*11*
本宮の大広間にはすでに人が集まり、真ん中を開けて両脇に整然と並んでいた。
少し遅れてやってきた王子と少女は否が応でも目だってしまう。
視線が集中するのが肌で感じられる。
きっと以前の少女であったら俯いてしまっただろう。
だが、誰がそんな弱いところを見せるものか。
少女に後ろめたいところも恥じるところも何も無い。
黒髪に忌避するような視線を投げかけようと、幼さに侮蔑を投げかけられようと。
全てはこの隣を歩く勇者のせいなのだから。
王子は玉座の前に着くと膝を折って、父でもある王に挨拶をした。
少女もそれに習う。
「よくぞ参った我が誉れの子、わが国の勇者イルシオン」
「過分なるお言葉、光栄にございます」
「何を言う。そなたの英名を知らぬ者などこの国にも諸国にもおらぬ」
「恐れ入ります」
「姫もよう参った。話は常々二人より聞いておる」
王子の取り成しとはいえ、どこの馬の骨とも知れぬ少女を養女に迎えた王は快活に笑っていた。
少女は小さく頭を下げた。
二人は王より一段下に用意されていた席に腰掛ける。
いよいよ本日の主役の登場だ。
だが。
少女は無表情でその時を待つ。
「た・・・大変でございますっ!!」
荒々しく広間の扉が開け放たれた。
駆け込んできた兵士の尋常でない様子に、まずは両脇で控えていた貴族たちが騒ぎ出す。
今にも兵士が開け放った扉から逃げ出しそうな様子だ。
「如何した!」
しかし王子の大喝に広間は静まり、兵士が駆け寄ってくる。
「報告致しますっ!・・・魔物が、現れてございますっ!!」
王子の顔が厳しく顰められる。
「王宮内か?」
「はいっ・・王女殿下が防いでおられますっ!!」
それだけ聞くと王子はさっと王を振り返り、頭を下げた。
「行って参ります」
「うむ」
王の表情も厳しい。
有り得ない、そう言いたいのだろう。
堅牢な結界に阻まれた王宮には魔物が入り込む余地など無い。・・・はずだった。
魔王を倒し弱体化したとはいえ全ての魔族、魔物が消えうせた訳ではない。むしろ魔王を倒した勇者が居るこの国は魔の者たちにとって仇敵とも言える。
そのために万全の体制を敷いていた。
「シェーラ。決してここを動かないように」
王子は言い含めるようにそう言うと、人々の間を颯爽と駆けていった。
無表情であることをこの時ほど少女は感謝したことは無い。
もしそうでなければ、こみ上げる笑いを我慢出来なかっただろう。
復讐は始まっている。
これはちょっとしたご挨拶。
これから始まる劇の幕開けに相応しい。
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