*12*
離宮と本宮の間には庭園がある。
そこで阿鼻叫喚の惨事が繰り広げられていた。
人の4、5倍ありそうな魔物の容貌は赤黒く醜怪で異臭まで撒き散らしている。
幸いなのは、その巨体を生かして暴れる以外に能が無さそうなところか。
だが通常予測できない腕の長さや動きに兵士たちは苦戦している。城壁付近で座り込んでいるのは大方その腕によって殴り飛ばされた者だろう。
胸のプレートが陥没していることからもその怪力さが伺い知れる。
ユーリア王女が距離をとって四方より攻め込むように指示を出しているが、浮き足だっている兵士たちはろくな動きが出来ていない。
王女の式典用の衣装はすでに無残な様だ。
「魔術師たちはどうした?」
近くに居る兵士に王子は声をかけた。
「何かあってはならぬと本宮の警備に・・・」
王子は無言で頷いた。今まさにここでその『何か』が起こっているのだが。
居ないものを強請っても仕方ないと諦めたのか、王子は腰の剣を抜き眼前に構えた。
勇者という名は伊達では無い。
その瞬間に纏った覇気に暴れていた魔物が視線を動かした。
「お兄様っ!」
叫ぶ王女に下がるように指示を出す。
兵士たちも魔物から距離をとる。彼等も王子の強さを十分に知っている。
「はっ」
息を吐いた王子は、炎をまとった剣で魔物に斬りこんでいく。
魔物も地響きをたて、王子を押しつぶさんと腕を振り回す。
それを難なく避け、その腕を蹴って飛び上がり魔物の顔面に剣を叩き込む。
GYAAAAAAAA!!!!!
一つしか無かった目玉を潰され、魔物は苦痛と憤怒にいっそう激しく暴れだした。
しかしすでに王子は背後にまわり、足に剣をつきたてた。
再び魔物の叫び声があがる。
炎の剣は魔物の肉を灼き、何とも言えない異臭を撒きちらす。
だが王子は容赦することなく、今度は膝をついた魔物の腕を根元からぶった切った。
これで魔物の動きの半分以上は封じたことになる。
最後の抵抗とばかりに魔物は残った片手を無茶苦茶に振り回すが、すでに動きを見切っている王子は剣の炎を消す。一瞬元の鋼の色を取り戻した剣は、すぐに根元から光に覆われて行く。
これこそが王子を勇者たらしめる魔の者を屠る光の剣。
その剣を袈裟懸けに払い、露になった魔物の心臓に突き立てた。
UGYAAaaAAAA!!!!!!
魔物は断末魔の声をあげ、その命の火を消した。
後に残るのは骸のみ。
「・・・ば・・・万歳っ!王子殿下万歳っ!!」
「我らが勇者王子万歳っ!!」
兵士たちでは手も足も出なかった魔物をいとも容易く倒してしまった王子に賞賛の声が上がる。
「お兄様・・・」
「大丈夫か?・・酷い格好だな」
「・・・仕方ございませんでしょう」
苦笑した王子にユーリア王女が憤慨したように顔を膨らませる。
「良いのでは無いか。剣士であるお前には相応しかろう」
だがその言葉にすぐに口元を綻ばせる。
姫である前に剣士であると自負する王女にとって何よりの賞賛だ。だがすぐに厳しい表情で周囲を見渡し兄王子を見上げた。
「シェーラはどうなさいましたの?」
「本宮の広間だ」
「まあっ!置いていらっしゃいましたのっ!」
「さうがにこの場に連れて来るわけにはいかない」
「ですけれど本宮に放置など・・っまずいですわ!こんなことをしている場合ではございませんっ!!」
王女にとって少女は庇護の対象である。
「そうだな、早く戻ってやろう。お前の成人の儀も始まっていない」
「・・・この格好でよろしいかしら?」
「仕方ないのでは無いか?」
「そうですわね!」
王女付の侍女たちが聞けば悲鳴をあげそうなことを言いながら王子と王女は本宮に向かった。
誰も気づいていない。
魔物の骸から魔の根が根付こうとしていたことを。