は叫ぶ。
しかし彼等は戸惑いはしても動くことは無かった。彼等と群集の違いは彼等を統率する王子が少女を実の妹と同等に扱っていることを知っているか否か。
「ええいっ!この腑抜けどもめっ!!」
怒りに赤く顔を染めた貴族の若者が騎士の一人に詰め寄り、腰に下げている剣を遣せと命じた。
「いけませんっ」
「騎士ごときが私に逆らうかっ!」
傲慢な物言いは自分が正しいと信じているからなのか。
若者は剣を奪うと少女に向かって突進した。どこかで悲鳴があがる。
「邪悪なる魔物よっ!滅びよっ!!」
鞘から抜き放たれた白刃が広間の明かりを反射し輝く。
少女は無表情のまま、身じろぎもせずその刃を見つめ続けた。
誰もが少女の死を予感したその瞬間。
貫くはずの剣は、鈍い音と共に宙を舞った。
「王族へ剣を向けるは反逆。どのような反論も意味は無い」
王子の厳しい目が若い貴族を貫いていた。
「う・・・・」
う゛わあぁぁぁぁっっ!!と腕を押さえながら叫び声をあげ、その広間を転げまわった。
その貴族の傍らにぼとり、と落ちてきたのは。
剣を握った己の手。